弁護士雑感

2024/03/29 弁護士雑感

【弁護士雑感】ご挨拶&共同親権の改正に伴う先取特権の改正について

【ご挨拶】

 

昨年末から橋下綜合法律事務所に入所しました弁護士の去来川祥です。

「去来川」と書いて「いさがわ」と読みます。かなり難しい読み方だと思いますし、人数も少ないようです。

日弁連の弁護士検索で、「去来川」の苗字の方が他にもいるかなと思い、検索してみたところ、検索結果では、私一人のみでした。

苗字の由来ですが、奈良市の率川(いさがわ)から兵庫県神崎郡に移り住んだ先祖が、中国詩人・陶淵明の叙景詩「帰去来辞」から、「いさ」に「去来」をあてたと言われております。

今となっては、私の先祖が、どうして故郷の地名を取って名乗ったのか、その真意はわかりませんが、「帰去来辞」も故郷に関する文であることから、故郷を「忘れない」とのメッセージがあるのではないかと私は解釈しております。

 

私は、弁護士の業務を遂行する上で最も大切なことは、依頼者の不安に真摯に向き合うことであると考えています。

私も、この初心を「忘れず」に業務に日々取り組んでいきたいと思います。

 

事務所のホームページに私に関する紹介文が掲載されておりますので、ご覧いただけると幸いです。

 

【共同親権の改正に伴う先取特権の改正について】

 

1.はじめに

 本年3月8日、民法等の一部を改正する法律案が国会に提出されました。主な内容としては、議論がなされてきた共同親権の導入に関しての改正となります。

 これまでの日本の法制度では、子のいる夫婦が離婚する際に、その離婚後は、父又は母のどちらか一方を親権者と定めなければならないとするものであり、父及び母の双方を親権者と定めることはできませんでした。

 それが、今回の民法等の改正によって、離婚後であっても、父及び母の双方を親権者とすることができるようになりました。

 改正法が施行されれば、一部の場合(例えば、父母のどちらかが子に暴力等を受ける恐れがある場合)を除き、離婚後の親権に関しては、「双方又は一方」のどちらを親権者にするのかを柔軟に決定できることとなります。

 共同親権の導入に関しては、懸念事項もありますが、離婚後の子の利益を考えて、それぞれの家族にあった選択肢を柔軟に選択できるという点では、評価できる改正であるように思います。

 

 主にニュース等では、共同親権に関してが、特に注目されて報道されておりますが、今回の改正に伴い変更された先取特権に関して、本記事ではご紹介いたします。

 

2.先取特権について

 まずは、先取特権というものに関してご説明いたします。

 先取特権とは、特定の定められた原因から生じた債権を持っている場合には、他の債務者よりも優先して弁済を受けることができる権利のことを言います。

 具体的には、共益の費用(民法第3061号)、雇用関係(同条2号)、葬式の費用(同条3号)、日用品の供給(同条4号)が定められています(これらは一般先取特権といわれています。)。

 雇用関係を具体例としてあげると、従業員が会社に雇われていたところ、会社の経営状況が厳しくなった場合で、会社が従業員に給与を支払えなくなったとします。

 このような場合に会社の他の債権者よりも優先して、給与の支払いを受けることができる制度になります。

 

3.先取特権に「子の監護の費用」が追加

 今回の民法改正案では、上にあげた一般先取特権に「子の監護の費用」が追加されることとなりました。

 「子の監護の費用」の一般先取特権は、離婚して子を実際に養育している者から、相手方へ養育費を請求するといった場合に利用が想定されます。この場合でも先に挙げた雇用関係の例と同様に、養育費を支払う義務のある者の他の債権者よりも優先して、養育費の支払いを受けることができることになります。

 また、今回の改正では、父母間で子の監護の費用分担について定めがない場合であっても、離婚の日から父母間で監護の費用の分担が定められる等までの間に一定の養育費が請求できることが定められました。これは「法定養育費」と呼ばれており、これに対しても一般先取特権を行使できることとなります。

 そのため、今回の改正によって、一定額の養育費の支払いを早期に受けることができる可能性が高まったように思います。

 

4.財産開示手続と先取特権

 また今回の民法の改正に伴い他の関連する法律の改正も行われております。中でも今回取り上げたい部分は、民事執行法の財産開示手続に関することです。

 

 判決で勝訴し、債務名義を得たとしても、債務者の財産がどこにあるかわからなければ、執行が困難なことがあります。財産開示手続は、裁判所に債務者を呼び出し、債務者自身に財産状況を語らせる手続となります。

 

 「子の監護の費用」が一般先取特権として追加されたことから、養育費を支払うべき父母の現時点で把握できている財産へ執行したとしても養育費の回収ができない場合などには財産開示手続をすることが可能となりました(民事執行法第197条第2項)。

また、上記の場合には、他の一般先取特権とは異なり、「子の監護の費用」の一般先取特権に関しては、養育費を支払うべき父母の給与債権に関する情報を取得することも可能となりました。

 

以上のように、「子の監護の費用」が一般先取特権に追加されたことにより、より養育費の回収の実効性が高まったといえるでしょう。

 

5.財産開示手続に出頭しない場合は刑事罰がある

 財産開示手続に関連して、仮に裁判所からの呼び出しに応じることなく、出頭しなかった場合について解説いたします。

 呼び出しを無視して、裁判所に出頭しない、裁判所に出頭したが、虚偽の財産状況を陳述したなどの場合には、「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科されることになります。

 これは、民事の損害賠償金などの扱いではなく、「刑事罰」になりますので、この規定に違反し、処罰された場合は、前科がつくことになります。過去にニュースで財産開示手続に出頭しなかった者が、逮捕されたとの報道がされたことがありましたので、このように罰則を設けることで実効性を確保した制度となっております。

 

6.終わりに

 私が大学院で、民法を学んでいたときは、一般先取特権を「今日こそ日用品」(日用品を買い忘れた翌日に、今日こそ買うぞと決意する場面をイメージしていました。)の語呂で覚えていたのですが、「子の監護の費用」が入ったことにより、私が使っていた語呂が使えなくなり、寂しく思う一方で、新たな制度でどのように実務に変化があるのか、注視したいと思います。

 

〈弁護士 去来川 祥〉

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