2024/01/16 弁護士雑感
【弁護士雑感】飲み会の危険性について
2017年、大学生がサークルの「飲み会」でウォッカを一気飲みして死亡した事故をめぐり、学生(以下、「Aさん」といいます。)の御両親が、多量の飲酒が原因で死亡する危険のある状態に陥ったことを認識していたにもかかわらず救護を怠ったなどとして、当時飲み会に同席していた学生らに対して損害賠償を求めていた事件に関し、学生らと御両親との間で、計約5000万円を支払うことなどを条件に和解が成立したと報じられました。
コロナウイルス感染症の影響も薄れ、最近は20歳の集いなど、飲み会に参加する機会なども増えてきているように思いますので、注意喚起の意味も含めて上記事件について少し書いてみたいと思います。
上記和解は大阪高等裁判所でなされたもののようですが、一審である大阪地方裁判所は、学生らに対して一定の賠償責任を認めていました。その理由として、大阪地方裁判所は「飲酒量と血中アルコール濃度の関係」について、「短時間に多量の飲酒をすると、個人差はあるが、急激な血中アルコール濃度の上昇を引き起こす。血中アルコール濃度は、飲酒から約30分で最高濃度に達する。例えば、1時間以内に、アルコール度数15%の日本酒を1升(約1800ml)又は5%のビール中瓶10本(約5000ml)を飲むなどした場合、急性アルコール中毒を引き起こす可能性が極めて高い。」との知見を示し、「救命可能時期」については、「急性アルコール中毒が原因で死亡する機序は2種類ある。一つは、アルコールを短時間に多量に摂取することにより、脳の機能が麻痺し、呼吸が停止して窒息死するというものである。もう一つは、呼吸機能が低下した状態でさらに意識を喪失した場合に吐しゃ物が気道を塞ぎ、又は舌根沈下するなどして窒息死するというものである。急性アルコール中毒患者であっても、不完全ながらも呼吸があるうちに病院に搬送されれば、気管挿管するなどして人工呼吸を行い、その後アルコールが分解されるのを待つことにより、救命することができる。」と判示し、一気飲みや多量の飲酒を促した学生らの行為は、「飲酒者に急性アルコール中毒を発生させ、場合によっては死亡させる危険のある行為といえるから、これに応じるなどして一気飲みを行ったAにおいて、その飲酒によって急性アルコール中毒による生命の危険が生じた場合には、先行行為に基づく義務として、速やかに救急隊の出動を要請するなど、自己の行為によって発生する可能性のある死亡という結果を回避すべき義務を負うというべきである。」として、本件においては、学生らにはAさんに対する当該救護義務の違反があったと認定しました。
上記大阪地方裁判所の判決は、飲み会の席上などで一緒に場を盛り上げて、飲酒を進めた人達は、たとえアルコールハラスメントと言えるほどの飲酒強要の事実が存在しなかったとしても、飲酒者に対して相応の救護義務があり、それに対する違反があると認められる場合には、発生した結果に対する賠償責任を負うことがあるということを示したものであるといえるかと思いますが、本件では、大阪高等裁判所からも、当該判決には相応の妥当性が認められるとの心証の開示がなされたため、双方の間で当該判決の結論を前提とした和解がなされたものと思料されますので、大阪高等裁判所も今後は、基本的には同様の考えに基づいて判決がなされると思います。
様々なハラスメントが問題視されている現代社会において、アルコールハラスメントなどの飲酒の強要はもってのほかですが、そのようなハラスメントにまで至らなくとも、一緒に場を盛り上げるために飲むことを促すということはあり得ることかと思いますので、本件の様に悲しい事故を二度と起こさないようにするためにも、もし、体調が悪そうにしている飲酒者がいたら、「大丈夫だろう」と自分だけで判断するのではなく、周りとも相談し、場合によっては救急車を呼ぶという対応も必要となるということは覚えておいて頂ければと思います。
〈弁護士 松隈貴史〉