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弁護士雑感

【弁護士雑感】憲法改正について

 財務省の文書書き換えという前代未聞の事件が発覚し、安倍首相の掲げる憲法改正というものが、少し現実味を失いつつある今日ではありますが、一法律家として、憲法改正について少し書いてみようと思います。

 日本国憲法については、皆さま小学校や中学校の授業などで一度は目にしたことがあると思うのですが、恐らく全ての条文に目を通したことがあるという方は少ないのではないでしょうか。かくいう私も、日本国憲法について初めて全文を読んだのは、司法試験の勉強を始めたときで、当初は恥ずかしながら憲法とその他の法律の違いについてすらあまり分かっていませんでした。

 では、日本国憲法とは何でしょうか。

 そもそも、かかる出発点から色々と見解は分かれているようですが、日本国憲法には、我が国の基本となる①天皇の象徴性、②戦争の放棄、③人権、④統治機構、⑤地方自治、⑥憲法改正、⑦憲法の最高法規性が規定されていることから、「国家の基本法」ということはいえるかと思います。

 ここに、⑦の「最高法規性」というのはあまり聞きなれない用語かもしれませんが、最高法規とは、文字通り、最高位にある法という意味であり、日本国憲法が「最高法規性」を有しているからこそ、憲法の定める規定に反する法律・条約などについて、「違憲だ!!」と主張して、裁判上争うことができるという事になります。

 逆に言うと、日本国憲法は最高法規性を有しておりますので、「憲法の内容が法律(条約)に反しており、違法だ!!」などと主張して裁判をすることは、理論上不可能という事になります。

 日本国憲法の内容を変更したければ、憲法96条の改正手続きによる他ありません。

 

 私自身、日本国憲法を勉強するに際し、色々と疑問を感じることが無かったわけではなく、当該疑問は、正直法曹になった今でも解消していません。

 その一つが、日本国憲法の正当化根拠についてです。

 今の日本国憲法は、大日本帝国憲法(明治憲法)73条の改正手続きを経て制定されたものなのですが、以下のとおり、その大日本帝国憲法の改正は、日本国憲法の改正条項と比べて両議員(当時は衆議院と貴族院)のみの議決で足り、非常に容易でした。

1.将来此ノ憲法ノ条項ヲ改正スルノ必要アルトキハ勅命ヲ以テ議案ヲ帝国議会ノ議ニ付スヘシ

2.此ノ場合ニ於テ両議院ハ各々其ノ総員三分ノ二以上出席スルニ非サレハ議事ヲ開クコトヲ得ス出席議員三分ノ二以上ノ多数ヲ得ルニ非サレハ改正ノ議決ヲ為スコトヲ得ス

 一方で、日本国憲法96条には「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」と規定されており、改正には国民投票等の非常に厳格な要件が定められています。

 すなわち、日本国憲法は、一番重要な成立過程においては、国民投票等の国民による信任手続きは何ら経ていないにも拘らず、改正するには国民投票という非常に厳格な要件があるという問題を抱えているわけです。

 現在の日本国憲法については、「敗戦後の日本を統治していたGHQが草案を作り、それを押し付けられたもの」などとも言われております(実際の流れは下記アドレス参照http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/shukenshi090.pdf/$File/shukenshi090.pdf#search=%27GHQ+%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9B%BD%E6%86%B2%E6%B3%95%27」。)が、私としては、日本国憲法の正当化根拠を考えるにあたって最も重要なのは、誰が作ったかどうかではなく、最終的に誰の信任(国民投票等)を経て成立したかどうかであると考えており、日本国憲法には、その正当化根拠が薄弱な気がしてなりません。

 次に、私が疑問に感じているのは、誰もが疑問を抱かれていると思われる憲法9条と自衛隊の関係性についてです。

憲法9条には、


1.日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

2.前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

と規定されていますが、自衛隊は御存知のとおり、相当程度に高度な実力を保有しており、なぜ自衛隊がここにいう「陸海空軍その他の戦力」に該当しないのか、合理的に説明することはかなり困難であると思います。

 この点、自衛隊の憲法適合性について、「自衛隊は憲法9条2項の戦力にあたる」として「違憲」とした長沼事件第一審判決や、「統治行為に属し、司法審査の外にある」とした同事件の控訴審判決などがありますが、最高裁判所が「自衛隊」について「違憲・合憲」の判断を示したことはこれまで一度もありません。

 

 自衛隊だけは特別そういうものだと理解されている方が殆どかと思いますが、恐らく、海外で「自衛隊は戦力ではない」等と言えば、「あなたは一体、何を言っているの??」と笑われるのがオチだと思いますし、それがごく普通の感覚であると思います。

 この点については、安倍首相もかかる一般的な感覚からのズレを意識され、「自衛隊」について憲法に明記すべきことで、当該矛盾の解消を考えているのだと思いますが(具体案はまだの様です)、私個人としては、仮に憲法9条と現実に存在する自衛隊との矛盾の解消を考えられるのであれば、「自衛隊」という組織について例外的に認める文言ではなくて、「自衛権」といういわば当たり前の権利について明記すべき様に思います(更に言えば、「自衛権」についても、解釈にかなりの幅がありますので、解釈の幅に一定の制限を持たせる文言は必要であると思うところです。)。

 

 以上、日本国憲法についてはその他にも気になる点は多々ありますが、私なりに二つの点に絞って書かせて頂きました。仮に今後、憲法改正の発議がなされれば、日本国民にとって最も重要な法である日本国憲法に対して、初めて直接国民からの意思が反映されるという事になりますので、改憲されようと現状維持となろうと、日本国憲法に国民からの直接の信任が与えられるという点では、非常に大きな意味があると考えられます。

 

<弁護士 松隈貴史>