2026/07/14 弁護士雑感
問題社員への対応と合法的な解雇の進め方|労働法に基づいた正しいリスク管理
「社員の勤務態度が悪い」
「社員が社内トラブルを起こす」
皆様はこのようなご経験をしたことはありませんか?
経営者や人事担当者にとって、組織の和を乱す「問題社員」への対応は、精神的にも時間的にも大きな負担となります。真面目に働く他の社員への悪影響や、生産性の低下を考えると「一刻も早く辞めてほしい」と願うのは無理もありません。
しかし、感情に任せて即座に解雇を言い渡すのは極めて危険です。日本は世界的に見ても解雇規制が非常に厳しい国であり、安易な解雇は『不当解雇』とみなされ無効とされるリスクがあります。万が一、解雇が無効と判断されれば、従業員の復職を受け入れざるを得ないだけでなく、解雇期間中の賃金を遡って全額支払う義務(いわゆるバックペイ)や慰謝料を支払う義務が生じる可能性もあります。また、解雇予告手当の不払いなど、労働基準法に抵触する解雇をすれば、「6箇月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金」を科されるおそれもあります。
そこで本記事では、労働法の知識に基づき、問題社員へいかに適正に対処し、最終手段としての「合法的な解雇」をどう進めるべきかを詳しく解説します。
- 労働法における「解雇」の厳格なルール
前提として解雇について法律がどのように定めているのかを解説します。
日本の労働契約法第16条では、解雇について以下のように定められています。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
つまり会社が社員を解雇するためには「客観的な合理的理由」と「社会通念上の相当性」の2要件を満たさなければなりません。こう聞くと解雇は簡単に認められそうにも思えますが、実際は裁判所が解雇を有効と認めるハードルは非常に高く、単に「仕事ができない」「少し態度が悪い」程度では不十分です。ではそれぞれの要件について解説していきます。
①客観的に合理的な理由があること
読者の皆様はどのような場面で社員を解雇したくなるでしょうか。
例えば
・社員が業務と関係のないところでけがや病気で働けなくなった
・職務に対して社員の能力が不足している
・社員が遅刻やサボりばかりで、勤務態度が悪い
・社員が業務命令に違反する
といった場面で社員を解雇したくなるのではないでしょうか。実際、勤務態度が悪いだけでなく、職場でトラブルを巻き起こされたらたまったものじゃありませんよね。そうすると「あの野郎、解雇してやる」って気持ちが沸き上がるのもわかります。
しかし現在の労働関係法は労働者にやさしく、使用者にはとんでもなく厳しいのが現状です。上記した場面に該当したからといって、直ちに「客観的に合理的な理由がある」とは言えません。裁判所は、様々な要素を考慮してそれでもなお解雇に「客観的に合理的な理由がある」かを判断しています
では様々な要素とは何か?ありていに言ってしまえばケースバイケースです。解雇の理由によって本当に様々です。
例えば一例として社員を能力不足を理由に解雇する場面を想定してみましょう。
この時、裁判所はその解雇に「客観的に合理的な理由があるか」を判断するために、
・そもそも雇用契約上、その社員に求められていた能力は何か
・求められる能力が不足しているとして、その能力不足は雇用契約を継続できない程に深刻なものなのか
・会社側は社員の能力が不足を改善するためにできる限り手助けをし、改善の機会を与えたか
・教育や研修等を行ったとしても、今後も改善される見込みはないのか
・会社側が「その社員を別の部署に異動させて適性を探る」など解雇を避けるための努力を最後まで尽くしたか
などの要素を考慮しています。そしてこれらすべての要素満たして解雇に「客観的に合理的な理由がある」とするのは非常にハードルが高いです。
さらにこの要素は解雇の理由(社員が病気で働けない、社員の勤務態度が悪い、社員が業務命令に従わない、会社の経営が苦しいなど)やその他事情によって変化します。そのため解雇に客観的に合理的な理由があるか、ひいては解雇が有効であるかの判断は専門家でなければ難しいと考えられます。
②社会通念上相当であること
解雇に「客観的に合理的な理由がある」と認められても、「社会通念上相当である」と認められなければ解雇は無効となります。
そして解雇が「社会通念上相当である」といえるかの判断要素もケースバイケースですが、よく取り上げられる要素について挙げます。
・解雇まではしなくてもよかったんじゃないか
社員の問題に対して、解雇(職を奪うという最も重い制裁)を選ぶことが「やりすぎ」ではないかという点が重要です。例えば、「一度の遅刻でクビ」というのは明らかにやりすぎ(不均衡)とみなされます。もっと軽い処分(減給や出勤停止など)で済む話ではないかが見られます。また、当該処分が他の社員への処分・過去の処分例と比較して不公平ではないかも見られます。
他にも、社員が反省しているか、過去の勤務態度は真面目だったか、家族はいるか等も考慮される可能性があります。
・嫌がらせなどの不当な目的はないか
不当な動機・目的での解雇は当然だめです。
・正しいルールと手順で進めたか
就業規則のルールに従って手続きを進めたか、本人の言い分をきちんと聞く場を設けたか(弁明の機会を与えたか)といった、プロセスの正当性も判断に大きく影響します。
これらの要素をすべて満たして、解雇が「社会通念上相当である」と認められることも実務上ハードルが高いことを思えば、日本で解雇が有効であると認めらえることはかなり厳しいと言わざるを得ません。
- 問題社員への「段階的」な対応ステップ
問題社員を解雇することはかなりリスクのある選択であることは上述した通りです。なら指をくわえて社員の問題行動を見逃すのか?そんなわけはありません。
そこで問題社員への対処方法について解説します。
①問題社員の問題点の記録及びそれに対する注意・指導の徹底と記録
いきなり解雇するのではなく、まずは問題社員の何が問題かを客観的記録として残します。さらに問題社員に対して、その問題点について口頭、および書面での注意・指導を行います。この注意・指導についても、「いつ、誰が、誰に対して、どのような問題行動に対し、どのような注意・指導をしたか」をすべて記録に残しましょう。前述のとおり、裁判では、会社側が社員に改善を促し、努力反省の機会を与えたかどうかが厳しくチェックされます。
※だからといって行き過ぎた指導をしてパワハラにならないようにしてください。
② 懲戒処分の検討
注意しても改善されない場合、就業規則に基づき「戒告」「譴責(けんせき)」「減給」「出勤停止」などの軽い懲戒処分を段階的に行います。いきなり重い処分を下すのではなく、段階を踏むことで「会社は最大限努力した」という証拠になります。
③ 配置転換や教育訓練、
社員が能力不足である場合、現在の業務が合っていない可能性を考慮し、配置転換(部署異動)等の方法で新たな適性を探ることを検討します。また、スキルアップのための研修を実施することも「解雇回避努力」として評価されます。
また、社員が怪我等で今まで従事していた仕事をできなくなった場合にも別の業務やほかの部署での労働ならこなせるかを検討し、実際に従事させることも「解雇回避努力」として評価されます。
④ 休職制度の利用
就業規則に休職制度がある場合は休職を命じ、休職期間満了まで待ちましょう。休職期間の利用は「解雇回避努力」として評価されます。また、就業規則の条項次第では、休職期間満了により当然退職となることもありえます。
④退職勧奨(話し合いによる解決)
解雇はリスクが高いため、まずは「退職勧奨」を行い、合意の上で辞めてもらうのが最も安全です。
社員が合意して退職したのであれば、訴訟リスクが低く、円満な解決が図れるという点でメリットがあります。もっとも社員が本心から合意して退職していなければならないので退職を強制してはいけません。退職を強制したと判断されると労働審判や訴訟で退職が無効であると判断される恐れがあるうえ、慰謝料等も請求される恐れがあります。
これらの対処は、解雇を避けて問題社員を退職させられる可能性を有するのみならず、解雇の有効性を法的に争われた場合に、会社側に有利な要素となります。
3. 弁護士に相談する3つの大きなメリット
解雇が有効であるか否かの判断は専門家でなければ難しいです。それにもかかわらず、独自の判断で問題社員を解雇してしまうことはリスクが極めて高いです。例えば解雇が無効と判断されると、無効期間中の賃金を問題社員に払わないといけません。つまり問題社員を解雇してからその解雇が無効と判断されるまでの期間が長ければ長いほど、バックペイの金額は膨れ上がるというリスクもあります。しかし、だからといっていつまでも問題社員を放置していると会社に悪影響が出るため何かアクションを起こさないといけない。
そこで問題社員への対応を自社だけで完結させようとせず、弁護士に相談することが被害を最小限に抑えられることに繋がります。
具体的には、以下のメリットがあります。
① 法的リスクの正確な判断
「この証拠で解雇が認められるか?」という判断は、過去の膨大な裁判例を熟知した専門家でなければ困難です。弁護士は、現状の証拠で勝てる見込みがあるか、不足している証拠は何かを的確にアドバイスします。また、解雇ができなくとも、問題社員に対して今後どのように対処していくかについて適切なアドバイスをします。
② 書面作成のサポート
指導記録、改善勧告書、退職合意書など、法的効力を持つ書類の作成をサポートします。言葉一つで「強要」と取られるリスクを排除し、会社を守るための万全な書類を準備できます。
③ 退職交渉の代理・立ち会い
経営者にとって、問題社員と直接対峙するのは大きなストレスです。弁護士が交渉を代理したり、立ち会ったりすることで、冷静かつスムーズな話し合いが可能になります。また、相手方に「会社の本気度」を伝える強力なメッセージにもなります。
弁護士 山中智生

