2024/11/29 弁護士雑感
【弁護士雑感】不倫の慰謝料と婚姻費用・養育費の相場について
1.はじめに
夫や妻が浮気をした,相手の実家や親族と上手くいかない,性格の不一致などなど。
夫婦であってもいろいろなトラブルは生じますし,ときにはいったん冷却期間を置くために別居をする,あるいは離婚に向かって進むということもあるでしょう。
別居・離婚については,いろいろと考えておかなければならないことがあるのですが,今回は「お金」の問題について,具体的には①慰謝料の相場②生活費(婚姻費用・養育費)の相場の二つについて,弁護士・法律事務所としての視点からお話をしたいと思います。
2.慰謝料が認められないケース
まず,別居原因・離婚原因と一口にいっても色々とあるのですが,いわゆる性格の不一致のような「どちらに責任があるとも決めがたい」ようなケースでは,基本的には慰謝料は認められません。
他方,不倫やDVのような,どちらかの責任で別居・離婚に至ったというようなケースでは慰謝料請求が認められると言え,その場合一体いくらくらいの慰謝料が認められるのかの問題となります。
なお,別居原因・離婚原因がどのようなものであったとしても,基本的には生活費(婚姻費用・養育費)の支払い義務が存在します。これは生活費(婚姻費用・養育費)の支払い義務は法律上の夫婦であることからくる生活保持義務を根拠とするとされていることによります。
そのため,たとえ別居・離婚の原因が支払いを受ける側の不倫やDVにあったとしても,原則としては,相場に従った生活費(婚姻費用・養育費)の支払い義務はなくなりません。不倫やDVは別に慰謝料請求などで解決しなさいというのが法律の立場なのです。
ここでは,最近の裁判所の判断の傾向から,特に別居・離婚の原因が相手方の不倫である場合の慰謝料の相場や生活費(婚姻費用・養育費)がどのように考えられているか見てみましょう。
3.不倫の慰謝料
不倫の慰謝料というと,不倫が原因で離婚することになった場合に請求する(される)ものであるというイメージをお持ちの方も多いのですが,実は離婚するかしないかとはかかわりなく,不倫による精神的苦痛を原因として,慰謝料請求をすることが可能です。
現在の裁判所の考え方も,①離婚そのものによる精神的苦痛と②不倫による精神的苦痛というものを分けて考えることが一般的です。
もちろん,離婚をする場合には①の離婚そのものによる精神的苦痛にプラスして②の不倫による精神的苦痛が合算されるのですから,離婚しないままで慰謝料の請求をする場合には慰謝料額の相場は低くならざるを得ませんが,それでも慰謝料請求それ自体ができないというわけでないのです。
むしろ,不倫に関する慰謝料を,適正な相場に従って支払わせることによって「責任をとらせる」ことが,その後の夫婦関係の再構築・やり直しのスタートになる・・ということもあるのかもしれません。
また,生活のことを考えると今すぐ離婚は難しいけど,夫婦としてすぐに再構築を考えることも無理という方もおられます。
そのような場合,不倫行為について相場に従った適正な慰謝料を受け取りつつ,別居を継続してお互いの考え方の変化を待つということも有効な選択肢といえるでしょう。
ここで大切なものは慰謝料の「相場」がどのくらいかということですが,①離婚せずに不倫の慰謝料請求だけを行う場合おおむね金50万円から100万円程度②不倫が原因で離婚に至った場合おおむね金150万円程度から250万円程度というのが大阪での相場感覚になります。
4.生活費(婚姻費用・養育費)
別居をしているとなると悩ましいのは生活費です。
我々弁護士も,生活費(法律的には婚姻費用・養育費)についてのご相談は請求する側(権利者),請求される側(義務者)のどちらからも多くお受けしています。
別居期間・離婚後の生活費(婚姻費用・養育費)は,基本的には支払いを受ける側(権利者)と支払いをする側(義務者)の収入および家族構成(子供の数および年齢)を基に,かなり機械的に計算されます。
そのため,裁判実務上では生活費(婚姻費用・養育費)についての「相場」は非常に把握のしやすいものとなっています(あくまで一例ですが,離婚前の別居状態で権利者の年収が0円,義務者の年収が500万円,14歳以下の子供が一人というようなケースでは生活費は月額10万円ほどになります)。
ただ,実際の紛争の場面では「相場」にあてはめるための相手方の年収情報の取得が難しかったり,あるいは年収を少なく申告しているのではないかというような疑いがあるケースも散見されます。
また,いくら「相場」はわかりやすいといっても,相手方との交渉で上手く丸め込まれてしまい「相場」以下の条件で合意してしまったというようなケースや,逆に離婚を急ぐあまり「相場」よりも高額な生活費で合意してしまったというようなケースも珍しくはありません。
5.最後に
こちらから不倫の慰謝料・生活費の請求をする場合はもちろんですが,請求を受けている場合にも,一度弁護士・法律事務所にご相談いただければ,よりご安心いただけるものと思います。
〈弁護士 溝上宏司〉