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弁護士雑感

【弁護士雑感】検察審査会という制度

 一般市民が犯罪の嫌疑をかけられると、通常は警察による捜査を経て検察官により起訴不起訴が決定されます。

 また、ドラマ「HERO」での木村拓哉さん演じる久利生公平の名セリフにあるように、起訴不起訴を決定する権限は個々の検察官にあって、検察庁という組織にあるわけではありません。※1

 そのため、犯罪被害に遭われた一般市民の方からすると、担当検察官がどのような判断をするのかということに非常に強い関心を寄せられるものということができるでしょう。

 もちろん、起訴便宜主義といっても、現実の検察庁では個々の検察官が勝手気ままに起訴不起訴を決めているわけではなく、上司(上役にあたる検察官)の決裁を事前に得るなどの手続きが厳格に整備されているのですが、少なくとも法律上は個々の検察官に起訴不起訴の終局処分権が与えられていますし、上記の決裁の件は所詮は検察庁内の話ですので、検察庁以外が起訴不起訴の判断に関わるということは基本的にないということができます。

 しかし、例外的に検察庁外から起訴不起訴の判断に影響を与える手続きがあり、それは検察審査会といわれている組織になります。

 今回はこの検察審査会という制度について少しお話ししようと思います。

 検察審査会という組織は、検察審査会法という法律によって定められている機関で、基本的には各地方裁判所の建物内に設置されています。

 また、検察審査会において、具体的審査業務などを行う者は検察審査員と呼ばれるのですが、この検察審査員は原則として公職選挙法上における有権者たる資格を有する者の中から、無作為に選別されます。

 ここで「原則として」というのは、一定の身分・立場で司法に関わることが「あり得る」ものが除外されているからです。※2

 

 検察審査会による審査の結果には大きく分けて3つの結論(「決議」といいます)があります。

 一つ目は①起訴相当。

 二つ目は②不起訴不当

 三つめは③不起訴相当

 です。

 

 ここで、①起訴相当と②不起訴不当とでは、なんとなく似通った意味にも聞こえますが、実はその中身は、同じような部分と大きく異なる部分とがあります。

 まず、同じ部分として、①起訴相当の決議であっても②不起訴不当の決議であっても、検察官は改めて捜査を行い、もう一度起訴不起訴の終局処分を行わなければならないということがあります。

 これにより、①起訴相当②不起訴不当の決議がなされると、いずれであっても検察官の再捜査(検察官指示による警察の再捜査を含みます)がなされ、もう一度起訴不起訴の判断がなされるということとなります。

 もっとも、再捜査と再度の起訴不起訴の判断といっても、判断が覆り起訴に転じることは割合からすると決して多くないというのが実情ではあります。※3

 当職が検察審査会への審査申し立てのご依頼をいただいた事案では、不起訴不当の決議を勝ち取り、その後の再捜査(もちろんこれにも最大限の捜査協力を行いました)の結果起訴に至ったケースがありますが、決して一般的なものではない、ある意味厳しい戦いとなるものであるということは間違いがありません。

 次に、①起訴相当と②不起訴不当の決議の最も大きな違いとしては、①起訴相当の決議については、その後検察官が再び不起訴処分を下した場合には検察審査会は再度審査を行い、その結果再び起訴相当との結論に達した場合には、今度は起訴相当を超えて「起訴すべき議決(起訴議決)」がされ、その結果検察官に代わって裁判所の指定する弁護士(指定弁護士)が検察官の職務を担い、公訴提起および公判活動を担当するということです(強制起訴などともいいます)。

 この指定弁護士による強制起訴については、最近であれば東京電力福島第一原発事故をめぐる業務上過失致死傷罪などについて行われ、報道などでも非常に注目を浴びている事案であると思います。

 なお、犯罪被害者の方からすると、まことに残念であるとは思うのですが、③不起訴相当の決議がなされた場合、検察審査会における審査手続きは終了するということとなり、基本的には当該事件は不起訴処分となるということが確定します。

 この検察審査会という制度、裁判員裁判という制度と非常に似通った点があるのですが、それはそもそも検察審査会制度も裁判員裁判制度も、「刑事司法に一般国民の意見を取り入れる」というところを出発点にしており、同様の目的・理念の下に組み上げられた制度だからであり、似ていることもある意味では当然であるといえます。

 刑事事件に限らず、「司法」というものには、「どこまで民意に沿うべきか」という難しい問題がついてまわります。

 どこまでも無制限に「民意」に沿おうとするならば、それは人民裁判と同義となってしまい、人権の砦たる裁判所・司法権の存在意義を失わせます。しかしながら他方において、「民意」とあまりにもかけ離れてしまえば、国民主権との関係でその存在の基礎を失いかねません。

 検察審査会制度や裁判員裁判制度は、このような、「司法」に向けられた一見相反する二つの命題を成立させるための、いわば苦肉の策なのではないかと思うとともに、そうであっても少しでもよりよく運営していくしかないのだと思います。

<弁護士 溝上宏司>

※1 起訴便宜主義、起訴独占主義などといわれます。

※2 国務大臣・裁判官・検察官・裁判所職員・警察官などはもちろん、我々弁護士なども除外の対象です。

※3 http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/54/image/image/h005002001002h.jpg