2025/08/26 弁護士雑感
商標登録はなぜ必要?弁護士が教える企業が知るべきブランド保護の基本
1 はじめに
商標とは、商品やサービスを他と区別するためのマーク・名称・ロゴなどを指します。
企業経営者の方であれば、一度は商標登録について検討したことがある方も多いのではないでしょうか。
しかし同時に、「よくわからないし、面倒だ」と感じ、その検討を後回しにされている方も多いのではないでしょうか。
商標登録という制度は、自社のブランドを法律的に保護し、ブランド価値を高めると同時に、第三者による不正使用や模倣から防御するためにあります。
また、商標登録の制度上、商標登録を怠ることは、模倣品やなりすましにより風評被害を受けるおそれのみならず、他社にあなたのブランド価値を勝手に利用されることにもなりかねません。
この記事では、商標登録をしないまま放置するリスクを3つの観点で分けて紹介し、さらに、あなたの商標が他社に登録されてしまった場合の対応策もご紹介いたします。
2 リスクその① 自社の商標が勝手に使用される
商標登録をしていない場合、自社のロゴや商品名に似た商標を他社が使用し、競合製品が市場に出回る可能性があります。その結果、消費者がどちらの製品が自社のものであるかを判別できなくなり、売上の減少やブランドイメージを毀損しかねません。
また、他社があなたの商標を無断で使用して模倣品を製造・販売した場合、その品質が劣悪であれば、消費者は「自社の製品の品質が悪い」と誤解し、風評被害を受ける可能性があります。このような事態は、これまで築き上げてきたブランドの信用を著しく損ない、事業継続に深刻な影響を与えるでしょう。
3 リスクその② 自社の商標が他人に商標登録されてしまう
日本の商標法は「先願主義」を採用しています。これは、同じような商標が複数出願された場合、一番最初に特許庁に商標登録を申請した者が優先的にその商標権を得るという原則です。
この先願主義の下では、あなたが長年使用してきたロゴや商品名であっても、商標登録の手続きを怠っていた場合、他社が先に同じ、または似た商標を出願し、登録されてしまう可能性があります。そのようにして、他社に商標登録されてしまった場合、あなたは自社が長年使ってきた商標を自由に使えなくなり、最悪の場合、その商標の使用を中止せざるを得なくなることもあります。これは、ブランドの継続性や事業運営に深刻な影響を与えるリスクとなります。
4 リスクその③ 他社の商標を侵害してしまう
商標登録をしないまま事業を続けていると、意図せず他社の商標権を侵害してしまう可能性があります。先述の通り、日本の商標法は「先願主義」を採用しているため、あなたが長年使用している商標であっても、他社が先に登録していれば、その商標を使用する権利は他社にあります。
もし他社の商標権を侵害した場合、以下のような問題に直面する可能性があります。
・使用中止と変更の必要性が生じるー商標権に基づく差止請求(商標法36条1項)
商標権者から商標の使用を直ちに中止し、変更を求められる可能性があります。
これにより、今まで使用してきた商標に基づいて積み上げてきた知名度や信頼がリセットされてしまうことになります。
・損害賠償請求を受けるー不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条1項)
商標権者から、多額の損害賠償金を請求される可能性があります。
また、商標権侵害に関する損害については立証負担が軽減されており(商標法38条)、商品を販売して得られた利益のほとんどすべて又はそれ以上の額について、損害賠償に充てなけれなならないことになりかねません。
・信用失墜
商標権侵害訴訟が提起され、それが報道されると、取引先や顧客からの信用を失い、事業継続に深刻な影響が出る可能性があります。
商標権侵害については、「侵害していることを知らなかった」との反論としては意味がないため、商標権侵害は決して楽観視できません。事業を開始する前に、必ず「商標調査」を実施し、他社の商標権を侵害していないか確認することが重要といえます。
5 もし、他社にあなたの商標が登録されてしまったら
あなたの商標が他社に登録されてしまった場合に取りうる対応策は以下の通りとなります。
(1)登録異議申立て(商標法43条の2)
商標登録の公告日から2ヶ月以内であれば、「登録異議申立て」を行うことができます。これは、その商標が登録されるべきではないと主張する制度です。異議申立てが認められれば、その商標登録は取り消されます。
(2)無効審判請求(商標法46条)
すでに商標登録されてしまった後でも、一定の要件を満たせば「無効審判」を請求することができます。例えば、その商標が他人の周知な商標と同一・類似である場合や、不正な目的で登録された場合などに無効審判を請求できます。無効審判が認められれば、その商標登録は最初からなかったものとされます。
(3)不使用取消審判請求(商標法第51条、第52条の2、第53条)
登録された商標が3年以上日本国内で継続して使用されていない場合、不使用取消審判を請求することができます。審判が認められれば、その商標登録は取り消されます。ただし、不使用の正当な理由がある場合は取り消されません。
(4)契約交渉
上記のような法的手続き以外にも、商標権者と直接交渉し、その商標の使用許諾を得る、または商標権を買い取るなどの方法も考えられます。ただし、交渉には時間と費用がかかる場合があり、相手方の意向によって結果は左右されます。
6 まとめ
商標登録は、自社のブランドを守り、事業を円滑に進める上で不可欠な手続きです。
本記事でご紹介したように、商標登録を怠ることは、「自社の商標が勝手に使用される」「自社の商標が他人に商標登録されてしまう」「他社の商標を侵害してしまう」という3つのリスクを抱えるものなります。もっとも、商標登録を行うことで、今度は一転して、御社が、他社の不正使用に対し差止請求や損害賠償請求を行う側に立つことができ、自社のブランド価値を強力に保全することが可能になります。
弊所では、他業種および多数の事業会社の顧問業務の他、他事務所にはない特色として芸能界に関する法律事務を多数取り扱っており、その一環として商標に関するご相談も受けております。自社および、自社製品のブランド価値についてお悩みの際は、弊所にご相談ください。
〈弁護士 杉山幸太郎〉