弁護士雑感

2018/05/21 弁護士雑感

【弁護士雑感】買春について

 先月、新潟県知事が、出会い系サイトで知り合った女性に金銭を渡していたということで、その責任をとって辞職しましたが、そのことを報じた幾つかの記事には「買春」の文字が出ていました。「買春」については、何となくダメなことであることは分かっていても、法律上はどのような規制がなされているのかについて、多くの方はあまり御存知ないかもしれませんので、今回は「買春」について書いてみようかと思います。

 そもそも、「買春」とは何でしょうか。

 売春防止法は、第二条において、「『売春』とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう。」と規定しています。

 要は、お金などの見返りを得ることを約束して、色々な人と性行為をすることを「売春」といい、「買春」とは、「売春」の相手方となることを指す用語になるかと思います。

 一般的には女性側が男性側から見返りを貰うことが多いように思いますが、法律上は、男女に区別はありません。また、法律上「不特定の相手方」と規定されていますので、例えば、ある特定の方と、金品を貰う約束をして性行為をしたとしても、「売春」には当たらないことになります。

 なお、売春防止法では、第三条において、「何人も、売春をし、又はその相手方となってはならない。」と規定され、「売春」すること、売春の相手方となること(買春)を禁止していますが、罰則規定はありません。したがって、仮に「売春」をしたとしても、逮捕などの刑事処分をされることはないということになります。

(ただし、「売春」する様に勧誘したり、「売春」を周旋したりすると、刑罰を科せられます。)

 

 これを聞くと、「あれ?知り合いに買春で捕まった奴いるけど・・・」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、その方は、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下、「児童法」といいます)において禁止されている児童買春により捕まったものと考えられます。

 児童法は、第二条において「児童とは、十八歳に満たない者をいう。」と定義し、「児童買春」については、「次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。」と定義しており、第四条において、「児童買春をした者は、五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。」と規定しています。

 つまり、現行法上、十八歳未満の児童に対して金品等を渡す約束をして性的な行為(お気づきのとおり、児童法は、「性交等」と規定しており、売春防止法における「性交」よりも成立する範囲が広くなっています。)をした者は、五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金が科せられることになります。

 

 この様なお話をすると、「十八歳より上だと思っていた場合はどうなるのか?」といった御質問をよくお受けします。

 仮に本当に相手が十八歳より上だと信じていた場合には、犯罪の故意がないということになりますので、児童法違反の犯罪は成立しないことになります。ただし、「十八歳以上だと思っていた。」と言えば簡単に罪を免れることができるかといえば、もちろん、そんなことはありません。内心を立証することは現実的に不可能なわけですから、実際に相手が十八歳未満であった場合には、相手が積極的に十八歳以上だと嘘を付いており、その様な相手の嘘を信じるに値する十分な事情があるなど、一般的に、十八歳以上だと信じても仕方がないというだけの客観的事情が存しない限りは、裁判実務上、犯罪の故意が否定されることはありません。

 私も児童買春の刑事弁護を何度かしたことがあるのですが、十五歳の女性を買春しておきながら、「十八歳以上だと思っていた」などと弁解する猛者もおられたのですが、その内のお一人に、中国の方がいらっしゃいました。その方は、「相手が十七歳だということは知っていたが、日本で十八歳未満の人とお金を出して性行為をしてはいけないという事を知らなかった。」と話していました。

 最初の例の場合は、本当は十八歳未満である相手を、十八歳以上だと思っていたということですので、事実の認識に錯誤があるということになりますが、この方の場合、御自身が認識していた事実自体に錯誤があるわけではありません。あくまで、法律で禁止されているということを知らなかったに過ぎませんので、法律に錯誤があることになります。

 この点、判例実務上は、法律に錯誤があったとしても、故意は阻却されないことになっていますので、この方にはその旨を説明し、刑事手続きでは早々に事実関係を認め、相手方と相手方のご両親に謝罪することを勧めたところ、裁判まですることなく罰金刑にて終了となりました。

 他にも「児童と性行為をするに際し、金品を渡す約束をしていなければいいのか?」というご質問も稀にお受けするのですが、確かに金品を渡す約束などをしていなければ児童法にいうところの「児童買春」にはあたりませんが、各自治体が定める条例などに違反する可能性がありますので注意が必要です。また、そもそも金品のやり取りの有無に関係なく、刑法では十三歳未満の女性と性行為をすると、仮に相手の同意があっても強姦罪が成立しますので、ここも注意が必要です。

 前述の新潟県知事の例では、そもそも売春防止法にいうところの売春の相手方となる行為、すなわち買春にあたるのか、という点で疑問があるとともに、仮に買春にあたるとしても、何ら刑罰が科せられるわけではないため、法的には何ら処分はないということになります。

 そのため、政治的な責任の取り方は人それぞれかと思いますが、例えば、買春(当然、児童買春は除きます)をしていることが会社内部において問題となり、それが原因で上司から退職を迫られたような場合には、十分争う余地があると思われますので、弁護士に一度ご相談いただければと思います。

 個人的には、お互いに成人した男女である場合には、金品の授受があろうと、付き合い方は当人らの自由に任せるべきなのではないかと思う今日この頃です。

                            <弁護士 松隈貴史>

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