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弁護士雑感

【弁護士雑感】逸失利益の定期払いについて

 本年7月9日、最高裁判所は、4歳で交通事故に遭い、高次脳機能障害を負ってしまった男性とその保護者の方が、運転手と保険会社を相手取り、損害賠償を求めていた裁判において、事故がなければ就労できた18~67歳まで毎月約35万円を支払うように命じた一審と二審の判決を支持し、一括払いによる賠償を求めていた運転手らの上告を棄却しました。

 これは、皆様の生活にも関係してくる可能性がある判決ですので、今回はこの裁判について少し書いてみようと思います。

 まず、架空の事例として、例えば、18歳の歩行者が青信号で横断歩道を横断中に、赤信号を無視したトラックに跳ねられるという交通事故に遭い、当該歩行者が両目を失明するという障害を負ってしまったとします(過失割合は100対0とします)。

 その様な場合、どのような損害賠償を求めていくかというと、当然のことながら、治療関係費、入院雑費、入通院に要する交通費、付添看護費、将来に要するであろう介護費、その他必要な装具の購入費用等は全て請求することになります(このように事故が発生したことによって支払いを要することとなった損害を積極損害といいます)。

 加えて、例えば当該歩行者がアルバイトなどをしており、休業することになった場合は、当然のことながら、その様な休業により本来得られるはずだったアルバイト代についても賠償を求めることができます。また、本件において、最終的に当該歩行者の視力が回復しないことが確定した場合(症状固定)、当該歩行者は、両目を失ったという後遺障害について、その精神的苦痛に対する慰謝料と、当該後遺障害を負わなければ普通に働いて得られたであろう収入(逸失利益といいます。)を損害として相手方に請求することができます(このように本来得られたであろう収入を得られなかったことに対する損害を消極損害といいます。)。

 そして、お分かりのとおり、これら損害の中で最も高額になるのが、後遺障害による逸失利益なのですが、実務上、ほぼ一括払いの請求がなされており、その際には、例えば被害者が男性の場合、症状固定時の全男性労働者の平均賃金に就労可能期間のライプニッツ係数を乗じるという計算式で算定がなされています。

 ここにライプニッツ係数とはどういう数値なのかというと、要は、将来得られるはずの金員を現在価値に換算するための数値といえるかと思いますが、上記具体例でいえば、本来、18歳の当該歩行者が67歳になった時に得られる収入というのは、今から49年後にしか手にすることができないものですので、それを前倒しで受け取ることができる利益というものを公平の観点から控除する必要があるため、この様な数値が用いられているわけです。

 したがって、上記具体例でいくと、49年(18歳から67歳まで)就労が可能であるとされた場合のライプニッツ係数は、24.759とされていますので、平均賃金に24.759という数値を乗じた金額を一括して請求することになります(具体例にある両目の失明の場合、後遺障害等級は1級とされていますので、労働能力喪失率を100%で計算しています。)。

 一方で、定期払いの場合は、前倒しで受け取る利益というものを考慮する必要がありませんので、損害金の全額を受け取れるのは49年後ということになりますが、受け取れる賠償金の総額は、平均賃金に就労可能期間である49(年)をそのまま乗じた金額ということになります。

 したがって、受け取れる賠償金の総額だけを考えると定期払いは非常にメリットが大きいということがいえるかと思いますが、49年もの間、相手方が怠らずに支払いを続けてくれるか(倒産等する可能性も無視はできません。)という不確定要素も当然存在しておりますので、一括払いと定期払いのいずれを選択すべきかは、被害者の方の御事情によるところが大きいということになります。

 当職としては、最高裁が定期払いについて確定的な判断を示し、そのような賠償方法もあることを御周知頂いたことは、非常に素晴らしいことだと思いますので、もしこの様な判決が出されたことを知らなかった方がいらっしゃれば、本雑感を機に、そのような賠償方法もあるのだということを頭の片隅にでも留めておいて頂ければ幸いです。

〈弁護士 松隈貴史〉