弁護士雑感

2018/07/05 弁護士雑感

【弁護士雑感】高齢者を狙った悪質詐欺について

 「オレオレ詐欺」などというふざけた詐欺が横行し始めてからもう10年以上経つかと思いますが、未だに高齢者の方からの詐欺被害の相談は後を絶ちません。最近も市役所内における法律相談において、高齢者の方から「詐欺ではないか」といった心配の御相談がありました。この方は、幸い事前に疑いを持ち詐欺であることに気付かれましたが、警察を始め、メディアなどでもこれだけ至る所で振込詐欺などに対する注意喚起がなされていても、この様な詐欺の被害が減らないのは、一体何故なのでしょうか。その最も大きな要因として、詐欺の手口が絶えず進化しているという点が挙げられるかと思います。一昔前は一人が電話口で話すだけの詐欺が多かったかと思いますが、現在は複数名で行うなどの方法により、話に信用性を持たせ、次々に話を展開させることで、被害者に「おかしい、怪しい」などと考えさせる暇を与えさせないようです。

 ただ、詐欺被害に合われた方から直接相談をお聞きすると、皆さん一様に「まさか、自分が騙されるなんて思っていませんでした。」と話しておられ、何処かまだ詐欺事件について、他人事として捉えてしまっていることも大きな要因の一つと考えられます。中々、他人の事件を自分のこととして受け止めて頂くことは難しいことかもしれませんが、今回は改めて危機意識を高めてもらうべく、高齢者を狙った特殊詐欺について少し書きたいと思います。

 まず、特殊詐欺の内の4つの型(成りすまし詐欺、還付金詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺)を総称して、警察庁は「振り込め詐欺」との名称に統一することを決定しています。

 振り込め詐欺の中でも、高齢者を狙った詐欺で有名なのは「オレオレ詐欺」(成りすまし詐欺)であるかと思います。

 簡単に説明すると、「もしもし、俺だけど」と一切名前を名乗らずに電話を掛け、相手が「○○かい?」と返答してきた場合に、「そうそう」などと回答して、○○になりきって、金を無心するという形態です(女性が「もしもし、私だけど」と電話を掛けてくることもあります。)。

 一昔前は、「交通事故」などで、多額のお金がいるなどという単純な話が多かったと思いますが、今では、「未公開株を買って、多額の損を出してしまった。サラ金で埋め合わせを考えている。」、「会社の金を横領してしまった。返済するお金がないと刑務所に入ることになる。」、「会社の大切な重要書類をなくしてしまった。多額の賠償責任が生じた。」、「相手会社に本日振り込む予定の手形を紛失してしまった。取引がこのままでは停止してしまう。」など、緊急性のあるストーリーが念入りに作り上げられており、会社の上司や、銀行の担当者、警察関係者など、多くの人物から何度も電話が掛かってくるようです。

 恐らく、詐欺集団は今後も色々なストーリーを作り上げ、実行に及ぶはずですので、この様な電話が詐欺かどうかを判断することは容易ではありません。そのため、この様な詐欺被害を防ぐためは、普段から家族間でコミュニケーションを取っておくことが何より大切ですが、特に御自身の中で、お金のやり取りに関しては本人としかしない、というルールは徹底しておかれるべきでしょう。

 もちろん、事前に詐欺だと気付いてお金を渡さないという対応が取れれば一番良いのですが、相手も百戦錬磨ですので、緊急性を煽り、何とかお金を引き出そうとしてきます。もし本人に直接連絡しても繋がらず(事前に電話番号が変わったと言って、異なる連絡先を伝えている可能性があります)、どうしたら良いのか分からないという場合であっても、お金のやり取りに関してだけは絶対に本人としかしない、というルールだけは絶対に破らなければ、最終的に被害に合うことを防ぐことができます。

 冷静にお考え頂ければ分かることですが、仮に本当に子どもさんにその様な緊急のお金が必要となる状況が生じたとしても、息子さんの口座に振り込んでおけば何ら問題はないはずです。その様な話をしても、「こちらが指定する口座に振り込め」、「直接信頼できる奴に取りに行かせる」との指示がある場合には、それはまず詐欺だと考えて頂いて間違いありません。

 

 次に、最近よく聞くのが、還付金詐欺という手口です。

 これも簡単に説明させて頂くと、市の職員等を名乗る人物から連絡があり、「還付金があるので手続きをして欲しい」などと言われます。そして、その手続きについて、その者の指示通りに動くと、逆に振込をさせられていたり、または、「手数料をご負担ください。」などと言われて、言われた通り手数料を振り込むと、それ以後、連絡が取れなくなります。

 「お金を支払え」という形ではなく、お金が返ってくるという話で相手を油断させ、その後に、お金を騙し取るという、単純なようでいて非常に人の心理を巧みについた詐欺形態であるといえます。

 以前には、私の携帯にも、「1億円貰ってくれる人を探しています。」などと書いた迷惑メールが頻繁に届いていましたが、この手のメールも、何故か最終的にこちらが幾らか振り込みをしない限りは振り込みできないなどという話になっていました。この手のメールについては、「1億円くれるつもりなら、そういった手数料も含めて、お前が負担しろよ。」と突っ込みどころが満載の分かりやすい詐欺だったわけですが、「還付金」と言われると、振込手数料をこちらが負担しなければならないのも分からなくはなく、絶妙な文句を使うなとある意味感心してしまうところです。

 防衛策としては、まず、「還付金」などという話について、その手続きの期限が短ければ短いほど詐欺の可能性は高まります。特に「その日の内に」とかいう話であれば詐欺であると考えてまず間違いありません。また、手数料の金額が高ければ高いほど、詐欺の可能性が高まるとも言えます。振込手数料など1000円を超えることはまずありませんので、数万円単位のお金を要求されれば詐欺であると考えて間違いないでしょう。

 三つめは、架空請求詐欺です。

 これは読んで字のごとく、メールや手紙で、存在しない架空の話を理由として、金員の請求をしてくるという手口になります。アダルトサイトの運営会社を名乗る者などから、利用もしていないのに請求が来るというのが最も有名ですが、他にも、「貴方の個人情報が流出している、止めたいのであれば○○円をご準備ください」など、存在していない事実で不安をあおり、金員を請求してくるという事もあります。

 この手の詐欺の防衛策は、自分からは絶対に記載されている連絡先に連絡しない事です。この手の詐欺集団は、片っ端からこのようなメール・手紙を送付していますので、送付先の人物が本当に実在するかどうかすら把握していません。したがって、こちらから連絡を取ったりすると、実在するという情報を相手に与えてしまうことになり、集中的に督促が来るようになります。

 通常は、無視しておけばそれ以上の連絡は来ませんので、それで済む話ではありますが、何度か連絡があったり、個人情報が本当に流出しているのではないかと不安だ、気持ちが悪いという様な場合には、市役所の相談センターや弁護士などにご相談頂ければと思います。

 最後に、融資保証金詐欺ですが、これはお金に困窮している方に対して、融資の話を持ち掛け、「信用確認のために○○円を振り込め。」などと言われ、その通りに振り込むと、その後連絡が取れなくなるという手口です。

 防衛策としては、「真面目な消費者金融や銀行が、信用確認のために、お金を振り込ませるなどということはあり得ない」ということを憶えておいて頂ければそれで宜しいかと思います。

 上記4つの特殊詐欺以外にも、近年、少しでも貯蓄を増やしたいと投資などに興味を持たれている方が多くなり、その様な方々を狙った投資詐欺の手口もかなり増加傾向にあります。特に最近は、ビットコインなどの「仮想通貨」が高騰し、その様な記事を用いて、何ら価値のない通貨を購入させたりする事例が多発しています。

 防衛策として、まず投資等に関しては、見ず知らずの第三者からの「絶対に儲かる」などという美味しい話は全く信用しない事です。そんなに美味しい話を、縁も所縁もない人にする訳がありません。投資等に興味がある方は、多少面倒であっても自身で積極的に動いて、色んなところで多くの情報を集めるべきです。

 他にもクレジットカードの暗証番号を百貨店の人間を名乗って巧みに聞き出してくる手口や、キャッシュカードの暗証番号を銀行の人間を語って巧みに聞き出す手口などもありますが、防衛策として、暗証番号を電話で聞かれるという事は絶対にないことだけは覚えておいて頂きたいところです。

 前述の詐欺は、相手が見つからない事が多く、また、何とか相手が見つかったとしても既に受け取った金員は費消してしまっている事が多いため、一旦振り込んでしまうと全額返還させることは極めて困難です。この手の詐欺は騙されて振り込んでしまう前に何とか自衛頂くことが何より大切です。

 以上が詐欺に対する簡単な注意喚起ですが、既に7月に入り、本当に暑くなってきました。7月、8月は、「親が突然亡くなった。」などという相談が増える時期でもありますので、高齢者の方々におかれては、前述の詐欺被害だけでなく、体調管理にも十二分に気を付けて頂きたいと思います。

                             〈弁護士 松隈貴史〉

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