2024/09/03 新着情報
芸能人・タレント・インフルエンサーに対するSNSでの誹謗中傷について
1.はじめに
Youtuberを始めとするインフルエンサーは、Youtube・X(旧Twitter)・InstagramなどのSNSを主な活動領域に利用しており、最近では、芸能人・タレントも積極的にSNSを利用しています。SNSは、インターネット環境があれば誰でも手軽に利用できることから、SNS利用者は多く、またその種類も増加しました。
その一方で、芸能人・タレント・インフルエンサーにとって、避けては通れない問題となったのが、SNSでの誹謗中傷トラブルです。
もちろん、芸能人・タレント・インフルエンサーに限らず、それら職業の方以外の方もSNSでの炎上・誹謗中傷トラブルに巻き込まれる可能性は少なからずあります。
しかしながら、有名人であるが故に芸能人・タレント・インフルエンサーが炎上・誹謗中傷トラブルに巻き込まれる確率はそれ以外の職業の方と比較すると高いと言わざるを得ません。
本記事では、誹謗中傷トラブルにあった場合、法律上どのような手段を取ることができるのかを解説していきます。
2.削除の請求をする。
投稿自体の削除をすることが考えられます。
投稿の削除方法としては、Youtube、XなどのSNSを運営している会社に削除を申し立てることができます。
これは各社が用意しているフォームに入力を行うことで削除の申し立てを行うことができます。
フォームからの削除申請は簡易かつ早急に投稿が削除できる一方で、そもそも投稿を削除するかしないかは、Youtube、XなどのSNSを運営している会社の判断によりますので、悪質な投稿だと被害者が感じても削除されることは確実ではありません。
仮にYoutube、XなどのSNSを運営している会社が削除をしない場合には、投稿の削除を求めて訴訟の提起をすることになります。
3.投稿者を特定する。
SNSは、匿名で投稿することが一般的であり、誹謗中傷コメントをする方は、なおさら匿名のいわゆる捨てアカウントを用いて投稿をすることが多いように感じられます。
さらに芸能人・タレント・インフルエンサーをSNS上で誹謗中傷する方が、芸能人・タレント・インフルエンサーと顔見知りだったということはあまりないケースではないでしょうか。
匿名の投稿者へ損害賠償請求をするためには、まず投稿者を特定する手続をしなければなりません。
手続としては、プロバイダを相手方に取り、投稿者の情報の開示を求めることとなります。
プロバイダは、投稿者に無断で投稿者の情報を開示することはありません。
プロバイダが投稿者に開示してよいかどうかの質問をし、それに対して投稿者が、開示してよいと回答すれば、情報が開示されることになりますが、ほとんどの場合は、投稿者は、自らの情報開示を拒否します。
その場合は、プロバイダを相手方にして、訴訟をしなければなりません。
プロバイダ責任制限法の改正前は、2つの訴訟手続を2段階にわけてしなければなりませんでした。
1段階目は、コンテンツプロバイダ(Youtube、XなどのSNSを運営している会社)を相手に訴訟をして、IPアドレス・タイムスタンプ等を開示させる訴訟となります。
2段階目は、1段階目の訴訟が成功した結果として開示された情報を元にアクセスプロバイダ(OCN「NTTドコモ」、KDDIなど)を特定して、アクセスプロバイダに対して、投稿者の住所・氏名を開示させる訴訟となります。
改正後は、上記2段階の手続を一体的に行える非訟手続が新設されました。
この改正によって、手続が一体的になったため、従前よりも早期に投稿者を特定できるようになることが期待されています。
4.投稿者に対して損害賠償請求をする。
投稿者が特定できれば、いよいよ投稿者を被告として、損害賠償請求訴訟を提起することができます。
損害賠償請求訴訟において名誉毀損(メディアでは「名誉棄損」と表記されることがあります。)、プライバシー侵害などが認められれば、賠償金を得ることができます。
なお、この訴訟の法律上の根拠は、民法709条の不法行為です。
名誉毀損で勘違いされがちではありますが、常に「真実であれば名誉毀損が成立しない」といったことはありません。
真実だったとしても原則として、名誉毀損が認められるため、損害賠償責任を負うことがあり、真実だったことをもって損害賠償責任を負わない場合は、以下の例外的な条件が認められた場合に限ります。
①名誉毀損行為が公共の利害に関する事実であること
②名誉毀損行為の目的が専ら公益を図ることにあること
③事実の真実性が証明されたこと(真実性・真実相当性)
芸能人・タレントでない方は、①②の公共の利害に関すること、公益目的があることにあたらないことはもちろんのこと、芸能人・タレント・インフルエンサーだからといってただちに①②の公共の利害に関すること、公益目的があることになるとは限りません。
そのため、③の真実であったこと、真実であったと信じたことに過失がない場合であったとしても①②の要件を満たさない場合は損害賠償責任を免れません。
5.どの程度の損害賠償金が認められるのか。
名誉毀損が認められた場合では、およそ10万円から100万円程度が損害額の相場となります。ただし、テレビでの発言が名誉毀損として認められた裁判例では、600万円が損害額として認められたことがあり、テレビなどのマスメディアからの発信・マスメディアを通じた発信は、損害額が高額になる可能性があるといえます。
プライバシー侵害の場合は数万円程度から数十万円程度が相場ですが、50万円でも比較的高額な損害額だと言われています。
名誉毀損よりもプライバシー侵害の方が比較的低額な損害額となることが多いといえます。
名誉毀損・プライバシー侵害のいずれにしても、スポンサー・ファン・フォロワーや視聴者などからのイメージ・評価が重要な芸能人・タレント・インフルエンサーにとっては、名誉毀損・プライバシー侵害で受けた事実上の損害を補填するほどの損害額が認められず、SNSが発達し、情報拡散のスピードが各段に早くなった現代においても、未だこのような低額な損害額しか認められていません。
6.芸能人・タレント・インフルエンサーが削除請求・発信者情報開示請求・損害賠償請求をすることの意義
名誉毀損・プライバシー侵害ともに比較的低額な損害額しか認められず、事実上被った損害を補填できない可能性があることが現状であるところ、芸能人・タレント・インフルエンサーが削除請求・発信者情報開示請求・損害賠償請求をすることはどのような意義があるのでしょうか。
私としては、次のような意義があると考えています。
①誤ったイメージ・評価を正す機会となる
一度誤ったイメージに基づき誹謗中傷コメントがSNSに投稿されると、再投稿・更なる批判コメントがつき、瞬く間に誤ったイメージが拡散されていきます。
さらに在りもしない憶測が広がることがあり、誹謗中傷コメントとともに憶測による事実も作り出されることになります。
この事態となった場合には、誤ったイメージ・憶測による虚偽の事実が完全に払拭されるわけではありませんが、削除請求・発信者情報開示請求・損害賠償請求の裁判手続を通じ、その経過を発信することによって、何がどのように誤っているのかを示していくことで、誤ったイメージ・評価を正す機会になります。
②今後の誹謗中傷の抑止
既にネットの匿名掲示板・SNS等が「匿名」ではなく、名誉毀損・プライバシー侵害等が認められる場合には、投稿者が特定できることは認知されてきています。
それにも関わらず、自分は特定されないだろうと思い込んでいる誹謗中傷コメントの投稿者は一定数いるように思います。
芸能人・タレント・インフルエンサーが誹謗中傷コメントに対して、発信者情報開示請求・損害賠償請求をしたことを公表するだけでも、誹謗中傷コメントの投稿者は今後、特定され、損害賠償請求を受けることのリスクを考え、今後、誹謗中傷コメントの投稿をしなくなる可能性もあります。
このように今後の誹謗中傷コメントの抑止になる可能性があります。
③積極的に戦うことで自身の活動に自信を持つことができる
誹謗中傷に関して、様々な媒体でアンケート調査がされています。どのアンケート結果にも共通することは、芸能人・タレント・インフルエンサーに誹謗中傷コメントを投稿したことのある人は、インターネットを利用する人のうちわずか1割にも満たないということです。
つまり、ごく一部の方が誹謗中傷を繰り返しているということが現状のようです。
積極的に戦うことで、心無い誹謗中傷コメントはごく一部の人がしていることがわかる可能性がありますので、自分自身のこれまでの活動に自信を持つことができるかもしれません。
7.最後に
SNSでの誹謗中傷問題は、SNSが発展した昨今では、社会問題として取り上げられることとなりましたし、誹謗中傷のような「心を壊す」ような行為は許容されるべきではありません。 またタレント・インフルエンサーの方の中には所属する芸能事務所・タレント事務所に相談できずに悩んでいる方も多いかと思いますが、1人で悩まず、弁護士にご相談ください。
〈弁護士 去来川祥〉