弁護士雑感

2023/09/12 弁護士雑感

【弁護士雑感】法的紛争の場におけるペット  その2(離婚紛争の場面)

前回は 「法的紛争の場におけるペットの取り扱われ方」について、まずは交通事故のようなペットの身体生命に危険が生じた場合についてお話をしました。

今回は、現行法上ペットが「動産」として取り扱われていることからくる「離婚紛争の場面」におけるペットの取り扱われかたについて少しお話をしようと思います。

1 まず、前提として理解しなければならないことは、「現行法上」、ペットは「物(財産)」として取り扱われるという純然たる事実です。

  実際のペット飼育の実情や、飼い主の心情としてはペットは「物」ではなく家族(さらに言えば愛情をもって守るべき子ども)であると認識しておられる方が多いものとは思いますし、当職としても同様の気持ちではあるものの、現在の裁判所の取り扱いとしては上記の通りと言わざるを得ないところでもあります。

  このことからの帰結として、離婚紛争におけるペットの取り扱いは、法律的にいえば「財産分与の問題」であるといえます。

2 離婚紛争におけるペットの取り扱いが「財産分与の問題」に帰着するということから、①婚姻前からどちらかが飼っていたペットは「特有財産」としてもともと飼っていた側に帰属し、②婚姻後に飼い始めたペットは「夫婦共有財産」として財産分与の対象となる・・という扱いになります。

  ただ、ここで考え出すときりがないことなのですが、仮にペットを婚姻前から飼っていた(上記でいう①)場合であったとしても、婚姻期間中にもペットには食事代・予防接種代・医療費・おもちゃ代その他の多様な費用がかかります。

  このようなペット飼育に要した費用は法的に見ると「動産の価値を維持するための通常の管理費」といえますので、①の場合であっても一定の清算は必要となるということになるのだと思います。

  ②の場合には、夫婦の共有財産ではあるものの、ペットは個性のある一個の存在ですので物理的に切り分けて半分にするということはできません。

  そのため、どちらかがペットを取得して、他方に対して代償金を支払うということになるのでしょうが、代償金を算出するにあたって前回も申し上げた「物としてみたペットの時価」では可愛がっていた相手方の理解を得ることは難しいかもしれません。※1

3 さらに、昨今ではペットについてはいわゆる「ペット保険」に加入しておられる飼い主の方も多いことと思います。※2

  ペット保険は一定の年齢以降は新規加入ができなくなるということもあり、ペット保険の引き継ぎ、名義の変更が重要なものとなるのですが、現在の名義人の協力を得られないとこれらをスムーズに進めることもできません。

  なお、ペット保険の名義人の変更ができた場合、基本的には変更後の保険料の支払いは新名義人(ペットを引き取る側)の負担となりますが、ペット保険の保険料は(特に高齢となれば)決して安い金額ではないためにその負担を巡ってもひと悶着あることも珍しくありません。

4 加えて、ペットとの面会を求める方もおられるでしょう。

  最近、著名な方の(元)夫婦間トラブルが報道されて周知されたように、離婚後の大きな親子問題としては非親権者(より正確には非監護権者)と子供との面会交流をどのように実施するのかという問題があります。

  当職の経験では、ペットを家族としてみておられる方であっても、多くの方は「ペットとの面会交流」までは求めない方が多く、「ペットが向こうで幸せに暮らせているならそれでよい」と考える方が多いです。※3

しかし、中にはまさにペットを子供同然に考えている方もおられると思います。

そのような場合、離婚後にペットに会いたい、ペットと面会したいと考える方もおられることと思いますが、現行法上ではペットとの面会交流というものは法律的な制度としては認められていません。

そのため、話し合いでペットとの面会(ペットの一時預かり)が実現すればよいのですが、そうでない場合に裁判所にペットとの面会交流を求めることは制度上方法がない・・と言わざるを得ないこととなります。※4

5 離婚紛争において最初に裁判所のお世話になる「離婚調停」は、結局は話し合いの場ですので、上記のようなペットに関する諸問題を「双方の合意」の下で解決処理することも可能ではあるのですが、逆に言えば双方の合意による解決ができない場合、紋切り型の判断しかされない・・ということは、もっと周知されてよろしいのではないかと思っています。

    以上、今回は離婚紛争におけるペットの取り扱われ方についてお話しました。

 本シリーズはまだまだ続きますので、相続・刑事事件の場面におけるペットの扱いについて今後、お話をさせていただきます。

                                    〈弁護士 溝上 宏司〉 ※1 ペット目線では残念ながらそうではない場合もあるでしょうが・・。

※2 当職も加入しています。

※3 これはペットに薄情というよりは、「ペットに対しては相手も無償の愛情を注ぐはず」という無条件の思いや、「ペットは人間の子どもと違い進路・教育問題などが生じない」ことによるのだろうと思います。

※4 なお、現行法上両親以外の方(例えば祖父母や叔父叔母)との面会交流というものも法律上認められていませんので、相手方の同意が得られた場合は別にして裁判所に申し立てるという意味では祖父母からの面会交流の申立というものもできません。

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