弁護士雑感

2016/06/28 弁護士雑感

【弁護士雑感】親の責任はどこまでか

 子供が他人に迷惑をかけてしまったとき、親としてどこまで責任を負わなければならないのか。

 小さな(小さくなくても)お子さんをお持ちの方としては気になるテーマかと思います。

 さて、まず前提としてお子さんが成人した場合には基本的に親といえども子供の行動について何らの法的責任を負うことはありません(※1)。

 子供であっても、親とは全く別人格を有する他人である以上、他人である子供の行動から生じた結果について親が法的責任を負う理由が存在しないからです。

 そしてこれは「民事上」「刑事上」共通の考え方です。また「民事上」というのは交通事故などのような不法行為責任が問題となる場面だけではなく、金銭消費貸借契約のような一般的な契約責任全般も含むものです。

 ときどき、お金の貸主さんから「子供が返せないのだから代わりに親が返す責任があるといわれている」というようなご相談もありますが、そのような貸主さんの主張は法律上は何の根拠もないものであり、貸主さんは法律に無知なだけなのか、それとも本当は親に責任などないことを知っていながら無理を言っているだけかのどちらかですので、気にするべきことではないでしょう。

 以上のように、お子さんが成人している場合にはもはや親が子供の言動の責任を負うということは無いのですが、お子さんが未成年の場合には、親が子供の言動の責任を負うという場面が出てきます。

 まず、お子さんが「責任能力がない場合」にはお子さん自身は何らの法律上の責任を負わない(民法712条)代わりに、当該未成年者を監督する責任を負う者が賠償責任を負うものとされています(民法7141項)(※2)。

 その結果、未成年者を監督する義務を負う者(通常は親権者である親です)が、お子さんの行動の結果についての法的責任を負うものとなるというものです。

 民法714条に基づく責任が発生するためには以下の要件を充たす必要があります。

 それは

 ①当該責任無能力者(未成年者)の行為が、責任能力以外の不法行為の要件を充たすこと

 ②監督義務を怠らなかったことまたは監督義務を怠らなくてもその損害が発生したことの証明がないこと

 です。

 そのため、損害賠償請求をする側からすると、未成年者の行為が一般的な不法行為責任の要件を充たすことを主張立証しさえすれば、あとは親の側で監督義務を果たしていたことなどを主張立証する必要があるということになり、その証明ができなければ民法714条の責任を負うということになるのです。

 では、お子さんが未成年ではあるものの責任能力は十分に備えているという場合はどうでしょうか

 民法714条はあくまで未成年者が責任能力を備えていない場合の規定です。

 そのため、未成年者が責任能力を備えている場合には、民法714条の適用は無く、原則として当該未成年者自身が損害賠償責任を負うということになります。

 そうです、未成年者に責任能力がある場合は、基本的には成人の場合と同様に考えるということです。

 ただ、この場合、なんといっても相手は未成年者ですから経済的に独立しているということも考えがたく、賠償に対する支払い能力が極めて乏しいことがほとんどです。

 また、子供が成人している場合とは異なり、親には未成年の子供に対する監督義務があることも確かです。

 そこで、この場合には

 ①親に監督義務違反が認められ、同義務違反が不法行為上の義務違反と評価でき

 ②同義務違反と損害との間に因果関係が認められる場合

 には、親自身について民法709条の不法行為責任が発生すると解されています(※3)。

 結局のところ、未成年の子供が行った行為から他人に損害が生じた場合には、親は責任を負う可能性があるということです。

 もっとも、この場合はあくまで民法709条の一般不法行為の適用の問題となりますので、親の監督義務違反についても損害賠償請求をする側で主張立証する必要があるという点で民法714条の適用を受ける場面と大きな違いがあります。

 実際に訴訟になると、ある特定の事実があったかなかったということを立証することはとても難しいことですので、このような違いは、最終的に親が損害賠償金を支払うことになるのか否かという点では大きな違いがあるといえるでしょう。

 当事務所でも、過去に責任無能力者である未成年者の行為で損害を受けた方、損害を与えてしまった方から賠償請求をされている親御さん、責任能力を有する未成年者の行為で損害を受けた方、同損害を与えてしまった方から賠償請求をされている親御さんなどのいずれの方からのご相談も受けており、各々の事件において御満足いただける解決を図ることが出来ました。

 しかしながら、その解決までに至る時間・労力・費用・金銭賠償だけでは必ずしも賠償しきれない損害の存在(※4)などに鑑みると、子供というものは思いもよらない行動を取るものだということを肝に銘じ、各人がきちんと子供と向き合って監督していかなければならないということを、みなさんにもご理解いただければと思ってやみません。

※1 子供自身の行動による場合はということです。親子で一緒にあって行った行動についてはもちろんこの限りではありません。

※2 「責任能力がない」かどうかは「何歳なら責任能力がある」というような明確なラインがあるわけではありませんが、、おおむね11歳から12歳程度を分水嶺として裁判所により判断されます。

※3 最判昭和49.322

※4 特に子供同士の諍い(いじめ問題含む)などでは大きな精神的なダメージを受けます。しかし現在の司法制度では損害は金銭に換算する外に方法がなく、司法手続きにおいてこのような損害を本当の意味で回復することは困難といわざるを得ません。

<弁護士 溝上宏司>

© 弁護士法人橋下綜合法律事務所