弁護士雑感

2022/05/16 弁護士雑感

【弁護士雑感】パワーハラスメント防止措置の義務化

 令和4年4月1日から、労働施策総合推進法に基づく「パワーハラスメント防止措置」が中小企業の事業主にも義務化されることになりましたが、まだまだ、多くの中小企業においては代表者や一部の上司が独善的であるなど、労働環境が整っているとはいえませんので、今回はそのことについて少し書かせて頂こうと思います。

 まず、御存じない方も多いように思いますが、上述のとおり、中小企業においても、パワーハラスメント(※1)の防止措置の義務化が施行されています。

 具体的には、①事業主の方針等の明確化および周知・啓発(パワハラ行為を行う者については、厳正に対処する旨の方針や対処の内容を就業規則等の文書に規定して、労働者に周知・啓発させる必要がある。)、②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備(相談窓口をあらかじめ定めておいて、労働者に周知し、相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにする必要がある。)、③職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応(事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害に遭った者とパワハラ行為を行った者に対して、それぞれ適正な措置を行い、再発防止に向けた措置を講ずる必要がある。)、④併せて講ずべき措置(相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知したり、相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取り扱いをされない旨を定め(※2)、労働者に周知・啓発する必要がある。)の4つが、事業主が必ず講じなければならない具体的な措置の内容として規定されています(厚生労働省のサイトにその詳細が規定されていますので、更に詳しく知りたい方はそちらもご参照ください。)。

 しかし、残念ながら、まだ施行されたばかりの段階ではありますが、4月以降に何件か労働関係の法律相談をお受けした中で、上記防止措置の義務化を意識し、しっかりと履践されていると感じられた会社はありませんでした。

 特に酷かった事例としては、配送業務を行う会社において、相談者以外にPCを扱える人材がいなかったことから、通常の配送業務に加えて、スケジュール管理等、PCの入力作業が必要な業務についても「お前しかできる者がいないのだから、お前がやれ。文句があるのなら会社を辞めてもらって構わない。」などと全てを相談者に対して行うように指示が出され、相談者は休憩時間を殆ど取ることができない労働環境下において勤務を続けたため、とうとう鬱病を発症してしまったにも拘らず、会社からは「うちは休職を認めていない。」との理由で、「休みたいなら、辞めろ。」と自主退職を迫られているという相談がありました。

 鬱病は、様々な要因が複雑に絡み合って発症するため、上記相談事例について、労働災害とするにはそれなりにハードルは高いといえますが、本件の様なケースで、相談者の方だけにPC業務を行わせているにも拘らず、「お前がやれ。文句があるのなら会社を辞めてもらって構わない。」と迫ったり、「休職したいなら辞めろ。」と迫るのは、優越的な関係を背景とした言動であることは明らかであり、また、業務上必要かつ相当な範囲を超えて、労働者の就業環境が害されているとも言えるかと思いますので、少なくとも相談者の方の上司の言動は、パワハラ行為に該当すると考えられます。

 労働者の方の権利が守られつつあるとはいえ、まだまだ、弁護士に相談などもできないままに泣き寝入りを強いられている労働者の方は多数おられるかと思います。御自身が会社によって理不尽な扱いを受けていると少しでも感じられた場合は、是非、お気軽に最寄りの法律事務所にでも法律相談に行かれて見てください(市役所等だけでなく、イオンモールなどでも法律相談を定期的に開催している所があります。)。

 私自身の感覚としては、労働環境における法的な整備は整いつつあると感じておりますので、労働問題に関する御相談については、労働者の方に有利な法的アドバイスを差し上げるケースがかなり多くなっているという印象を持っています。

弁護士 松隈貴史

※1

職場で行われる、➀~③の要素全てを満たす行為をいいます。

① 優越的な関係を背景とした言動

② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

③ 労働者の就業環境が害されるもの

※2

労働者が事業主に相談したこと等を理由として、事業主が解雇その他の不利益な取り扱いを行うことは、労働施策総合推進法において禁止されています。

© 弁護士法人橋下綜合法律事務所