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弁護士雑感

【弁護士雑感】デジタル通帳のすすめ

少し前になりますが、三菱UFJ銀行が本年6月10日から紙の通帳の新規発行を取りやめてスマートホンなどでの閲覧を可能とするデジタル通帳への移行を原則とするというニュースを見かけました。※1

もちろん、紙の通帳の廃止は「原則」としての措置であって、希望者には今まで通り紙の通帳も発行されるとのことですので、何もデジタル化を強要されるわけではありませんが、特に何も気にしないでいると、自然とデジタル化してしまうという点では少し注意が必要かと思います。

昨今の流れからするとこのような通帳のデジタル化は他行でも進むのではないかと思われ、近いうちにメガバンク・大手地銀・信金その他の金融機関の多くでデジタル通帳が原則形態となるのかもしれません。

さて、この通帳のデジタル化ですが、そのデータの保管期限がどのようなものとなるのかということに、当職は大きな関心を抱いています。

それは、将来の法的紛争において、致命的な「証拠の欠如」となりかねないからです。

そこで、今回はこの点について少しお話をしたいと思います。

1 以前当職のブログ「捨ててはいけない大事な証拠」でも書かせていただいた通り、現在の銀行実務では「取引履歴」の保管は10年前までであり、それ以前の取引記録については銀行に問い合わせなどを行っても「破棄しているので回答できない」などとされることが非常に多いところ、この「デジタル通帳」のデータが同様に10年(もしくはそれよりも短期間)で破棄されるものとした場合、保管期限が切れてしまったデジタル通帳のデータにアクセスすることはできないということになります。

 その結果、例えば離婚時の財産分与請求や、遺産分割などの場面において、通帳の記載などから知ることができたはずの資産状況・財産の移転等を知ることができなくなってしまうことが想定できます。

 これは、財産分与や遺産分割を求める側(権利者)の側からすると、「有るはずの財産の存在を証明することができなくなってしまい」本来得ることができたはずの財産分与や遺産分割を受けることができなくなるという意味で大きな不利益となるものですが、他方において財産分与や遺産分割を行う側(義務者)の側からしても「本来問題はないはずの財産の減少についてそれを証明・説明する方法がなくなってしまい、円満・迅速な解決のためには」本来は不要であった支払いに応じざるを得なくなってしまうという不利益を生じさせるものということができます。※2

 もちろん、デジタル通帳についてそのデータをダウンロードしておくなどの方法での対処も可能かとは思いますが、スマートホンは多くの場合数年単位で買い替えられていることなどからすると、機種変更時にデータを(記録媒体ごと)紛失してしまうなどの虞は否定できません

 そもそも離婚や遺産分割などの紛争が大きな争いになる場合であっても、争いが勃発する10年15年前までさかのぼれば、夫婦仲や兄弟仲は必ずしも悪くないということがほとんどですので、そのような10年15年前の仲の良いころから、10年15年後に生じる(かもしれない)争いに備えてデジタル通帳のデータを保管しておくなどということはあまり現実的な発想とは言えません。※3

2 このようなことからすると、当職としてはデジタル通帳そのもののメリットは十分に理解するところではありますが、それでも「デジタル通帳が普及しても、やはり紙ベースで通帳の発行を受けておく方がよい」という結論にならざるを得ませんし、皆様にはぜひそのようなお考えを持たれることをお勧めしたいと思います。

 何もデジタル通帳に限ったことではありませんが、世の中の進歩に伴う便利化・省力化は、ときとしていざというときの安心・万全性(いわゆる「こんなこともあろうかと」という発想ですが)を削る方向にあるということを、十分にご理解いただき、技術の進歩による便利化をどこまで享受されるのかということをお考えいただければと思います。

〈弁護士 溝上宏司〉

※1  https://news.yahoo.co.jp/pickup/6325042

※2  要は、「証拠の不足」が生じ、その結果少し言葉は悪いですがいわゆる「ごね得」に近いことが起こり得る・・ということです。

※3  紙の通帳の場合、「特に深く考えずに『大事な物を入れる箱など』に放り込んでおいたものが出てきた」ということもあり、非常にありがたいものですが、デジタル通帳ではこのようなことは起こりえないでしょう。