2021/05/14 弁護士雑感
【弁護士雑感】定期建物賃貸借について
最近、「建物賃貸借契約を締結しているのだが、賃貸人から契約の更新を拒絶されて困っている。」との御相談をお受けしました。よくよく話を伺うと、締結されていた契約は、「定期建物賃貸借契約」というものであり、更新のない賃貸借契約となっていました。「定期建物賃貸借契約」というのは、かなり賃借人にとっては恐い内容の契約になっていますので、注意喚起の意味も込めて、少し書かせて頂きたいと思います。
まず、御存じの方も多いかと思いますが、土地を建物所有目的で賃貸する場合や、建物を賃貸する場合には、借地借家法という法律の適用により、賃借人は非常に保護されています。
なぜ、このように賃借人の保護が図られているのかというと、建物所有目的の土地賃貸借や建物の賃貸借契約は、どうしても賃借人の生活に直結する事象であるため、横暴な賃貸人などから安易に生活の本拠地を奪われない様に賃借人を保護する必要があるためです。
例えば、建物所有目的で土地を賃貸した場合、民法の原則通りにいけば、賃貸借契約期間が経過してしまうと建物を解体して明け渡す必要があるのですが、借地借家法によって、建物所有目的の土地の賃貸借契約については、30年未満の契約期間を定めても、自動的に30年になります(借地借家法3条)。
他にも、建物を賃貸において、賃貸人から更新しない旨の連絡がないままに契約期間が満了した場合、従前の契約と同一の条件で契約が更新されます(「法定更新」といいます。)(借地借家法26条1項)。また、更新拒絶をする場合にも、「正当な事由」が必要と規定されています(借地借家法28条)。ここに「正当な事由」とは、「建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮」する旨が規定されており(借地借家法28条)、単に、「自分が住居として使うから」というような主観的理由のみでは全く足りないと解されていますので、「正当な事由」が認められるだけの条件を整えるのは、かなりハードルが高いと御理解頂いてまず間違いありません。
したがって、通常の賃貸借契約であれば、借地借家法によって相応の保護が受けられるため、賃借人としては何か困ることというのは基本ないのですが、一方で、その様な借地借家法の保護を受けない「定期建物賃貸借契約」という契約の締結も認められています。
定期建物賃貸借契約によれば、更新は予定されていないことから、賃貸人から適式な方法で契約終了の申し入れがあれば、期間満了時に正当な事由がなくても、契約は有効に終了します。
そのため、例えば、かなりの費用をかけて当該建物を改装したとしても、契約期間がくれば、原則全て原状に戻したうえで、明け渡さなければなりません。
私が御相談を受けた相談者の方は、「定期建物賃貸借契約」というものをあまり理解できておらず、お願いすれば更新できるものだと考えており、非常に困っていました。
定期建物賃貸借契約をするには、当該契約を締結する前に、「契約の更新がなく、期間の満了とともに契約は終了する」ということを、事前に書面により説明することが要件とされており(借地借家法38条2項)、逆に言うと、その様な要件を満たしていない建物賃貸借契約は、定期建物賃貸借契約とはなりませんので、通常どおり、借地借家法の適用を受けることになります。そのため、上記のような御相談の場合、まずは、本当に定期建物賃貸借契約として有効な契約であるのか否かについて、調査をしていくことになります。
もし、仮に御自身が賃貸借契約の締結を希望している物件において、賃貸人からは「定期建物賃貸借契約」の締結を迫られているような場合は、上記のようなリスクがあることを十分に理解されたうえで、御契約を頂くよう、宜しくお願い申し上げます。
〈弁護士 松隈貴史〉