2023/11/16 弁護士雑感
【弁護士雑感】法的紛争の場におけるペット その3(刑事事件の場面)
今回は
「法的紛争の場におけるペットの取り扱われ方」についての第三弾として、「刑事事件」の場面におけるペットの取り扱われ方についてお話します。
1 犯罪被害がペットに及んだ場合
これまでのペットシリーズでもたびたび触れてきた通り、「ペットは法律上、『物(動産)』として取り扱われ」ます。
そのため、例えば他人のペットを死傷させてしまった場合には法的には「物損事故」となり、その罪名は器物損壊罪となります。
器物損壊罪は故意犯であり過失犯ではありませんので、例えば交通事故のような基本的には過失犯であるケースでは他人のペットを死傷させたとしても犯罪にはならないということになってしまいます。※1
その他、ペットが盗まれた場合には「誘拐罪(略取罪)」ではなく「窃盗罪」となります。
人を略取して身代金を要求すれば「身代金目的略取罪」となりますが、ペットを盗んで身代金を要求した場合には「窃盗罪」と「脅迫罪」が成立し、併合罪となると思われます。※2
これらは「ペットが法律上は物として扱われている」ことによるものといえます。
2 ペットが第三者に危害を加えた場合
では、逆にペットが他人に危害を加えた場合にはどうなるのでしょうか。
例えば、
(1) 飼っている犬が散歩中に他人に噛みついた
等というケースが典型例かと思いますが、その他にも
(2) 飼っている猫が他人の庭で盆栽を落として破壊した
(3) 飼っているサルが他人の家から財布を盗んできた(少々無理がありますが思考実験です。なお、霊長類に属するサルを飼育することは禁止されていますのでここではリスザルなどを想像してください。)
等のケースを考えてみます。
まず、前提として飼い主がペットを訓練し、けしかけて行った場合にはいずれも犯罪が成立すると考えられます。(1)の場合には傷害罪が、(2)の場合には器物損壊罪が、(3)の場合には窃盗罪が成立するものと考えられます。
これは「動物を道具として使って犯罪を実現した」といえるからであり、この場合のペットは例えば「人を殺すのに拳銃で射殺した」という場合の発射された弾丸のようなものと考えればよいかもしれません。
他方、飼い主の過失によりペットの管理が疎かとなり上記(1)ないし(3)の事態が発生した場合には、基本的には過失犯の問題となります。
(1)のケースですと過失傷害罪の成否の問題となるでしょうし、(2)の場合には過失器物損壊罪の問題となりますが申し上げた通り過失器物損壊罪という犯罪はありませんので犯罪は成立しないということになります。
(3)の場合には過失窃盗罪の問題となり、同じく過失窃盗罪という犯罪はありませんので窃盗罪としては犯罪は不成立となりますが、ペットが他人の財布を持ってきたことを知りながら財布を領得すると占有離脱物横領罪が成立することになると考えられます。
なお、民事的にいえばいずれも不法行為の問題となり、特に「動物占有者の責任」の問題として処理されます。
この場合、故意をもって動物を使用した場合だけではなく、管理に過失がある場合は動物の行為により生じた損害を賠償する義務が生じます※3
3 逮捕・勾留、服役時のペットへの配慮について
飼い主が犯罪被疑者となり逮捕勾留されてしまった、あるいは有罪判決を受けて刑務所に服役することとなってしまった場合、飼っていたペットはどのように扱われるのかについては、少なくとも刑事訴訟法その他の刑事手続きに関する法令には定めがありません。
そのため、刑事手続き上は特に何らの配慮もされませんので、飼い主が自ら何とかするほかありません。
具体的には
(1) 逮捕されるかもしれないということに心当たりがある場合には、事前に協力してくれそうな人物に「いざというとき」のお願いをしておく・・ということになります。
ただ、逮捕は基本的には突然訪れるものですから、事前に準備をしておくということは難しいですし、仮に事前にお願いをしていても実際に逮捕されたことを知らせなければなりません。
そこで、
(2) 逮捕された場合、すぐに弁護士接見を要請して、ペットの世話をしてくれる人への伝言を依頼する・・ことが大切になってきます。※4
弁護人に直接ペットの面倒を見ることを依頼してくる方もたまにおられますが、残念ながらそこまでの負担を負うことはできない・・と言わざるを得ず、一時的な給餌やペットホテルへの移送などは、事情によっては協力することもありますが、それ以上になるとお断りしているのが実際です。
(3) 起訴後においては保釈請求を行うなどしてペットの飼育体制の確保を行うことも選択肢に入ってきますし、最悪のケース(一定期間以上の服役)が予想される場合には保釈期間中に里親を探したり、長期間代わりに預かり飼育してくれる親族などを探す必要があるといえます。
この場合、それだけですべてが決まるほど単純ではありませんが、当職の経験上でいえば、動物愛護法の精神などに鑑みてか、裁判所も保釈の可否の判断においてある程度の配慮・斟酌はしてくれる・・ような気がします。※5
もっとも、一般的にいって、ペットを飼っている方が有罪判決を受けて長期間服役するということになれば、それは事実上「ペットとの別れ」を意味しますし、決して望んで行ったわけではないにしても、「ペットを捨てた」ことと変わらない結果となるということになってしまうということは肝に銘じていただければと思います。
以上、3回にわたり「ペットに関して法的場面での取り扱い」を少し変わった視点からお話をしてきました。
いずれの場面でも共通していることは「ペットを守るのは飼い主の責任であり、かつ守れるのは飼い主しかいない」ということかと思います。
愛犬家・愛猫家その他、愛〇家の皆さんが幸せなペットライフを送れることを祈念しています。
〈弁護士 溝上宏司〉
※1 類似の事件で最近ニュースとなったものがありましたが、物損事故でも道交法上の報告義務などがありますので、同義務違反で罰則の対象となるということはあり得ます。
※2 身代金目的略取罪は法定刑が無期または3年以上の懲役刑であり、かなり重い犯罪です。脅迫罪は2年以下の懲役、窃盗罪は10年以下の懲役です。
※3 ときどきペット(犬)をノーリードで散歩させている方がいますが、ペットが飛び出すなどして交通事故を誘発した場合には大きな責任を負うこととなります。
※4 逮捕期間中は弁護士以外の者との接見は親族でもできません。逮捕後、勾留に進めば接見禁止が付されていなければ一般接見が可能です。
※5 当職の経験でも、「実刑判決が相当程度予想されるケースで、飼育しているペットの里親を探す必要性を訴えて保釈決定を得たケース」はあります。