2017/05/08 弁護士雑感
【弁護士雑感】法廷用語あれこれ
1 民事刑事を問わず、基本的に訴訟手続きというものは「公開」されています。
ですので、その事件とは関係のない一般の方であっても原則として自由に傍聴することが可能です。※1
実際、裁判傍聴がお好きな方でいろいろな事件を趣味的に傍聴されているのだろうなと思われる方を見かけることも多いですし、著名な事件などでは裁判期日に傍聴券を求めて長蛇の抽選のための列ができるなどということも珍しい話ではありません。
2 さて、この傍聴ですが、実際に裁判を傍聴された方の感想としてよく聞くのが 「何 か専門用語のようなものが使われていて、しかもすぐに手続きが終わってしまった。何をしているのかよくわからない。」というものがあります。
そこで、今回はこの法廷用語について、少し解説してみたいと思います。
用語1 「陳述します」
民事訴訟を傍聴して、おそらくもっとも多く聞くのはこの「陳述します」ではないかと思います。
この「陳述します」というのは日本語としては単純明快、ある事柄を申し述べるという意味なのですが、法廷で用いられている際にはいったい何を申し述べているのかが出てきませんのでそれだけを聞いても全くわからないということになります。
では、「陳述します」とはいったい何を申し述べているのか。それは裁判の期日間に各々が提出した書面(訴状・答弁書・各準備書面などの主張書面)について、その記載内容をここで読み上げたものとします・・ということなのです。
民事裁判(特に口頭弁論期日)においては、①公開主義②直接主義③口頭主義④双方審尋主義という原則がありますが、なかなかこのような「原則」通りに裁判実務を運用するということは困難です。
そこで、実際と原則とのつじつま合わせのような形ですが、理屈の上ではキチンと口頭で主張を述べたという建前を維持しつつ、審理に係る時間を短縮するために「陳述します」などという言葉の用いられ方が生まれてきたものと言えます。
用語2 「進行にご意見はありますか?」
これは裁判官が原告または被告に対してよく問いかけている言葉です。
ここでいう「進行」というものは、今後の訴訟進行(つまり今後の審理の予定)を指し、「進行にご意見はありますか?」というのは大まかに言ってしまえば「今後の反論の書面や証拠の提出の予定はどうなっていますか?」というような意味ということになります。
ただ、基本的に訴訟の進行について指揮権を有しているのは裁判官であるので、その裁判官が敢えて上記のような質問をするということに実はあまり意味はなく、その真意の部分として「和解に向けた話し合いに応じるつもりはありますか?」という意味が含まれているということが往々にしてあります。
もっとも、そのような含意なく、特に深い意味などなく単純に今後の主張や立証の予定を聞いているだけということもままあるので、これはなかなか読み取りにくい質問であるということができます。
用語3 「しかるべく」
言葉通りに受け止めるならば、「正しく適切なものとして処理されるようにお任せします」とでもいう意味になるのでしょうか。
しかし、法定用語として登場した場合、そのような意味とは異なります。
「しかるべく」という言葉が出てくるのは、相手方の訴訟行為に対しての同意不同意などの意見について、裁判所から尋ねられた場合です。
この場合、「しかるべく」とは要するに「同意します」と同じ意味で用いられているということができます。
用語4 「お請けします」「差支えです」
これは、多くは次回の裁判日程の調整などの場合に用いられるもので、その候補日を次回裁判予定日として受け入れることができる場合には「お請けできます」、既に別の予定が入ってしまっており受け入れることができない場合には「差支えです」などというようにして用いられます。
この「お請けします」というのはボソボソと発言する弁護士も多く、ある弁護士の方のブログでは「自分が新人時代、『お請けします』というのを『OKします』と答えていると思って、ずいぶんラフな口調で受け応えするものだと思っていた」などと、持ちネタとしか思えない。
また、「差支えです」といったところで、裁判所から根掘り葉掘り差支えの理由を確認されるというようなことはないために、次回提出予定の書面作成の時間的マージンを確保するために「差支えです」と回答する方もおられるのではないかと思っています。※2
3 ざくっと、いくつかの法廷用語を挙げてみましたがいかがでしたでしょうか。
皆さんが裁判を傍聴される機会があれば、このような法廷独特の言い回しにも気を 付けて傍聴されると、目の前で何が起こっているのかを理解しやすくなることかと思います。
※1 もちろん、弁論準備手続などの非公開の手続きもあります。
※2 とはいっても、稼げる時間的マージンはせいぜい1週間程度ですが。
【弁護士 溝上宏司】