弁護士雑感

2016/12/26 弁護士雑感

【弁護士雑感】動物は「物」か「家族」か

 現在の日本の法律上、ペットを含む動物をどのように捉えるかということはある意味で非常に明確に決められているものといえます。

 それは、日本の法律上、動物は「物」として取り扱うということです。

 例えば、他人の飼育している動物を殺傷した場合、基本的にその刑事責任としては「器物損壊罪」(刑法261条)が適用されることとなります※1。

 また、他人に飼育している動物を殺傷されてしまった場合に、民事上の損害賠償請求を行ったとすれば、その認容される賠償額は原則としてその動物を「物」と見た場合の経済的価値(要するにペットショップなどにおいて同種同年齢の動物を購入するのに必要な価額)ということになり、飼育していたペットを失ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料などは認められることはないか、あったとしても極例外的なケースであり、しかもその金額はとても少ないということになります。※2

 このように、動物(特にペットなどの愛玩動物)をめぐっては、一般の方々の気持ちや思いと、法律上の取り扱いは大きく異なるものとなっているということになります。

 なお、当職が実際に経験したわけではありませんが、過去に見聞きしたケースとしてペットの医療過誤事件において、医療過誤の有無を正確に判断させようと、医事専門部(大阪地裁の場合171920民事が該当します)への移送を上申してきた原告がおられたというものがありました。

 獣医の医療行為の適否を判断するには、人間の医療行為の適否の判断と同等程度の知識知見が必要であるとの思いからの行動であったということは容易に推測が出来ますし、一定程度合理性のある主張であるとは思うのですが、その結果はやはり移送は認められないというものであったとのことです。

 犬や猫、あるいはそれ以外の動物を、まるでわが子同前の家族として迎え入れ、愛情をもって一緒に暮らしている方々は多いことかとは思いますが、そのような現実にあまり対応できていない(または対応しようとしていない)のが、残念ながら現在の日本の裁判所の考え方であるといえましょう。※3

 愛犬家を自称する当職としては残念ではありますが、ペットを含む動物の法律上の取り扱われ方を十分に理解し、飼い主の皆さんが自己防衛として大切なペットを守ってあげるしかないということをご理解いただければと思います。

 

※1 動物の愛護及び管理に関する法律などにより処罰されることもあり得ますが、まだまだ少数派です。

※2 例えば、代表的な愛玩動物である犬猫などを殺傷された場合には、せいぜい10万円から20万円程度が上限ということになります。

※3 もっとも、この点は所詮は価値観の相違であり、現在の日本の裁判所の立場(動物は「物」に過ぎないとし、ペットなどであっても何らの区別を設けない)に賛同する方も多くおられるでしょうし、そのこと自体は間違いというわけではないと思います。



<弁護士 溝上宏司>

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