2016/07/15 弁護士雑感
【弁護士雑感】「一票の格差」について
今月10日は、参議院選挙の投票日でした。この選挙は、18歳、19歳の人達が新たに有権者に加わることから、結果がどのようになるのか非常に注目されていましたが、選挙の度ごとに裁判所に訴訟提起がなされている「一票の格差」の問題というのを皆さんはご存知でしょうか。
よく耳にはするが、詳しいことはよく分からないという方がほとんどかと思います。そこで、今回は、「一票の格差」と呼ばれる問題について、少し書いてみようと思います。
まず、「一票の格差」とは何でしょうか。
これは、簡単に説明すると、ある地域で投票した人の一票の価値と、別の地域で投票した人の一票の価値が異なるという事です。分かりやすく少し極端な例で説明すると、有権者の数が10人であるA選挙区と、有権者の数が100人であるB選挙区があったとして、各選挙区から1名ずつ議員を当選させるとします。するとA選挙区では10名全員が棄権せずに投票した場合、6名以上の有権者の票を得られれば当選することができますが、B選挙区では100名全員が棄権せずに投票した場合、51名以上の有権者の票を得なければ当選することはできません。いずれの地区で当選した議員も皆権限は同じなわけですから、単純に、A選挙区の有権者は、B選挙区の有権者に比べて、自分が応援している人を議員に当選させることが遥かに容易であり、その意味では明らかに不平等であると言うことができると思います。
そして、このように各選挙区の有権者ごとに一票の価値が異なることは、憲法14条が定める平等権を侵害し、違憲ではないのか、というのが「一票の格差」の問題です。
この点について、最高裁判所は、2009年以降は、「違憲状態にある」という判断を続けていますが、最終的には、「憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず、本件区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない」と結んでいます。
要するに、最高裁判所としても、憲法上の権利である投票価値の平等は重要であると考えており、それに違反する状態は是正すべきであるとの考えは示した上で、一方でその問題の解消には非人口的要素も加味しなければならず、容易ではないことも分かっているから、可能な限り国会の自主努力に期待する、というようなことが言いたい判決なのだと思います。
確かに、「無効」などという判決を出してしまうと、選挙自体をやり直す必要があるのかという問題も出てきますので、そうすると500億円ほどかかると言われている選挙費用が丸々損害として計上されるわけですから、安易にそのような判決を書けない苦しい胸の内は理解できるところです。
しかし、いつまでも「合理的期間内に是正されなかったとはいえない」という言葉で判断を回避し続けることは難しいでしょうから、この先、国会が何らかの対応をしない限り、そう遠くない将来に「違憲無効」とする旨の判断が出されるかもしれません。
既に今回の参議院選挙についても、選挙無効訴訟が提起されておりますので、今回は最高裁判所において、どのような判断がなされるのか、少し意識してニュースなどをご覧頂くと面白いかも知れません。
<弁護士 松隈貴史>