2025/06/24 新着情報
ステルスマーケティング規制のポイント ~メーカーやその他事業者・芸能人、インフルエンサー、アスリートが知っておくべき法律知識~
1 はじめに
SNSやYouTubeなどの動画プラットフォームを通じた商品・サービスの紹介が日常となった現代において、広告と分かりにくい宣伝手法、いわゆる「ステルスマーケティング(ステマ)」が社会問題となっています。2023年には消費者庁による景品表示法の改正により、ステマは法的にも明確に「違法行為」として扱われるようになりました。
このような法規制の強化により、企業・広告主はもちろん、芸能人やインフルエンサー、アスリートといった紹介者側にも法的責任が問われるリスクが現実のものとなっています。本記事では、ステマ規制の概要と、企業・紹介者が注意すべきポイントを法律的観点から解説します。
2 ステルスマーケティングとは
「ステルスマーケティング(ステマ)」とは、消費者に広告であることを隠して商品やサービスを宣伝・推奨する行為を指します。たとえば、報酬を受け取っているにもかかわらず、「個人的な感想」として商品を紹介するような行為が該当します。
このような手法は、広告であることを明示せずに消費者の信頼や判断を誘導するため、倫理的にも問題視されてきました。
3 ステルスマーケティングの何が悪いのか。その問題点とは
ステマの最大の問題点は、「消費者の誤認を招く」点にあります。広告であることを認識しないまま商品を購入・利用してしまうと、消費者は正確な情報に基づく選択ができません。
さらに、ステマによって市場全体の信頼が損なわれることも深刻です。広告であるかどうかが不明瞭な情報が氾濫すれば、消費者は正規の広告や本当に信頼できるレビューさえ疑うようになります。
こうした観点から、ステマは単なる「道徳的問題」ではなく、「不当表示」として違法となり得るとして、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)および内閣府告示により「一般消費者が事業者の表示であることを区別することが困難である表示」として規制の対象となっています。
4 どんな行為がステルスマーケティングにあたる?
令和5年3月28日内閣府告示第19号では「一般消費者が事業者の表示であることを区別することが困難である表示」について、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」と指定しています。
簡単に言ってしまえば、広告の表示であること、一般消費者から見て反れば広告であるか否かがわからないものがステマに当たります。
例えば、以下のような行為は、消費者庁のガイドライン上、ステマとして違法と判断される可能性があります。
・インフルエンサーやアスリートが、企業から報酬を受けていることを隠して商品を紹介する
・企業が自社商品のことを、第三者と装ってSNSで好意的に紹介する
・モニター提供であることを伏せて口コミを投稿する
5 ステマ規制に違反しないためにするべきこと
- 企業、メーカーなどの広告主がすべきこと
企業側は、インフルエンサーやアスリートに対して、商品紹介の依頼時に「広告であることを明記するように」と契約やガイドラインで明示する必要があります。その際には、表示方法(ハッシュタグ例:「#PR」「#広告」)のルールを明確に提示することをお勧めいたします。
また、契約締結後においても、紹介者の投稿内容を確認する体制を整備(監修・助言)することで、より確実にステマ規制の違反を避けることができるでしょう。
- 紹介者側がするべきこと
芸能人や、インフルエンサー、アスリートが企業から商品やサービスの紹介の依頼があった場合、広告として投稿を行っていることや、商品提供がされていることを明確に投稿内で記載する必要があります。その記載方法としてはできるだけ明確である必要があり、例えば、ハッシュタグ等を使い「広告である」と明示することや、投稿するコンテンツ内で商品の提供がされていることを明言すること、その両方をすること等が挙げられます。また、日頃より、自身が所属する事務所などとも連携し、ステマ規制の違反防止ルールを確認することも重要でしょう。
6 違反するとどうなる?
ステルスマーケティング規制に違反していると認定された場合、広告主(商品提供を行ったメーカーなど)に対し、措置命令(景品表示法7条1項)がなされる可能性があります。
そして、この措置命令に従わない場合、2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、又はこれらの併科の対象となり得ます。
さらに、ステルスマーケティング規制違反の判断がなされ、措置命令がなされた場合、報道などにより企業名・商品名が公表されることによる信用棄損リスクは計り知れません。
なお、芸能人・インフルエンサー、アスリート等の商品紹介者は景品表示法による罰則の対象とはなっていません。しかし、(広告表示に関する取り決めがあった場合)企業側との契約違反による賠償請求を受ける可能性のほか、自身の信用棄損により広告収入が激減してしまうリスクもあるため、いずれにしても対策は必要不可欠といえます。
7 まとめ
ステルスマーケティングは、単なるモラルの問題ではなく、今や法的責任を問われる「違法行為」です。芸能人・インフルエンサー・アスリートなどの紹介者側だけでなく、企業・メーカーの広報・マーケティング担当者も、適正な広告表示の責任を負うことになります。 自社が依頼した広告が違法ステマにあたらないか、紹介者が広告表記を正しく行っているか、日頃から法令とガイドラインに基づいた管理体制の構築が必要です。
HLO’ Trusted Matesでは、ステルスマーケティング規制に配慮した契約書作成・チェック、広告ガイドラインの整備、トラブル対応等に関する企業・紹介者の双方からのご相談を受け付けております。コンプライアンスを守りつつ、効果的なマーケティング活動を行うためにも、ぜひ一度ご相談ください。
〈弁護士杉山幸太郎〉