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2025/05/13 新着情報

イベントの中止に伴う、主催者の損害賠償責任

1 はじめに

 

 2019年末ごろから新型コロナウイルス(covid-19)が大流行し、人が集まる各種イベントが相次いで中止になったのが記憶に新しいところです。新型コロナウイルスは落ち着きつつありますが、そんなコロナ禍は、その他の感染症によるイベント中止のリスクを顕在化させたものとなりました。また、昨今では、コンプライアンスの厳格化されており、タレントの不祥事に伴ってコンサートや舞台などの中止を余儀なくさせられることも増加しております。さらに、気候変動の影響による豪雨や台風を原因としてもイベントの中止を決断しなければならない場面も多くあります。

 

 イベントの主催者として、中止の決断をする際に気がかりな点の一つとして、賠償義務を負うのかというのがあります。開催されるはずだったイベントが中止となったとき、出演予定だったタレントや、設備業者、運営補助業者やその他の関係者は、そのイベントでの仕事を失い、報酬や給料を得られなくなってしまいます。この時、中止を決断した主催者がその損害を賠償する義務を負うのでしょうか。

 

以下、法律上の取扱について解説いたします。

 

2 イベント出演者(タレント)運営業者等に対する損害賠償義務

 イベント開催に関して出演者や業者と契約を締結している場合、原則として、当該契約の内容が賠償義務の有無を判断する基準となります。契約上の取り決めが定められていない場合は民法の規定に従うこととなります。

 民法上、契約は当事者間の合意によって成立し、契約の一方が履行を中止すれば、他方は損害賠償を請求することができます(民法415条)。

 不可抗力(たとえば天災、感染症の拡大、行政の指導等の、取引上要求できる注意や予防方法を講じて も防止できないもの)によってイベントを開催できなくなった場合には損害賠償義務を免れる可能性はあります。(民法415条1項但し書)。どのような場合に不可抗力といえるか否かについては社会通念に従って最終的には裁判所が決定することとなります。

 一方、出演者や業者との契約書に「不可抗力条項」が規定されている場合、その条項に該当する事由であれば損害賠償責任を免れます。そのため、契約書において不可抗力条項を盛り込むこと、その条項の内容は極めて重要といえます。

 また、タレントの不祥事や社会的要請に起因する中止についても、不可抗力に準じた扱いがされる余地はありますが、すべてが免責されるわけではなく、主催者側に過失(たとえば、適切な事前調査を怠った場合など)があれば損害賠償責任を問われる可能性はあります。

 

3 イベント参加者に対する損害賠償義務

 イベント参加者は消費者であり、「消費者契約法」の適用が問題となります。同法第8条は、事業者の損害賠償責任を一方的に免除する条項を無効としています。したがって、「中止となった場合でも返金は行いません」といった条項は無効となる可能性が高く、消費者保護の観点から、チケット代の返金には応じなければならないと考えられます。

 また、チケットを購入した参加者と主催者との間の契約では「定型約款」(民法528条の2)に関する規定が適用されると考えられます。内容が画一的に定められ、不特定多数との間で反復的に締結される契約には一定の規制が設けられています。具体的には、「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第 1 条第 2 項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの」については 合意をしなかったものとみなされます。これにより、返金をしない旨の条項は無効とされ、いづれにしてもチケット代の返金には応じる必要があるのではないかと考えられます。

 ただし、交通費や宿泊費などの間接的損害については、主催者が賠償責任を負うケースはイベントの中止原因に主催者の責めに帰するべき理由がある場合に限られると考えられます。これらは主催者が関知・予見し得ない範囲で発生する費用であるためです。

4 まとめ

 スポーツイベントの中止に際して、主催者が負う法的リスクは決して小さくありません。出演者や業者との契約内容、チケット販売の規約、不可抗力の有無、消費者契約法の制約など、多角的な視点で判断する必要があります。予防策としては、契約書への不可抗力条項の明記や、キャンセルポリシーの透明化、参加者への丁寧な情報提供などがあげられます。

 不測の事態に備え、法的リスクへの理解と準備を進めることが、主催者にとって重要な経営判断となるでしょう。

 橋下綜合法律事務所では、スポーツ業界・エンターテイメント業界に詳しい弁護士が在籍しており、出演契約、運営業者間の契約、チケット販売約款等について適切な法的アドバイスが可能です。また、当事務所と顧問契約を締結して頂いた場合は、顧問企業の日頃の業務状況を加味したうえで、より個別具体的にイベント関連の法的サービスを提供できます。

<弁護士杉山幸太郎>

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