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弁護士雑感

【弁護士雑感】証拠としてみた「録音」について

 最近、国会議員と秘書との間のパワハラをめぐるトラブルなどで、秘書が録音していた「音声データ」が報道されるなど、会話のやり取りなどを録音したデータがなかなかに注目を集めているように思います。

 しかし、この「録音」データというものは、証拠としてどのように活用することができるのかという観点からみると、意外と知られていない点があるように思います。そこで、今回はこの「録音」データに関して少しお話をしてみたいと思います。

1 録音過程について

 法的な紛争を抱えておられるご相談者が「録音データ」を持ってこられるとき、相当程度の頻度でそれは相手方の承諾を得ることなく録音された、いわゆる「秘密録音」であるといえます。

 これは、請求する側の方からのご相談であってもそうですし、逆に請求されている側からのご相談であってもそうです。

 このような場合に、よく質問を受ける事項に「相手方の同意がなく録音された録音データは違法である。違法収集証拠なので証拠として使えないのではないか。」というものがあります。

 これは小説や映画、あるいはニュースなどを見て、「刑事裁判における違法収集証拠は証拠として使用できないのだから、同じ裁判手続きである民事裁判においても同じだろう」と一般の方には比較的広く誤解されているものであるといえます。※1

 まず、通常の会話程度であれば、そもそも相手方の同意なく録音することが「違法」であるとまで評価されるものではありません。会話とは相手方へ聞かせることを前提とした意思伝達方法のひとつであって、通常の会話であれば周囲の人にも聞こえてしまうことは予定されているので、秘密性が高くないからです。

 もっとも、秘密の会話であることを前提としたようなシチュエーションでの会話であれば、その秘密性は高まるものといえ、その場合には「秘密録音」が違法であると評価される可能性は高まりますが、そもそも「秘密であることが前提」と呼べるようなシチュエーションというものは非常に稀であって、一般の方が通常交わす会話においてそのような稀なシチュエーションであるということはあまり考えられません。

 その意味で、民事裁判においてはそもそも私人による秘密録音程度であれば、「違法」であるとの評価がなされることは非常に稀であるということが出来ます。

 さらに、民事裁判においては刑事裁判と異なり、対立する当事者が双方一般人であり、その力関係や強制的権限の有無、さらには公権力行使の廉潔性の要請などがありません。※2

 そのため、刑事裁判と比べて民事裁判においては、「違法収集証拠」について証拠としての能力を認めるか否かという判断がかなり緩やかに行われることとなります。

 これを大雑把にいいますと、たとえ「違法」に収集された証拠(民法上不法行為に該当しうるような方法で収集されたもの)であっても、著しく反社会的な方法や、他人の人格権の侵害を伴うような方法で収集されたものでない限り、その証拠としての能力は否定されないと考えられています。

 

 以上から、現実問題としては、例えば相手方の留守宅に忍び込んで証拠となる物品を盗み出してきたとか、相手方を監禁・暴行を加えて証言を引き出したとなどというような、「別の犯罪を構成するような方法」で収集した証拠であれば、上記基準に沿っても違法収集証拠として証拠採用が認められないこともあるでしょうが、秘密録音・秘密撮影程度であれば証拠能力が否定されることはあまりないものと考えてよいと思われます。

2 録音データの評価

 「録音」データがある場合、おおむね多くの方は「これは動かぬ証拠である。これさえあれば紛争の相手方も非を認めるはずである」と考え、かつなかなか非を認めようとしない相手方に対して「録音データがあるのにまだ言い逃れをしようとするなんて、なんという(道徳的に)悪い人間なのだ」というような憤りを持たれるようです。

 このような気持ちは、素朴な感想としては大いに共感することもできるのですが、他方、裁判所においてどのように評価されるのかという点からみると残念ながらご期待に沿えないような評価を受けてしまうことも多いのが現実です。

 まず、録音データは当然会話を録音したものが多いのですが、会話である以上「前後の文脈の流れがある」ということができます。

 同じ発言であっても、前後の文脈や会話の流れ次第では、その意味するところは大きく変わってしまいます。

 紛争の当事者となっている方としては、相手方の発言を自分の都合の良い文脈でとらえがちですが、他方相手方としてはこちらが考えているような意味で述べたわけではないというような事例は非常に多く見受けられます。※3

 これは、明らかな苦し紛れの言い逃れに過ぎないようなケースもありますが、客観的に聞いても「どちらの意味にも受け止められる」というような微妙なケースも多いのが実情です。※4

 また、言葉それ自体としては一義的な意味であっても、発言に至る経緯などからみると、何か法的な責任の発生を首肯することが出来るような発言ではないというようなケース見受けられます。※5

 もちろん、発言内容や前後の文脈からして、「まさにその録音データの存在で勝負あった」といえるような、決定的な録音データというものもあり得ますし、実際当職も過去にそのような決定的な録音データの提供を受けたこともあります(もちろん、当該訴訟では完勝といってよい判決を得られました)。

 結局のところ、どのような意味での発言であるのかは最終的には裁判官が前後の文脈や発言に至る経緯などから総合的に判断することになるのですが、どのような評価を受けるかということはまさにケースバイケースであり、発言内容及びその前後の文脈等に掛かっているとしか言いようがないのが現実です。

 

 当職としては大きな意味を持つような録音データというものは、①録音された状況そのものを立証の目的としているものであって、録音データを聞くことにより当時どのような事実が起きていたのかを判断でき、またそのような判断をさせることを目的としているものであって、②すでに起こってしまったことについて相手方の意見や認識を確認し、言質をとることを目的としているものではないというように考えております。※6 

 ご自身の持っておられる録音データが、果たして裁判においていかなる価値を持つものなのかということは、ご本人で冷静に判断するということはなかなか難しいものといえます。

 弁護士に相談に来られる際には、彼我のどちらが有利な状況であるのかを正確に把握されるためにも、お持ちの録音データについても弁護士の見解をご確認してみてください。

※1 刑事裁判においては証拠収集については厳格な規制があり、違法収集証拠の証拠能力は厳しく排除され、しかも違法収集証拠か否かの判断も厳しく行われます。

※2 私人と比べて強力な権限権力を有する国家が、自らの国家権力の行使としての訴追を行い、同じく国家権力の行使としての処罰を与えるというのであれば、国家は公明正大でなければ国家権力行使の正当性が確保できないというような発想です。

※3 政治家の失言などの際によく見受けられる「そのような趣旨で述べたわけではない」という反論が典型です。

※4 例えば「金を返さなければ訴える」という発言に対して「わかった。きちんと対応する」という回答があった場合、この回答は「訴えられたくないので金を返す」とも受け取れますし「金を返す気はないので訴えられたら正々堂々受けて立つ」というようにも受け止めることが可能です。

※5 相手方の自宅へと押しかけて延々何時間も詰問した末に、ようやく引き出したというような発言は、帰ってもらいたい一心からのその場限りの発言であると評価される可能性が高いでしょう。

※6 その意味で、まさに冒頭の国会議員の秘書の方の録音データは①に該当するものといえ、証拠としての価値は高いものと思います。

〈弁護士 溝上 宏司〉