弁護士雑感

2022/07/01 弁護士雑感

【弁護士雑感】本日(令和4年6月30日)の気になるニュース

 本日令和4年6月30日は裁判絡みでいくつか気になる判決やニュースがありました。

 一つ一つについて詳細に確認したり、お話をする余裕がないのが恐縮ですが、特に気になったものについて簡単に少し雑感的にお話をしてみたいと思います。

1 元KAT-TUNの田中聖さんが、前回の執行猶予付き判決からわずか9日しか経っていない今月29日に覚せい剤所持の疑いで現行犯逮捕されたとのニュースがありました。

 あくまでまた「逮捕段階」ですので、いかに現行犯逮捕とは言えまだまだ推定無罪の原則が働きますが、仮に被疑事実が事実であれば、このような執行猶予付き判決後、非常に早い時点で再犯に及んでしまうということは誠に残念なものという外ありません。

 ただ、当職のこれまでの経験や見聞したところでは、執行猶予付き判決が出たまさにその日のうちに再犯に及んだケースもありますし、判決前の刑事裁判中に再犯行為に及んだというケースさえ見聞きしたことがあります。

 そのため、今回のケースはかなり早い時点での再犯であるとはいえるものの、「異常事態」であるとか「前代未聞」とまで言うようなものではないというのが率直な感想です。※1

 刑事弁護の場面においてはいわゆる情状として、被害者への被害弁償(被害者との示談の成立)に並んで「再犯の可能性がないこと」に力を注ぐものです。

 そこでは①被告人が再犯をしないと主観的に誓っていること(これが嘘である場合にはそもそもお話になりません)を当然のスタートとして、如何に②客観的に再犯防止を担保することができるかということがとても大切です。

 この「客観的に再犯防止を担保すること」というのは、言い換えれば「仮にもう一度犯罪を行いたいという誘惑に負けたとしても、客観的に犯罪をすることができない」という状況を作り出すことになります。

 極端な話をしてしまえば刑務所の独居房のようなところに閉じこもれば物理的に犯罪を行うことは不可能となると思いますが、実際には皆さん生活もありますし、何よりも生きていかなければなりませんので、簡単にはいきません。

 ただ、本当に再犯防止を誓うのであれば、相当の負担まではこれを甘受して「客観的に犯罪ができない環境」に自分自身を措くことを考えるべきであるのだろうと思います。

2 最高裁判所が東京高裁においても有罪判決が維持されていた殺人事件について、弁論を開くことを決めたとのニュースもありました。

 最高裁が弁論開くときは、基本的に二審の判断を変更するときですので、有罪判決であった東京高裁の判決が覆り、逆転無罪となる可能性があるものということになります。※2

 刑事事件において無罪判決を獲得することと、最高裁での逆転勝訴となる判決を得ることは、ともに非常にレアなケースであるといわれていますが、もしも本件が最高裁による逆転無罪判決となるとすれば、二重の意味で稀有な判決がでるということになります。

3 新型コロナウイルス感染拡大に対応するためのいわゆる持続化給付金について、性風俗産業事業者が対象外とされていることは違憲・違法であるとして給付金の支給や損害賠償を求めた裁判について、東京地裁で請求棄却判決があったというニュースもありました。

 報道ベースでしか知らないのですが、判決では性風俗産業について「大多数の国民が共有する性的道義観念に反するもの」として、性風俗産業事業者に対して給付金を支給することは国民の理解が得られないので、性風俗産業事業者を支給対象から除外したことには「合理的な根拠がある」と判示したとのことです。※3

 当職の個人的な感想としては、そもそもコロナ関係の給付金は新型コロナウイルス感染拡大を受けて事業が立ち行かなくなった(あるいは立ち行かなくなりそうな)事業者に対する支援として制度設計されたものであって、「業界全体がコロナの影響を受けていないと認められるので支給には国民の理解が得られない」というのであればまだしも、「大多数の国民が共有する性的道義観念」というものは受給者の選別には関係がないものと言わざるを得ないと思います。

 このような「大多数の国民が共有する性的道義観念に反し、国民の理解が得られない」ということが除外理由として正当性を持つのであれば、例えばギャンブルであるとして批判の対象となることも多い「パチンコ業界」なども同様の理屈が成り立つでしょうし、もっと極端な話をすれば昨今厳しい目を向けられることの多くなってきた「ペットショップ等のペット業界」などですら同様の理屈が当てはまる(当てはめることができる)かもしれません。

 東京地裁では始関正光裁判官により「水商売に従事する女性は営業活動の一環として枕営業(売春)を行っている」「枕営業は相手方男性の妻に対する不法行為にはならない」という判断がなされたこともあるのですが、風俗産業・水商売産業などに対して何か特殊な見識をもった裁判官(そしてそれを国民・世間一般のものと誤解している)がいることは事実のようだと改めて認識しました。※4

〈弁護士 溝上宏司〉  

※1 特に本件が再犯率の非常に高い薬物事犯であることからすると、このようなこともそれほど珍しくはないものという外ありません。

※2 逆に二審の判断を維持する場合には3行ほどの短い文面の決定がなされることとなり、これは江戸時代の「三行半」にかけて俗に「三行決定(みくだりけってい)」などと言われます。  

※3 https://news.yahoo.co.jp/articles/f7fb87864f7a9bad933808195e20e132791da578

※4 https://www.news-postseven.com/archives/20150604_327045.html

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