弁護士雑感

2017/10/11 弁護士雑感

【弁護士雑感】裁判所の個性

 当事務所ではありがたいことに全国からご相談・ご依頼をいただいておりまして、大阪高等裁判所管内だけではなく、全国を対象として業務を行っております。

 もちろん、まだまだ実際に事件係属したことのない裁判所も多数あるのですが、それでもかなり多くの全国の裁判所に出向かせていただいたものだと思っております。

 さて、このように全国の裁判所をいろいろと回っておりますと、「裁判所」と一言にいってもいろいろな違いがあるということがわかってきます。

 この「裁判所」ごとの違いというものは意外と一般の方にご理解いただけておらず、「裁判所は国の機関なんだからどこでも一緒だろう」と考えられてしまうところでもあります。

 そこで、今回はこの「裁判所」のエリアごとによる違いについて少しお話をしてみたいと思います。

1 身体チェックのある裁判所

 当事務所のある大阪においては、大阪地方裁判所・高等裁判所・家庭裁判所のいずれにおいても入庁時に金属探知機等での身体検査を受けることはありません。

 これは、堺支部、岸和田支部その他各簡易裁判所でも同様です。

 そして、当職の経験上、裁判所の入り口で金属探知機での身体検査を行っているのを見たのは、東京地方裁判所・高等裁判所および東京家庭裁判所のみです。

 この身体検査というのは空港などにあるようなアレです。※1

 ニュースなどによると、札幌地方裁判所・高等裁判所、福岡地方裁判所・高等裁判所も金属探知機での身体検査を行っているとのことですが、当職は札幌地裁は未だ事件係属の経験がなく、また福岡地裁については数年以上前に行ったことがあるのですがその頃は金属探知機による身体検査を受けた記憶がありません。

 裁判所という公の建物に対して入庁し、訴訟という公開が原則の手続きを傍聴しようとする一般市民の方に対して、いちいち身体検査をするというのもおかしなことのような気もしますが、他方裁判所内における事件発生のリスクもあり、今後は全国の裁判所でも同様に金属探知機による身体検査などが広まるのかもしれません。※2

2 裁判所内の施設について

 裁判所内にある施設としては、「書店」「売店」「郵便局」などが併設されていることが多いものです。

 ただ、これらは基本的に裁判所自身が管理運営しているものではないようで、その施設としてのキャパシティの問題などからも、同様の施設が存在しないことも多いものです。

 大阪においても、例えば大阪地方裁判所本庁では売店・書店・郵便局のいずれもが存在しますが、大阪家庭裁判所ではいずれもありません(代わりに食堂において郵券などを販売してくれます)。

 大阪地方裁判所堺支部などは最近立て替えたようで非常に大きな建物なのですが、いずれの施設もなく、郵券などを購入するためには近くの郵便局を案内されることとなります。

 このように、「裁判所」なんだから同じ施設があるというわけではないということも少し面白いものといえます。

3 裁判所の部の名称について

 裁判所の部というのは、いわゆる「係属部」と呼ばれているもので、具体的な事件を担当する部・係のことです。

 この「係属部」の名称なのですが、大阪地方裁判所などでは通常「大阪地方裁判所第〇民事部」などと呼称しますが、東京地方裁判所などでは「東京地方裁判所民事第〇部」などと呼称します。

 この呼称の違いには全く意味はないものなのですが、なぜか公的にもこのように呼称が異なるものとなっています。

 そのため、大阪では係属部のことを「〇民」などと省略するのですが、東京などではこのような省略はあまり通用せず、「民〇」と逆に略すこととなります。

 きちんと聞けば何の問題もないのですが、普段聞きなれない略称だと一瞬「えっ?」となるのも事実です。

4 裁判手続きについて

 裁判所においては、もちろん法律に従った審理がなされていますので、審理の方法や内容はさすがに日本全国どこでも同じです。

 しかし、訴訟における手続き的な部分については、裁判所ごと(エリアごと)に異なる部分も多く、慣れないうちは非常に面倒な思いをすることとなります。

 一例をあげると、「訴えの取り下げに対する相手方の同意」というものについて、大阪地裁と東京地裁では真逆といってよい実務の運用がなされています。

 大阪地裁では、訴えの取り下げを行う場合、通常相手方より事前に同意書を取り付け、同意書を添付した上で訴えの取下書を提出するという方法を求められます(そのまま出すと書記官に「同意書を追完してください」などといわれます)。もちろん、これは法律上の要件ではない(正確に言うと訴えの取り下げを行うにあたって同意書を添付する義務はないという意味です)のですが、進行している訴訟については訴えの取り下げは相手方の同意がなければ有効となりませんので、大阪地裁では取り下げ時に同意書の取り付けと添付を求めているというのが実情のようです。※3

 他方、東京地裁などでは訴えの取り下げにおいて、相手方の同意書の添付を求められるということはありません。東京地裁などではむしろ取り下げ書の提出から2週間経過しても異議が述べられないことによる同意の擬制による処理をすることが通例のようです。※4

 そのため、東京地裁などに対し訴えの取り下げに際して同意書を添付すると、書記官から「これは何ですか?」と逆に質問を受けることとなります。

 裁判官は我々弁護士以上に異動などで全国を回っているにも関わらず、裁判所ごとの地域性が一向に解消されないというのは、ある意味では不便ではありますが、ある意味では地域柄、お国柄というものがいかに根強いものかということを示していて、非常に興味深いものと思っています。

 さて、ぱっと思いつくままに裁判所の地域性や個性について書いてみましたが、まだまだ挙げていない裁判所ごとの違いというものがたくさんあります。

 いずれ、本稿の続きとして、またお話をさせていただこうと思います。

〈弁護士 溝上 宏司〉

※1 東京地裁などでは一般の来庁者と異なり、弁護士・検察官などは徽章(弁護士バッジ・検察官バッジ)を示すこと   

  で身体検査なしで入庁できました。

※2 予算の問題でなかなか実現はしないと思いますが。

※3 民事訴訟法261条第2項参照

※4 同第5項参照

© 弁護士法人橋下綜合法律事務所