弁護士雑感

2022/01/31 弁護士雑感

【弁護士雑感】太田光様の裁判について

 昨年12月24日、太田光様の日本大学への裏口入学を報じた株式会社新潮社(以下、「新潮社」と言います。)との裁判の控訴審判決があり、一審判決の通り、新潮社に対して440万円の支払が命じられました。

 この事件に携わらせて頂いた代理人として、本件裁判で感じたことを少し書かせて頂きたいと思います。

 まず、本件裁判については、上記の通り、当初、新潮社は上告する旨を述べておりましたので、私も新潮社は上告されるものとばかり思っていましたが、その後、新潮社から上告はなされず、光様も上告の意思はなかったため、本件裁判は、上記の判決内容にて確定となりました。本件の如く、事実の有無が訴訟の帰趨を決める事案においては、上告審で争うことに意味はないと言っても過言ではありませんので、その意味では新潮社の上告をしないとの御判断は悪戯に紛争を長引かせないという点から、英断であったと思います。

 しかし、その後、新潮社からは特に謝罪などの意向は示されておらず、いつもの通りに、株式会社タイタンに対しては取材依頼があるという状況であり、その点に関しては非常に遺憾に思っています。

 日本には「火のない所に煙は立たぬ」という諺があり、その様な考え方が根付いている我が国において、恐らく、本件のように賠償を命じる旨の判決が出ても、当該疑惑を読者の方の頭の中から完全に拭い去ることはできません(そもそも、本件の様な判決が出たことすら知らない人も大勢いらっしゃるかと思います。)。すなわち、決して消し去ることのできない損害を被害者の方に与えたという意味では、報道機関の責任は極めて重いことは間違いありません。

 そのため、少なくとも公的機関である裁判所に「真実であるとは認められず、また、真実であると認めるに足りる相当な理由もない」との認定がなされた以上は、御自身の言い分はさておき、まずは、その様な判断が下される内容の報道を報じてしまったことについては真摯に御反省を頂き、誠心誠意、被害者の方の名誉回復に尽力して頂くべきかと思います。 

 また、現状の名誉毀損の事案では、謝罪広告の掲載すら非常に敷居が高く、賠償額についても非常に低く算定されているため、仮に報道機関が経済的合理性のみを追求すれば、賠償金を支払ってでも、虚偽の事実を報じた方が増収増益を見込めるという最大の問題があり、少なくとも報道機関としては、そのような他意は全くなかったということを御説明頂く意味でも、真摯な謝罪というのは決して報道機関にとってもマイナスにはならないはずです。

名誉毀損に対する対応が、今後少しでもよくなることを心より願う次第です。

                             〈弁護士 松隈貴史〉

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