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弁護士雑感

【弁護士雑感】遠方裁判所での訴訟活動

 当職ブログ「お城と裁判所」でも述べましたとおり、当事務所では大変ありがたいことに大阪・さらには近畿圏関西圏にとどまらず、全国からご相談・ご依頼をいただいており、当職も大阪地方裁判所管轄以外にも日本全国の裁判所へと出向かせていただいております。

 もちろん、事案の性質上地元の弁護士を探される方がご相談者の最大利益となるようなケースでは、当職からご相談者にその旨アドバイスを差し上げることも多いのですが、それでも当職(ないし当事務所)へ依頼したいとおっしゃっていただけることも多く、そのような場合には喜んでお受けさせていただいている次第です。

 さて、日本全国の裁判所へ出向くことがあるとはいっても、何も毎回毎回その裁判所へ出向いているわけではありません。

 現行の制度の下では、口頭弁論期日をはじめとし、少なくとも裁判期日に弁護士が出頭する場合には事務員などに代わりに行かせることは許されず、弁護士が自ら裁判所へ出向かなければならないのですが、それでもいくつかある制度を活用し、また活用してくれるように裁判所に上申するなどの方法により、弁護士が直接裁判所へ出向く機会を減らすことが可能であり、その分だけ依頼者の経済的な負担(遠方への交通費などだけでも馬鹿になりません)を減らすことも可能なのです。

 そこで、以下では少しこのような「遠方において出廷しないで裁判手続きを進める方法」について、その一例をお話してみようと思います。

1 弁論準備手続きにおける電話会議システムの利用

 弁論準備手続きとは、訴訟における期日の一類型であり、原則として非公開でおこなわれる準備手続きのひとつです。

 この弁論準備手続きは口頭弁論期日とは異なる点も多いのですが、その中に「一方当事者は出頭せずに電話会議システムにより手続きを行うことができる」というものがあります。

 もちろん、当事者が両方とも出頭しないという場合にはそもそも、この弁論準備手続き期日自体を開催することができませんので、どちらか一方は出頭しなければなりません。

 また、実際に出頭するのはどちらかということになると基本的に近場のほうが出頭を求められることが多いのですが、遠方であっても原告側は出頭を余儀なくされることもあります。※

 とはいえ、弁論準備手続きと電話会議システムを活用することにより、訴訟の期日の大部分を出頭なしで行うことができるようになるということは、訴訟を利用する方の負担を大きく軽減することができる制度であるといえるでしょう。

2 書面による準備手続きにおける電話会議システムの利用

 書面による準備手続きとは、訴訟における期日の一類型であり、原則として非公開で行われるという点では弁論準備手続き期日と似ています。

 また、書面による準備手続きは、弁論準備手続きと異なり、当事者双方が裁判所に出頭しないままで、電話会議システムなどを用いて争点整理などを行うことのできる手続きです。

 ただ、書面による準備手続きは、双方当事者の表情や態度などの確認ができないため、裁判所にとっては真実発見や適切な訴訟指揮の難度が高くなるという側面を持っています。そこで、一部の裁判所では書面による準備手続きは裁判長でなければ取り扱えないこととされるなどしており、あまり活用されているという印象はありません。

3 進行協議期日という名目での電話会議システムの利用

 進行協議期日とは、訴訟における期日の一類型ではあるのですが、今後の訴訟進行についてこれを円滑なものとするために事実上開催される協議期日のことです。

 進行協議期日は、弁論準備手続きなどに認められている訴訟上の効果というものが認められておらず(争点整理や証拠調べなど)、通常の訴訟期日とは異なるものということができます。

 また、請求の放棄や認諾、訴えの取り下げは可能なものの、訴訟上の和解についてはこれができないとされています。

 ただ、実際の訴訟においては時として裁判官がこれを活用しており、例えば双方当事者がともに遠方であるなどの事情がある場合に、進行協議期日の扱いとした上で、電話会議システムにより事実上の争点整理や審理のようなことを行ったり、あるいは「裁判外での和解成立→訴えの取り下げ」という方法による和解的解決を図ろうとすることもあります。

4 簡易裁判所における擬制陳述の活用による方法

 当事者が法廷に出頭しなければならないというのは民事裁判の原則ですが、簡易裁判所においては擬制陳述という方法が広く認められており、必ずしも当事者が出頭しなければならないというわけではありません。※

 そのため、簡易裁判所での訴訟の場合、理屈の上では擬制陳述を活用することにより出頭しないままでの訴訟進行も可能となります。

 もっとも、いかに簡易裁判所での訴訟であっても、当事者双方が出頭しない(双方ともに陳述擬制を行おうとした場合など)ことにはそもそも口頭弁論期日を開くことができません。

 このような場合、擬制陳述を行う場である口頭弁論期日そのものが開けないので、結局擬制陳述を行うことができませんので、訴訟は進まず、このままでは却下により終了してしまうということになります。

 このような結論になって困るのは請求している側(原告)ですので、簡易裁判所での訴訟であっても事実上原告は出頭しなければならないということがいえるでしょう。

5 家事調停における電話会議システムの利用

 離婚調停や婚姻費用分担調停などのいわゆる家事調停においては、裁判所の管轄は「相手方の住所地」です。

 ここで「相手方」とは調停を申し立てられた側(申し立てた側は「申立人」といいます)のことです。

 そのため、離婚紛争で別居中に相手方が転居してしまった(例えば妻が実家へ帰ってしまった。夫が転勤してしまったなど)場合、それが遠方であっても、相手方の住所地で調停を行わなければなりません。

 また、「調停」には従前「訴訟」のように電話会議システムを採ることが認められておらず、このことが家事調停を申し立てようとする方に過大な負担を課すものとなっていました。※

 もっとも、昨今法律の改正により、家事調停においても多くの場面で電話会議システムの活用が認められることとなり、一部の例外はあるものの、上記のような遠方申立人の負担は大幅に解消されるに至っています。※

 以上のように、遠方裁判所で訴訟や調停などの裁判手続きを行うにあたっては、負担軽減のための方法がいろいろとあります。

 もちろん、事案の性質や訴訟の進行具合などによっては、直接裁判所に出頭して裁判官や相手方代理人の顔を見ながら訴訟活動を行うということが非常に大切になってくる場合もあり、単に遠方であるという理由で安易に上記のような方法を採ることがお勧めできるわけではありません。

 ただ、このような遠方で裁判を行うということについて、その負担を軽減するための制度が存在しているということをご理解いただけていれば、本来の権利行使や被害救済について、裁判手続きの利用を躊躇することが少なくなるのではないかと思います。

※1 理屈上は被告が出頭してもよいのですが、被告は出頭しなくても損をすることがないため、事実上は原告が出頭しなければならないといえるでしょう

2 地方裁判所での民事訴訟においても、被告の初回の答弁書などについてのみは擬制陳述が認められていますが、地方裁判所では2回目以降は擬制陳述は認められていません

※3 例えば大阪在住のご夫婦で、相手方が別居を敢行して札幌の実家へと帰ってしまったなどという場合、離婚調停等は札幌で申し立てなければならないことになります。

※4 とはいえ、離婚調停の場合には調停成立時には双方の出席が必要ですので、調停が成立するという前提で考えれば少なくとも一度は遠方まで出向かなければならず、完全に負担が解消されているとはいえません。

<弁護士 溝上宏司>