弁護士雑感

2017/04/24 弁護士雑感

【弁護士雑感】弁護士による判決文偽造について

 先日、ある弁護士が裁判所の判決を偽造したという事件がありましたので、今回はこの事件について、少し書きたいと思います。

 神戸新聞によると、「弁護士は13年7月ごろ、土地所有権の名義変更を求める訴訟を依頼されたが、提訴手続きを放置。依頼者に判決文を提示するため、パソコンで偽造し、今年3月10日ごろ、依頼者らにファクスで送信したという。偽造された判決文は2通あり、それぞれ神戸地裁社支部と大阪高裁の実在する裁判官名が記載されていたが、書記官名や印鑑はなかった。」とのことのようです。

 

 一般の方にとって「裁判」というのはあまり馴染みのない手続きですので、そのことから、「恐らく判決文など見たこともないし、バレることもないだろう」という心理が弁護士に働いたとしても、それ自体は不思議なことではありません。しかし、実際判決文を偽造して、それが明るみになれば、刑罰を受けるだけでなく、資格を失うという非常に大きな社会的制裁も受けることになりますし、単純に当訴訟提起をするよりも判決文を作成する方が遥かに頭も労力も使うように思いますので、この事件を聞いた時には、なぜ、判決文を偽造するという選択肢を選んでしまったのか、疑問でしかありませんでした。

 

 確かに、多くの法律相談の中には、無理難題をお願いされる方もおられ、弁護士として対応に非常に苦慮する場面があります。

 しかし、弁護士ごとに証拠の収集能力や、法律及び判例等の知識量などに差こそあれ、どんな弁護士であっても白いものを黒にする力はありません。それをするには、それこそ証拠の偽造等の違法な弁護活動が必要となります。そのため、どれだけ断りにくい依頼であっても、はっきりと無理なものは無理であると伝え、断る姿勢を示すということは弁護士の職務には不可欠であると思います。それをせずに、依頼者の方に期待を抱かせてしまうような曖昧な対応だけで、それを放置してしまうと、間違いなく新たな紛争の火種となります。もしかすると、この弁護士には、その姿勢が欠けていたのかもしれません。

 実は、私はこの弁護士とは修習時期が同じで、修習中に話もしたこともある人物でしたので、私としては他人事とは思えず、この事件によって、自身の業務に対する取組む姿勢について、改めて考えさせられました。その意味では、私は身の引き締まる大切な機会を頂いたわけですが、やはり、同時期に共に勉強して過ごした弁護士が、罪を犯してしまい、法曹界から去るかもしれないという事実は本当に残念でなりません。

 なお、昨年にも大阪で弁護士の判決文の偽造が発覚し、当該弁護士は、弁護士会からの除名処分と実刑判決を受けています(控訴されています)。そのため、私が危惧するのは、この二つの事件が氷山の一角なのではないかということです。前述のとおり、普通は弁護士から判決文を提示されれば、当該判決文を裁判所が作成したこと自体に疑問を抱く方というのはそれほど多くないかと思いますので、依頼した弁護士から偽造された判決文を渡され、それをそのまま未だ信じているという方もいらっしゃるかもしれません。

 過去に、弁護士に訴訟提起を依頼された皆様、その判決文は本当に裁判所が作成したものでしょうか。特に敗訴の判決文をお受け取りになられた方は、本当に裁判所が作成したものであるのかどうか、今一度ご確認された方が良いかも知れません。 

                                

 <弁護士 松隈貴史>

 

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