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2026/09/08 新着情報

インフルエンサーが契約の際に注意すべきポイント ~個別契約編~

1 はじめに

 近年、SNSの普及に伴い、インフルエンサーやYouTuberといったクリエイターの影響力が増大し、企業の商品やサービスのプロモーションに欠かせない存在となっています。それに伴い、インフルエンサーが企業や芸能事務所との間で締結する契約書のトラブル、報酬未払いのトラブル、さらには著作権や肖像権といった知的財産権を巡るトラブルも増加しています。

 以前の記事〈インフルエンサーが契約の際に注意すべきポイント~マネジメント契約編~〉では、インフルエンサーが芸能事務所等と締結する「専属契約」や「エージェント契約」といった、活動全般を包括的に取り扱う契約(以下「マネジメント契約」といいます)について解説しました。

 もっとも、インフルエンサーが実際の収益活動を行う場面では、マネジメント契約とは別に、案件ごとに個別の契約書を取り交わすことが一般的です。企業から依頼を受けるPR投稿、イベントやテレビ番組への出演、動画編集や記事執筆の受託など、その内容は多岐にわたります。

 本記事では、こうした「個別契約」全般について、インフルエンサーやクリエイターの方々が契約締結時に特に注意すべきポイントを、タレント・インフルエンサー関連の法律相談を多く手掛ける弁護士が解説します。なお、契約に関連する重要な法律として「フリーランス新法」がありますが、その詳細な解説は別の記事にて改めて紹介する予定です。

この記事でわかること

・インフルエンサーが個別契約を締結する際に確認すべき重要ポイント5つ(業務内容/報酬/違約金/中途解除/秘密保持)

・3つの契約類型(PR案件/出演契約/編集委託契約)において特に確認すべきポイント

2 個別契約とは ーマネジメント契約・エージェント契約との違い

 個別契約とは、マネジメント契約のように活動全般を包括的に取り扱う契約とは異なり、案件(案件単位の業務)ごとに締結される契約を指します。代表的なものとして、以下のような契約類型が挙げられます。

・プロモーション委託契約

PR投稿・タイアップ投稿など、いわゆる「PR案件」に関する契約。「タイアップ契約」と呼ばれることもあります

・出演契約

イベント登壇、企業案件でのトークショー出演、テレビ番組・CM出演など

・撮影編集等委託契約

動画編集、記事執筆、構成作家業務など、制作物の作成そのものを受託する契約

・その他

コラボ商品の企画・監修契約、講演契約なども個別契約によって契約内容を確定することが一般的です

 マネジメント契約を締結している事務所所属のインフルエンサーであっても、案件ごとに個別契約を別途締結するケースは多く、また、フリーで活動するインフルエンサーであれば、案件のたびにこの個別契約のみを締結することになります。

 なお、上記のような個別契約は、法的には「成果物の完成」を目的とする請負契約(民法632条)としての性質を持つ場合と、「一定の役務の提供」自体を目的とする準委任契約(民法656条)としての性質を持つ場合とがあります。この違いは、途中で契約が終了した場合の報酬請求権の有無や、成果物に不備があった場合の責任(契約不適合責任)の内容に影響するため、自分が締結しようとしている契約がどちらの性質を持つのか、契約書の記載から確認しておくことが望ましいでしょう。

3 全ての個別契約に共通して確認するべきポイント

まずは、契約類型を問わず、個別契約を締結する際に共通して確認すべきポイントを整理します。

3-1 業務内容・成果物の特定

 「何を、いつまでに、どのような形式で納品するのか」が具体的に定められているかを確認しましょう。業務内容が抽象的なまま契約を締結すると、「想定していた内容と違う」という理由で追加対応を求められたり、報酬の支払いを拒否されたりするトラブルにつながります。

3-2 報酬に関する条項

報酬の金額・算定方法:固定報酬か、成果報酬(再生回数・購買数連動など)かを確認する

支払時期・支払方法:「納品完了後〇〇日以内」など、具体的なスケジュールを確認する

消費税・源泉徴収の取り扱い:報酬額が税込みか税別か、源泉徴収の有無を確認する

 なお、契約内容や取引関係次第では(通称)フリーランス新法の適用範囲となり、報酬の支払期日については、同法によって一定のルールが設けられていますが、その内容は別記事で詳しく解説します。

3-3 違約金条項

 投稿期日への遅延、事前承認を得ない内容変更、競業避止義務違反、契約の中途解除など、どのような場合に違約金が発生するかを確認しましょう。特に以下の点に注意が必要です。

・違約金の金額・算定方法が具体的に定められているか(「損害の全額を賠償する」という記載は上限がなく高額請求のリスクがあります)

・違約金のほかに実損害の賠償まで求められる規定になっていないか

・天災や体調不良などインフルエンサーの責めに帰さない事情による不履行について、免責規定(不可抗力免責)があるか

3-4 契約期間・中途解除に関する条項

 企業側の都合による契約の中途解除・不更新について、事前予告や理由開示に関する定めがあるかを確認しましょう。企業側が無条件に一方的に解除することが可能な条項が組み込まれていると、契約内容の準備や作業に費用をかけて進めていても反故にされ、損失を被る可能性もあります。

 なお、2024年11月1日に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称:フリーランス新法)は、インフルエンサーのように個人で業務委託を受けて働く方(フリーランス)を保護するための法律であり、契約の中途解除・不更新の際の事前予告義務や、報酬の支払期日、ハラスメント対策など、個別契約に関わるさまざまなルールを定めています。その具体的な内容については、別のコラム記事にて改めて詳しく解説する予定です。

3-5 秘密保持に関する条項

 企業から開示された未公開情報(新商品の情報、契約条件など)についての秘密保持義務の範囲や、SNS等での発信が禁止される事項が明確になっているかを確認しましょう。

3-6 契約書がない場合の注意

 契約は口頭でも成立し得るというのが法律上の原則です。「口頭でOKと言われた」「メッセージアプリで合意した」という場合でも、契約として有効に成立する場合があります。しかし、後から「そのような合意はしていない」というトラブルになった際に、口頭の合意内容を客観的に立証することは容易ではありません。修正の合意があった場合は、契約書自体を修正するか、覚書として書面に残しておくことをお勧めします。

4 契約類型ごとに追加で確認すべきポイント

 以下では、プロモーション委託契約、出演契約、編集等作成委託契約について、契約類型ごとに特有の注意点を解説いたします。

4-1 プロモーション委託契約(PR案件)

著作権・著作者人格権に関する取り決め

 インフルエンサーが制作した投稿(写真・動画・テキスト等)は、原則としてインフルエンサー自身が著作権を有します(著作権法17条)。契約書に「本件制作物の著作権は企業に帰属する」と定められている場合、著作権が企業に移転し、自身のポートフォリオとしての利用等が制限される可能性があります。

 そのような場合、仮に、タイアップ動画を自身のアカウント上での投稿し、それが大きくバズって史上最大の再生数を記録した場合であっても、契約終了時や、企業側の請求があった際には該当動画を削除しなければならない場合もあります。

 そのような事態を避けるために、著作権を制作者側に留保し、企業には利用許諾(ライセンス)のみを付与する内容への修正交渉も検討に値します。

 あわせて、「著作者人格権を行使しない」旨の不行使特約が定められているかどうかも確認しましょう。この特約がある場合、企業が投稿内容を編集・改変することについて異議を述べることが困難になる場合があります。

二次利用の範囲について

 タイアップによって作成された映像や写真等が、自社サイトやテレビCM、他のSNS媒体への転用など、投稿の二次利用が想定される場合は、利用媒体・利用期間・追加報酬の有無を契約書上で明確にしておくことが重要です。

ステルスマーケティング規制への対応について

 2023年10月1日から、景品表示法上の「ステルスマーケティング規制」が適用されています。これは、事業者(企業)からの依頼であるにもかかわらず、一般消費者がその表示が広告であることを判別できない投稿を、景品表示法上の不当表示として規制するものです(景品表示法5条3号、令和5年内閣府告示第19号)。規制の名宛人は企業ですが、契約書において「PR表示の禁止」や「自然な投稿に見せること」を求める条項が含まれている場合、その内容自体が規制に抵触するおそれがあるため、応じるべきではありません。表示の方法・位置についても、消費者庁の運用基準を踏まえた指定になっているかを確認しましょう。

 ステマ規制に関して詳細に知りたい方は、こちら【ステルスマーケティング規制のポイント ~メーカーやその他事業者・芸能人、インフルエンサー、アスリートが知っておくべき法律知識~】の記事をご覧ください。

4-2 出演契約(イベント登壇・企業案件での番組出演・CM出演など)

肖像権・パブリシティ権に関する取り決めについて

 出演契約においては、撮影・収録された映像や写真の利用範囲が特に問題となります。氏名や肖像は、判例上、人格権に由来するものとして保護されており、有名人については、顧客吸引力を排他的に利用する権利(パブリシティ権)も認められています(最高裁平成24年2月2日判決:ピンク・レディー事件)。

 そのため、契約書において、利用目的・利用媒体・利用期間が無制限に広く定められていないか、追加利用の際の対価が定められているかを確認しましょう。

出演の中止・キャンセルに関する条項について

体調不良や事故等により出演できなくなった場合の取り扱い(違約金の有無、代替出演者の手配義務の所在など)を確認しましょう。逆に、企業側の都合で出演がキャンセルされた場合の報酬の取り扱い(キャンセル料の有無)についても確認が必要です。

収録内容の編集権限について

 収録した内容をどの範囲まで編集できるか(発言内容の切り取り、演出上の脚色の可否など)が明確になっているかを確認しましょう。事前の内容確認(試写・確認プロセス)の機会が契約書上保障されているかも重要なポイントです。

拘束時間・安全配慮について

 拘束時間の上限や、休憩・移動に関する取り決めがあるかを確認しましょう。なお、前述のフリーランス新法では、ハラスメント対策に関するルールも定められています。収録現場等でハラスメントに類する対応があった場合の相談先が契約書や事務所内で明確になっているかも、確認しておくとよいでしょう。

4-3 編集等作成委託契約(動画撮影、編集・記事執筆・構成作家業務等の受託)

納品物の品質基準・修正回数等について

 「イメージと違う」といったトラブルを避けるため、納品物の仕様(尺、文字数、フォーマット等)や、無償で対応する修正の回数・範囲が具体的に定められているかを確認しましょう。

著作権の帰属について

 編集委託契約では、インフルエンサー自身が受託者としてコンテンツを主体的に制作する立場になります。この場合、制作した動画・記事の著作権が発注者・受託者いずれに帰属するのか、二次利用の可否も含めて確認しておく必要があります。特に、当該作品を自身のポートフォリオとして今後の営業活動に利用したい場合は、著作権の帰属先にかかわらず、契約終了後の利用について別途許諾を得られる規定にしておくことが望ましいでしょう。

検収の基準・タイミングについて

 完成物の納品を要する契約の場合「検収完了」をもって報酬請求権が発生する契約となっている場合があります。その場合は検収の基準や、検収に要する期間の上限が定められているかを確認しましょう。検収基準が曖昧な場合、企業側の一存で長期間報酬が支払われないリスクがあります。

再委託の可否

 契約によって定められた目的物の完成に向けた作業の一部について、自身がさらに別の制作者に業務の一部を再委託することが想定される場合、契約書上再委託が禁止されていないか、禁止されている場合に例外的な許諾を得る手続きが定められているかを確認しましょう。

5 まとめ

 ここまで、個別契約について確認すべきポイントを類型別に解説してきましたが、これらはあくまで一般的・典型的な注意点を整理したものにすぎません。実際の契約書は、案件の内容や企業ごとに条項の構成・文言が異なり、本記事で触れていないリスクが潜んでいることも少なくありません。

 そのため、本記事のチェックポイントを一つの手がかりとして、ご自身が実際にサインしようとしている契約書の条項一つひとつを注意深く読み込むことが何より重要です。

 インフルエンサーと企業との間には、交渉力・情報力において差があることが大半です。「条件に不満があっても断れば次の仕事がなくなるかもしれない」という心理的プレッシャーから、修正交渉自体を諦めてしまう方も多いのが実情でしょう。

 もっとも、交渉によって条項を修正できなかったとしても、契約書の内容を正確に理解した上で契約に臨むことは、トラブル発生時の対処のしやすさに大きく影響します。特に、高額・長期の契約や、著作権・肖像権が絡む契約については、署名・押印前に一度弁護士に相談することを強くお勧めします。

 当事務所では、インフルエンサー・タレント・クリエイターの方々からの契約相談を多数お受けしております。個別契約の内容確認や交渉サポートなど、活動に関わる様々な疑問について、お気軽にご相談ください。

なお、芸能事務所との間のマネジメント契約(専属契約・エージェント契約)における注意点については、〈前回の記事〉もあわせてご覧ください。

≪弁護士 杉山幸太郎≫

© 弁護士法人橋下綜合法律事務所