弁護士雑感

2022/08/17 弁護士雑感

【弁護士雑感】訴訟費用について

 先日、不貞行為に関する法律相談を受けた際、「腹が立って仕方ないので、相手に10億円請求したい。10億円も取れないと分かってはいるけど、このままでは腹の虫がおさまらない。」との御相談を頂きました。そこで、今回はこの様な御相談について、どのように対応すべきかについて、書いてみたいと思います。

 まず、そもそも10億円を請求するとなると、弁護士費用としては一体どれ位の金額になるのでしょうか。当事務所の報酬基準によると「3億円以上の経済的利益となる場合は、2%+369万円」とありますので、単純に計算すると2369万円(10億円×2%+369万円)に消費税を加えた金額となります。

 もちろん、いかなる法律事務所でも不貞行為に対する慰謝料を請求する場合に、これだけの金額を請求するということはあり得ず、相手方に如何なる額の請求をするかはさておくとしても、弁護士費用については協議して決定する事になるかと思いますが、単純に形式通り報酬基準にあてはめると、この様なデタラメな金額になることになります。

 では、弁護士費用はさておくとして、裁判所に納める費用は幾ら位になるのでしょうか。

 まず訴訟を提起するとなると、請求額に応じた印紙を訴状に貼付する必要があるのですが、印紙代は請求額に比例する形になりますので、仮に10億円の請求をするとなると印紙代だけで302万円(2022年現在)が必要となります。

 そうすると、近年では不貞行為に対する慰謝料として300万円が認められるということはなかなかありませんので、印紙代だけで既に赤字になってしまう可能性が非常に高いということになります。

 したがって、幾らお気持ちの問題があるとしても、10億円もの慰謝料を請求することは依頼者の方にとって不利益しかなく、弁護士としてはそのような御依頼を受けることはできないとの結論とならざるを得ず、最終的には相応の金額まで請求額を引き下げて頂くか、御納得頂けない場合には、御依頼をお断りさせて頂くことになります。

(このような話をすると、最近、東京地裁が東京電力の役員らに13兆円もの賠償金を認めた訴訟があり、この訴訟で要した弁護士費用や、裁判所に納めた印紙代は相当な金額になったのではないかとの疑問を抱かれた方もいるかもしれませんが、少なくとも当該訴訟は株主代表訴訟(役員に対する責任追及の訴え)であるため、「非財産権上の請求(160万円)」として、印紙代は1万3000円程であったと考えられます(弁護士費用は不明です。)。)

 不貞行為のような精神的苦痛に対する慰謝料については、人それぞれ感じ方も金銭的な感覚も異なりますので、人によっては受け入れがたい話かもしれませんが、印紙代というのも実は相応の金額を要するということは御記憶頂ければと思います。

 なお、余談ですが、最近弁護士ドットコムの記事で、弁護士を対象に、法曹三者(裁判官、検察官、弁護士)が裁判中に寝るのを見たことがあるか調査したところ、裁判官や弁護士については「ある」が約4割だった一方、検察官は1割にも満たないという結果が出たようです。

 当職も、一度だけ修習期間中に、法廷で居眠りをしている年配の刑事弁護人を見たことがありますが、あれは自分にとってもかなり衝撃的な出来事でした。結論の見えた事件であったため、気が緩んでしまったのだと思いますが、それでも法曹三者は「裁判」というものが、人の人生を左右する重大な局面であるということは決して忘れてはならないと思います。

〈弁護士 松隈貴史〉

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