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2026/07/21 新着情報

タレント契約解除の違約金が無効に? ~タレントの労働者性について~

1.はじめに

 「事務所の指示には逆らえない。スケジュールも報酬も、すべて事務所任せ。気づけば、自分のキャリアなのに自分で何も決められない——。」そんな息苦しさを感じながらも、契約書にサインした手前、どこに相談すればいいかわからず、ひとり抱え込んでいる芸能人・タレント・インフルエンサーの方は、決して少なくありません。
 なかでも多いのが、事務所を辞めたいのに踏み出せないというご相談です。「専属契約に高額の違約金条項が盛り込まれていて怖い」「業務委託契約だから労働法の保護は受けられないと言われた」「安いギャランティーで長時間拘束されているのに、文句を言える立場じゃないと思っていた」——こうした声を、当事務所はこれまで数多くお聞きしてきました。
 しかし、契約書の「形式」だけで、あなたの権利のすべてが決まるわけではありません。 業務委託契約や専属マネジメント契約という名目であっても、働き方の実態によっては「労働者」と判断され、違約金条項が無効になるケースがあります。

 以前、当サイトを運営している橋下綜合法律事務所のHPにて「タレントの労働者性について」という記事を投稿いたしました。
 同記事内では、タレントと所属事務所が、マネジメントに関する専属契約を締結している場合で、同契約内に違約金の条項が含まれていたとしても、タレントの労働者性が認められたときは、同違約金の条項が労働基準法16条に従って無効とされる理論についてご紹介いたしました。
 ※以前の記事は こちら【https://hashimoto-law-office.jp/topics/information/1021/】をご覧ください。
 
 前出の記事でもご紹介いたしましたが、労働者は労働基準法により一定の保護を受けているため、契約形式上では非労働者であっても、実質的に労働者と判断されることとなれば、労働基準法等の保護を受けることができることとなります。
 そのため、タレントが、事務所との関係で『労働者』と判断された場合、労働基準法の適用によって、契約上の著しく不利益な部分が無効とされ救済される可能性があります。
 そこで本記事では、裁判所がどのような点を考慮して労働者性の判断をしているのか、詳しく解説させていただきます。

 

2.使用従属性とは 

 労働基準法第9条では、「労働者」を「事業又は事務所・・・に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と規定しています。そして、ここにいう、「労働者」に当たるか否かについて具体的には、以下の2つの基準で判断されます。

〇労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか、すなわち、他人に従属して労務 を提供しているかどうか
例1:居酒屋の従業員のように、店長やオーナーの指示に基づきキッチン業務やホール業務
   を行うものは、「従属して労務を提供している」とされます。
例2:動画編集の依頼を受けて編集業務を行う場合、作業時間や編集方法などについて自身
   で決定して取り組むことができるため「従属し」ていないとされます。

〇報酬が、指揮監督下における労働の対価として支払われているかどうか
例1:居酒屋の従業員は、シフト時間内に、指示にしたがって業務を提供したことの対価と   して給与(時給または日給や月給等)を受け取ります。この場合、「指揮監督下における労働 として支払われている」とされます。
例2:動画編集の依頼を受け、特に細かい指示もなく編集した動画を納品して、報酬を受け   取る場合、完成品の提供の対価として報酬が発生しているとされます。

この2つの基準を総称して「使用従属性」と呼びます。 そして使用従属性の判断は事案ごとに個別具体的に判断されます。上記の例は一つの例に過ぎないため、次に、その判断基準を解説していきます。

 

3.判断要素の整理

 あなたが、タレント・インフルエンサーとしてこれまで締結されてきた契約書のタイトルや、第1条には、どのような契約の名称が付けられていたでしょうか。多くの場合は、”雇用契約”という名称はどこにもなく、”マネジメント契約”や、”エージェント契約”のほか、”請負契約”、”委任契約”、”業務委託契約”等の契約名称が付されていることでしょう。 
 しかし、上記の使用者従属性については、契約の名称のみならず、契約の内容、役務提供の形態、実態的な報酬形態その他の要素から、個別の事案ごとに総合的に判断されます。

 そして、その判断要素については、以下のように整理されます。

 -「使用従属性」に関する判断基準-
(1)「指揮監督下の労働」であること
  ア 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
  イ 業務遂行上の指揮監督の有無
  ウ 時間的・場所的拘束性の有無
  エ 労務提供の代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
(2)「報酬の労務対償性」があること

 -「労働者性」の判断を補強する要素-
(1)事業者性の有無
(2)専属性の程度
(3)その他

 このように、労働者性については『指揮監督下の労働』であり、かつ『報酬の労働対償性』が高いとされる場合に、労働者性が肯定されうるのです。
 では次に『指揮監督下の労働』がどのようなものであるか、上記の ア~エ に挙げられた要素について解説していきます。

 

4.『指揮監督下の労働』とは

 「指揮監督下の労働」とは、労働者が他人に指示を受け作業などを行い、その作業等のやり方や成果などのチェックを受けるという状態(指揮命令関係がある状態)を指します。この判断にあたっては、以下の点が考慮され総合的に判断されます。

ア 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

 ある仕事について諾否の自由を有している場合は対等な関係であるとして指揮監督関係が否定され易くなります。
 例えば、以下のような場合は、この、アの要素については労働者性が肯定される方向に考慮されるでしょう。
 インフルエンサーAは所属事務所を通じて化粧品メーカーの化粧下地の新商品PRの依頼があったところ、依頼を受けたAは過去にその化粧品メーカの商品により肌荒れを起こしたことがあるため、同新商品のPRをしたくないと考えていました。
 しかし、所属事務所は業界内で支配的立ち位置にあり、一度でも仕事の依頼を断ると、契約の更新や、今後の仕事の割り振りに悪い影響が生じる恐れがあるため、Aは事務所からの祝いを断ったことがなく、今回も不本意ながら同商品のPRの依頼を引き受けました。

 このように、仕事の依頼、指示がされた際に、否が応でも引き受けるほかないような関係性の場合、会社員が、上司にあまり気の進まない仕事を依頼されてもよほどのことが無ければ断ることができない場合と類似するため、労働者性が肯定されうる要素となります。


イ 業務遂行上の指揮監督の有無

 依頼された業務の内容ややり方について具体的な指示を受けていることは、指揮監督関係を肯定する要素となります。。
 例えば以下のような場合は、この、イの要素については労働者性が肯定される方向に考慮されるでしょう。
 インフルエンサーAは所属事務所を通じて化粧品メーカーの化粧下地の新商品PRの依頼があったところ、そのPRの方法について、インスタグラムのリールを使用すること、冒頭・カバー(サムネイル)に指定の画像を使用すること。冒頭コメントに指定のセリフを入れること・動画時間を一定にすること、指定の新商品の紹介のセリフを用いること。など仕事の内容について細かな指定がされ、投稿前に必ず担当者のチェックを受ける必要があり、指定の動画時間の関係で、指定内容を反映させると、自身のオリジナリティをPR動画に反映させる余地がないといった場合です。

 一方で、指示が一般的なものに留まる場合は、指揮監督を受けているとは言えません。
 たとえば、上記の事例のなかで、媒体としてインスタグラムのリールを使用することと、新商品の説明項目が数個指定されているのみで、そのほかは自由にPR動画を作成し、投稿しても構わない場合は、その指示は業務遂行上の指揮監督とまではいえないでしょう。
 また、業務の性質上、具体的な指揮命令になじまない場合でも、事業組織に組み込まれている場合は、一般的な指揮監督を受けているに過ぎないと判断されることがあります。
(例)コラボ動画の出演で、台本指定のセリフのみを言うために出演する場合など

ウ 拘束性の有無

 勤務場所や勤務時間が指定され、管理されていることは、指揮監督関係の基本的な要素です。
 毎日、指定のスタジオに出勤する事を義務付けられている等、時間と場所に自由が無い場合、会社員がオフィスでの勤務を基本的に義務付けられている事と類似するため労働者性が肯定される要素となります。
 ただし、業務の性質や安全確保のために必然的に指定される場合もあり、その指定が業務の性質によるものか、業務遂行の指揮命令によるものかを見極める必要があります。

エ 代替性の有無

 労働提供に代替性が認められない場合は、労働者性が肯定される要素となります。
「労働の代替性がある」とは、指示された本人に代わって他の者が労務を提供できる場合とのことを言います。
 ただし、タレント・インフルエンサーの業務はその人物の個性や影響力そのものが商品価値となる性質上、代替性が認められないことが通常です。そのため、この要素はタレント・インフルエンサーのマネジメント契約における労働者性の判断においては、決め手になりにくい要素といえます。
 代替性の有無は、あくまで指揮監督関係(労働者性)の判断をア〜ウの要素とあわせて補足的に考慮するものとなるでしょう。


5.『報酬の労務対照性』とは
 「報酬の労務対償性」とは、支払われているギャラや給与、報酬が、労働者の提供する労働に対する対価として支払われている状態を指します。労働基準法第11条では、賃金を「労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定めています。

 ただし、報酬が「労働者が使用者の指揮監督の下で行う労働に対して支払うもの」である以上、報酬が”賃金”と称されているか否かだけで「使用従属性」を判断することはできません。
 例えば、以下のような場合は、この要素については労働者性が肯定される方向に考慮されるでしょう。
 インフルエンサーAは所属事務所と契約しており、毎月一定額の固定報酬を受け取っています。仕事の多寡にかかわらず報酬が変わらず、体調不良で稼働できなかった日数分は報酬から控除される一方、事務所の要請で通常より多く稼働した月には別途手当が支払われていました。
 このように、報酬が時間給や固定給を基礎としていて労働の結果による差が小さい場合や、欠勤時の報酬控除・残業時の追加手当があるなど、使用者の指揮監督のもとで一定時間労務を提供したことへの対価と評価できる報酬形態は、「使用従属性」を補強する重要な要素となります。
 反対に、動画やスナップ写真など成果物の納品ごとに報酬が発生し、さらに再生指数やインプレッション数ごとに追加報酬が加算されるなど、稼働時間の長短に関係なく単価が固定されているような場合(いわゆる「出来高払い」に近い形態)は、報酬の労務対償性が弱いと判断される方向に働きます。

 

6.補強する要素 とは

 「指揮監督下の労働」や「報酬の労務対償性」といった主要な判断基準だけでは「労働者性」の判断が難しいケースでは、以下の補強要素も総合的に考慮されます。

(1)事業者性の有無

 活動に必要な機材や器具を自ら調達・負担しているか、報酬の額が、一般の雇用報酬と比較して高く設定されており、事業リスクの負担に見合うものか、といった点が、自らの計算と危険負担に基づいて事業経営を行う「事業者」としての性格を強く示す場合、「労働者性」を弱める要素となります。また、業務遂行上の損害に対する責任を負うことや、独自の商号・屋号の使用が認められていることなども事業者性を示す要素として考慮されます。
 例えば、インフルエンサーAが撮影機材をすべて自費で購入・管理し、事務所から機材費の補填を受けておらず、投稿内容の判断も基本的に自身で行っているような場合は、事業者としての独立性が高いと評価されやすくなります。

(2)専属性の程度

 特定の企業への専属性の高さは、直接的に「使用従属性」を左右するものではありませんが、他社の業務に従事することが制度上・事実上困難である場合や、報酬に固定給部分があり生活保障的な要素が強い場合は、「労働者性」を補強する要素となります。
 例えば、インフルエンサーAが事務所との専属契約により他事務所や他ブランドから直接仕事を受けることを禁じられており、収入のほぼすべてをその事務所を通じた案件に依存している場合は、専属性が高く、労働者性を肯定する方向に働きやすいといえます。

(3)その他

 裁判例では、採用選考過程が正規従業員とほぼ同様であること、報酬が給与所得として源泉徴収されていること、労働保険の適用対象であること、服務規律が適用されていること、退職金制度や福利厚生が適用されていることなど、使用者がその者を自らの労働者と認識していると推認される点が、「労働者性」を肯定する補強事由とされています。

 これらは個々に決定打となるわけではなく、これまでに述べた主要な判断基準を総合的に補強するものです。実際の判断では、すべての要素を重ね合わせて「実態として労働者といえるか」が問われることになります。


7.まとめ

 上記の基準に照らして裁判所が実質的に『労働者』であるという判断をすれば、労働基準法により、一定の契約条項が無効になるかもしれません。
 前出の記事でご紹介した事案は、元アイドルの男性が労働基準法上の「労働者」に当たることを認め、契約書記載の違約金条項について、労働基準法16条が「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と明確に規定していることに基づき、そのような違約金条項があっても無効とし、事務所側からの損害賠償請求を棄却した事案となります。

 タレント活動をしている方で、所属事務所の対応に不満を感じているものの、契約期間と違約金条項に縛られ、強制的にその事務所での活動を続けることを余儀なくさせられて困っている場合であっても、その様な違約金条項は法律上無効であるとして争い、契約期間満了前に、違約金を支払うことなく契約解除をすることが可能な場合があるということです。
 
 ご紹介したように、「労働者」であるか否かは形式的な契約名称に関わらず、実質的な契約内容、業務内容によって決定されます。
 ご自身の業務がどのような判断がされるのか、本記事で解説させていただいた判断基準に照らし合わせてみてはいかがでしょうか。
 もっとも、記事本文でも触れておりますが、労働者性の判断については各要素について画一的な基準はなく、事案判断ごとになりますので専門家へのご相談が有意義といえます。

 中でも、タレント業、インフルエンサー業、は特殊な業界慣習も多く、同業界に詳しい弁護士への相談が効果的な場合も多い分野といえます。弊所では、タレント・インフルエンサーのご対応をする専門のチームを編成しており、業界慣習を踏まえての対処が可能です。
 もし、タレント・インフルエンサー活動をしている方で、所属事務所の対応に不満を感じているものの、契約期間と違約金条項に縛られ、強制的にタレント活動を続けることを余儀なくさせられて困っている方がいらっしゃいましたら一度、弊事務所へご相談ください。

〈弁護士 杉山幸太郎〉

© 弁護士法人橋下綜合法律事務所