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弁護士雑感

【弁護士雑感】東名高速道路の追突事件について

 神奈川県大井町の東名高速道路で6月5日の午後9時半頃、大型トラックがワゴン車に
追突し、2名が死亡、2名が負傷するという痛ましい事故があり、県警は今月の10日に、
ワゴン車の進路をふさいで停止させ事故を誘発したとして、自動車運転処罰法違反(過失
致死傷)と暴行の疑いで25歳の男性を逮捕しました。

 弁護士としても、一人の人間としても、色々と考えさせられた事件でありましたので、
今回はこの事件(以下「本件事件」といいます。)について少し書いてみようと思います。

 まず、本件事件を聞いたときに、私が真っ先に思い浮かんだのが、平成14年1月12日
に茨城県つくば市の高速自動車国道で起きた、普通自動車を運転していた被告人が、被害者
の運転態度に立腹し、高速道路の追越車線上で大型車を停止させ、同所で被害者に暴行を加
えて傷害を負わせ、その後、同車線上を走行してきた自動車を大型車に追突させて4名を死
亡させ、1名に重傷を負わせた業務上過失致死傷及び傷害の事件でした。

 この事件において、業務上過失致死傷の点につき、被告人の弁護人は、「本件事故は被告
人が立ち去った後も、被害者が暫く発進させず、衝突防止の措置もしなかったことが直接の
原因で、被告人には過失がなかった。」などとして、被告人の過失行為と結果との因果関係
を争いましたが、裁判所は「高速道路の追越車線には停止車両がないことを前提に通常走行
しているから、追越車線に被害者の車両を停止させると後続車が追突する危険性があること
は予見可能であり、また被害者の発進が遅れたことも、被害者が被告人にエンジンキーを投
棄されたと勘違いしたことなどによる。」などとして、被告人の過失と結果との因果関係を
肯定し、業務上過失致死傷罪の成立を認めました。

 この事件は、結果までの因果関係が複雑であることから刑法では珍しく最高裁の判断まで
出ており、司法試験受験生の時に何度も触れる機会があったので記憶していたのですが、本
件事件と加害者の行為が非常に類似しているかと思います。

 ただ、類似はしていますが、明確に異なる部分は、上記事件では被告人が被害者の元を立
ち去ってから7,8分後に衝突事故が発生しているのに対して、本件事故は正に加害者が被
害者に対して暴行を加えている最中に衝突事故が発生している点です(被害者談を基にして
います)。

 そして、私は、かかる違いは、本件事件の罰条を考えるにあたり、非常に大きな意味を持
つと考えています。

 というのも、上記判例の事案では、加害者が被害者に対して暴行を加えて傷害を負わせて
いるため傷害罪の成立は認めていますが、かかる暴行行為と死傷結果との間の因果関係は認
めていません。これは、高速道路上で車両を停止させたという加害者の過失行為と被害者の
方の死傷結果との間に因果関係は認められても、加害者が立ち去ってから7、8分後に衝突
事故が発生していることから、少なくとも加害者が行った暴行行為と衝突事故との間には因
果関係はないと考えるのが社会通念に照らし妥当であると考えられるためです。

 しかし、本件事件においては、加害者が被害者の方の車両を高速道路の追越車線という極
めて危険な場所に停車させ、その様な危険な場所で暴行・脅迫をし、被害者の方々を足止め
をしている正にその最中に大型トラックが追突してきており、かかる暴行行為と被害者の方
の死傷結果との間の因果関係については十分肯定することが可能であると考えられます。

 この点、殺人罪では起訴できないのかという疑問を持たれる方もおられるかもしれません。
私としては理論的には殺人罪とすることも不可能ではないと考えますが、現実の問題として、
検察官が敢えて認定落ち(検察官の主張の一部が認められないこと)の危険を冒してまで、
本件事件を殺人罪で起訴する可能性はまずないと思います。

 本件事件は、加害者の対応から見ても自動車運転処罰法違反(過失致死傷)と暴行罪の成
立だけでは世間の処罰感情とあまりにかけ離れるかと思いますので、検察官には頑張って頂
き、殺人罪は難しいとしても何とか傷害致死罪では起訴して欲しいと思います。

 今回、亡くなられた被害者の方のお嬢さんの切実な思いを聞き、この国に住む一人の人間
として、本件事件の裁判が、お嬢さんにとって少しでも生きる希望となるようなものになっ
て欲しいと強く思いました。

 弁護人として長く活動していると、時に視野が狭くなり、被告人の量刑を軽くすることば
かりを追求してしまいそうになります。しかし、こういった被害者の方々の声を直接被告人
に伝え、形だけの反省ではなく、本当の意味での反省を促すことも弁護人の使命であること
は間違いありません。それは決して容易なことではありませんが、それでも本件事件の弁護
人には、その点を強く期待したいと思います。

〈弁護士 松隈貴史〉