弁護士雑感

2024/09/24 弁護士雑感

【弁護士雑感】デジタル遺言の課題と自筆証書遺言について

現在、法務省では新しい遺言制度として、デジタル技術を用いた遺言制度を創設するか否かの検討がなされています。

本記事では、デジタル遺言の課題等を検討するとともに現行の自筆証書遺言についても解説していきたいと思います。

 

1.現行の自筆証書遺言制度について

現行民法では、遺言は15歳になればすることができると規定されています(民法第961条)。

今回のテーマである自筆証書遺言は、その形式について、民法第968条第1項で、次のように規定されています。

 

【民法第968条第1項】

「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」

 

それでは、この条文をもとに有効な自筆証書遺言として認められるのか、認められないのかをケースを設定して見ていきます。

 

【ケース①】遺言書の全体が手書きで、さらに署名と押印があるが、日付の記載のない場合

この場合は、日付の記載がないため、有効な自筆証書遺言としては認められません。

 

【ケース②】遺言書の全体が手書きで、さらに日付の記載、署名があるが、押印がないケース

この場合も、押印がないので、有効な自筆証書遺言としては認められません。

 

【ケース③】遺言書の本文が手書きで、さらに日付、氏名の記載があり、押印があるが、不動産など相続財産の一覧が目録として添付されている場合

自筆証書遺言は、原則としては、全文が自筆で書かれていなければなりませんが、例外として、相続財産を記載した目録をワープロで作成し、それを印刷して遺言書に添付することも認められています(民法第968条第2項)。

ただし、相続財産目録を添付する場合は、相続財産目録全てのページ(両面で印刷した場合は両面に)署名と押印がなければ、有効と扱われません。

したがって、ケース③では、相続財産目録のすべてのページに署名・押印があれば、目録がワープロで作成されたものでも有効として扱われます。

 

【ケース④】夫婦で一つの形式上有効な遺言書を作成した場合

形式上有効な遺言書であっても、誰かとともに一つの遺言書を作成した場合は、その遺言書は無効となります。

そのため、夫婦が遺言書を作成する場合は、一つの紙に書くのではなく、それぞれ別々の紙にしなければ有効な遺言書として扱われません(民法第975条)。

 

以上それぞれのケースをみてきたように自筆証書遺言は、その形式が法律に従っていなければ、無効と扱われますので、作成する場合は、民法第968条第1項第2項の規定に留意しなければなりません。

 

2.遺言書の保管制度について

令和2年7月10日から、法務局で自筆証書遺言を保管する制度が運用されています。

これまで自筆証書遺言は、自宅等で保管されることが一般的でした。

この保管方法では、遺言書が家のどこにあるのかを誰も知らず、発見されなかったり、また紛失等のおそれがありますが、法務局での自筆証書遺言保管制度により、このようなリスクを軽減できるようになりました。

さらにこの保管制度を用いれば、検認の手続が不要になります。

(検認は、相続人に対して遺言書の存在と内容を知らせて、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続のことを言います。ただし、遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。)

 

3.デジタル遺言の課題等

デジタル遺言として考えられる形式も様々なものが想定されますので、どのようなものが考えられるかを想定してみます。

 

3-1.自筆証書遺言をスキャンして保管する方法

まずは、これまで解説してきたような自筆証書遺言そのものをスキャンして、PDF等にして自己のパソコンやクラウドあるいは法務局等が指定するシステムに保管することが考えられます。

この場合は、相続時点に自筆証書遺言そのものが残っていれば、自筆証書遺言が原本になると考えられますが、万一この自筆証書遺言が無くなったとしても、電子データとして残っているため、紛失、滅失のリスクを軽減できる可能性があります。

 

3-2.遺言をワード等で作成して、電子署名・生体認証等の措置を施し、自己のパソコンやクラウドあるいは法務局等が指定するシステムで保管する方法

自筆証書遺言では、財産目録以外をワープロで作成することはできず、自筆で作成しなければなりませんが、仮にこのような方法で有効な遺言を作成できるとすれば、より遺言を作成する方法の選択肢が増えると考えられます。

 

3-3.デジタル遺言制度創設までの課題

デジタル遺言は、自筆とは異なり、筆跡等の特徴によって偽造であるか否かを見分けることが難しいと想定されますし、署名、印鑑も不要になります。

そのため、ある者のパソコンを操作して、別の者がその者になりすまして、遺言を作成した、完成したデジタル遺言を後から改ざんされるなどの問題を念頭にしてどのような制度を創設するかが今後の課題になるように思われます。

最近では、ブロックチェーンの技術により、改ざん不可能なデータ保管ができるようなシステムが開発されたこともあり、このような先端技術を用いれば、内容が後から書き換えられるといったリスクを軽減することができると思われます。

ただし、一方でこのようなシステムを利用するとなると作成方法が複雑となり、誰でも手軽に遺言を作成できるといったメリットが減退するおそれもあります。

以上のことから、高度なセキュリティ対策を施したシステムを使用すれば、本人が書いたこと、改ざん防止を担保できる一方で、これらを用いなければ有効な遺言をできないのであれば、簡易に遺言ができないので、デジタル遺言が一般に普及することが期待できない可能性もあります。

そのため、デジタル遺言は、真正性の確保と簡易さ・利便性のバランスをどのようにとっていくのかが課題となっていくと思われます。

〈弁護士 去来川祥〉

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