2026/08/04 新着情報
インフルエンサーが契約の際に注意すべきポイント ~マネジメント契約編~
1 はじめに
近年、SNSの普及に伴い、インフルエンサーやYouTuberといったクリエイターの影響力が増大し、企業の商品やサービスのプロモーションに欠かせない存在となっています。彼らと企業との間で交わされる契約は多岐にわたり、その取引額も高額化する傾向にあります。
近年では、芸能人と事務所の関係性に関わるトラブルや報道も増え”エージェント契約”という言葉もしばしば聞くようになりました。
このような背景から、インフルエンサー活動を継続的かつ安定的に行うためには、契約内容を正確に理解し、予期せぬトラブルを未然に防ぐための知識が不可欠です。
本記事では、インフルエンサーやクリエイターの方々が、芸能事務所等とマネジメント契約を結ぶ際に特に注意すべきポイントについて、タレント・インフルエンサー関連の法律相談を多く手掛ける弁護士が解説します。
近年話題となったエージェント契約とマネジメント契約の違いのほか、契約書に潜むリスクの解説、そのようなリスクのある規定を提示された場合の対応策をご紹介します。
2 マネジメント契約の注意点
(1)専属契約か否か
マネジメント契約を締結する際に最初に確認すべきは、その契約が「専属契約」か否かという点です。
専属契約とは多くの場合、インフルエンサーが特定の事務所のみを通じて活動することを義務づける契約形態のことを言います。専属契約の場合、原則として事務所を介さずに自ら仕事を取得・契約することはできず、事務所の判断や意向が活動全般に及ぶことになります。
これに対し、近年話題となっている「エージェント契約」は、タレント・インフルエンサー自身が主体的に活動内容を決定し、事務所はその交渉・手配・マネジメント(スケジュール調整)をサポートする役割にとどまる契約形態のことをいいます。インフルエンサー自身が直接仕事を獲得・契約できる余地が認められているケースも多く、専属契約と比較して活動の自由度が高いといえます。
契約書のタイトルが「マネジメント契約」や「所属契約」とされていても、その内容が実質的にエージェント契約に近いものであることもあります。逆に、「エージェント契約」という名称であっても、条文の内容が専属契約と変わらないケースも見受けられます。
そのため、どのような契約形態であるのかについては契約書の名称だけで判断せず、「自身で直接仕事を受注・契約できるか」「事務所を介さずに活動した場合に契約違反となるか」といった点について契約書の各条文を読み込んで確認することが重要です。
(2)専属契約の場合、その範囲について
ご自身で経営的判断したうえで、タレント・インフルエンサー業務について事務所と専属契約を締結することに合意した場合でも、その契約書の文言については注意が必要です。契約書の文言によって、その範囲が明確でない場合、タレント業務以外の様々な収入活動に対して事務所が介入し、収益の一部または全部について請求される可能性があるためです。
例文1
乙(インフルエンサー)は、甲(事務所)の承諾を受けることなく、甲以外の第三者との間で、本契約書〇条によって定義されるタレント業務その他一切の役務の提供をしてはならない。当該役務の提供により報酬を受け取らない場合もこの限りでない。
例文1の規定にあるように「その他一切の役務」と指定されている場合、例えば、乙が以前から行っている動画編集請負の副業や、知人の飲食店でのアルバイトなど、タレント・インフルエンサー業務と関わらない活動についても、「その他一切の役務」に含まれるとして、甲の承諾を得なければ契約違反となりかねません。
提示された契約書にこのような文言が記載されていた場合には以下のような規定に変更してもらえるように要請をお勧めいたします。
例文2
乙(インフルエンサー)は、甲(事務所)の承諾を受けることなく、甲以外の第三者との間で、本契約書〇条によって定義されるタレント業務をしてはならない。当該役務の提供により報酬を受け取らない場合もこの限りでない。
このように、「その他一切の役務」を削除することが最も安全でしょう。
もっとも、事務所側としても、契約上の「タレント業務」から漏れているおそれのある関連業務についても契約上縛りを与えたいと考えて例文1の規定を作成しているのですから、それをすべて削除しろとなると、不安を与えかねません。また、立場の強弱により、そのような強気の訂正要求もし難い場合もあります。
その場合は、以下のような規定に変更するように要請することをお勧めいたします。
例文3
乙(インフルエンサー)は、甲(事務所)の承諾を受けることなく、甲以外の第三者との間で、本契約書〇条によって定義されるタレント業務のほか、同業務に類する一切の役務の提供をしてはならない。当該役務の提供により報酬を受け取らない場合もこの限りでない。
上記のように「(タレント業務に)類する一切の役務」とすることで、事務所としては契約書に規定しきれていない「タレント業務」意外であっても、それに類する業務については縛りをかけることが可能ですし、タレント業務に全く関連しない業務については事務所の承諾を必ずしも必要とはしなくなり、活動を過度に制約することもありません。
(3)仕事の選択権の有無について
事務所から紹介・斡旋された仕事を断ることができるか、という点も見落としがちな重要なポイントです。
契約書によっては、「甲(事務所)が斡旋した業務について、乙(インフルエンサー)は正当な理由なくこれを拒否することができない」といった文言が盛り込まれている場合があります。このような規定がある場合、自身の意向に反する案件であっても受けざるを得ない状況になりかねず、活動の方向性やブランドイメージに悪影響を及ぼす可能性があります。
また、逆に事務所側が特定の案件を一方的に断る権限を持つ場合も想定されます。インフルエンサー自身が積極的に取り組みたい案件であっても、事務所の判断で断られてしまうケースです。
仕事の選択権は、インフルエンサーとしてのブランド形成や長期的なキャリアに直結する問題です。契約書に選択権の有無・範囲について明確な規定がない場合には、「乙は事務所から斡旋された業務について、合理的な理由がある場合には断ることができる」といった文言の追加を求めることをお勧めします。
(4)競業避止義務の範囲について
競業避止義務とは、契約期間中および契約終了後の一定期間、同業他社や競合となる活動を行うことを禁止する義務のことです。マネジメント契約においては、この競業避止義務の範囲が過度に広く設定されている場合があり、注意が必要です。
競業避止義務は、主に①禁止される活動種類の範囲、②禁止期間の長さ、③地理的範囲の3点について範囲を規定することが多いです。例えば、「本契約解消後5年間において、乙(インフルエンサー)は日本国内外におけるインフルエンサー活動や芸能活動、それらに類する一切の活動をしてはならない。」と規定されている場合、契約解消後は実質的にインフルエンサー活動の継続は困難となってしまいます。
あまりにも広範な競業避止義務は職業選択の自由との観点から法的に無効と判断される可能性もありますが、事務所退所時に争うことを避けるためには、契約書締結段階でしっかりとチェックしておく必要があるでしょう。
もし、契約書に競業避止義務の規定がある場合には、禁止期間は半年〜1年程度、禁止される活動はタレント・インフルエンサー業務に直接関連するものに限定するよう求めることが望ましいです。また、競業避止義務を負う対価として、一定の補償金が支払われる旨の規定を設けるという方法もあり、事務所の方と協議して決定することが望ましいです。
(5)契約解除条件や違約金について
芸能事務所とタレント・インフルエンサーのトラブルを取り扱う中で、多くの事案で契約解除に関する条件と、解除に伴う違約金の規定が、その結論に直接的な影響を及ぼし得るということを感じております。
そのため、契約解除の条件に関する条項、解除に伴う違約金等の条項については特に注意深く確認をする必要があります。
まず確認すべきは、インフルエンサー側からの中途解約が可能かどうか、またそのための手続きや条件です。「契約期間中は乙からの解約申し入れを認めない」といった規定や、「乙が解約する場合は〇〇円を違約金として支払う」といった規定が置かれていることがあります。
なお、違約金の金額設定については、不当に高額なものは消費者契約法や公序良俗の観点から無効となる場合や、働き方として労働者相当とされる場合に労働法の観点から無効とされる場合もあります。
※退所時の違約金についてお困りの方は【こちら】の記事もご覧いただければと存じます。
そのような主張には法的手続きが必要となるため、契約締結前に適切な金額・条件に修正しておくことが最善といえるでしょう。目安として、違約金額は実損害の範囲を大きく超えないものであることが望ましいといえます。
また、事務所側からの一方的な解除条件についても注意が必要です。「乙が事務所の信頼を損なう行為をした場合」など、曖昧な基準で解除が可能とされている場合は、事務所の裁量によって突然契約を打ち切られるリスクがあります。解除事由はできる限り具体的・限定的に列挙されるよう求めることをお勧めします。
3 (付録)全ての契約に共通する注意点
ここまでマネジメント契約に特有の注意点を解説してきましたが、最後に契約全般に共通する重要な点をお伝えします。
まず前提として、契約は必ずしも書面がなくても口頭で成立します。「口頭でOKと言われた」「LINEやメッセージで合意した」という場合でも、法律上は契約として有効に成立します。
しかし、それを客観的に立証できるかどうかについては別の話であり、後から「そんな話はしていない」とのトラブルに発展することがあります。そのため、「契約書には〇〇〇って書いてあるけど、あなたは▢▢▢という条件(〇より好条件)だからね」といった説明がされても、後から反故にされた場合、インフルエンサー側が▢▢▢という条件を主張しようとする場合、口頭で言われたことを立証するために高いハードルを乗り越えなければならないこととなります。
だからこそ、書面(契約書)に内容を明確に残すことが不可欠で、修正の条件提示があった場合は、その修正内容を契約書に反映させるか、覚書(おぼえがき)により、双方の署名・押印した書面の形にして保管するようにしましょう。
また、契約書の内容に不明な点や不安な点がある場合には、署名・押印する前に弁護士に相談することを強くお勧めします。一度締結した契約書の内容を後から変更することは容易ではなく、不利な条件を受け入れてしまった場合のリスクは長期にわたって残り続けます。契約締結前のタイミングでの確認が、トラブル予防の最も効果的な手段です。
4 まとめ
本記事では、インフルエンサーやクリエイターの方々がマネジメント契約を締結する際に注意すべき主なポイントについて解説しました。
まず、契約書の名称にかかわらず、実質的に「専属契約」か「エージェント契約」かを条文の内容から見極めることが出発点となります。その上で、専属義務の範囲・仕事の選択権・競業避止義務・契約解除条件および違約金といった各条項について、一つひとつ丁寧に確認することが重要です。
リスクのある条項が見つかった場合には、本記事で解説したとおり、条文の修正や文言の限定を求めることが理想的な対処策です。もっとも、現実には事務所側との立場や力関係により、修正の申し出が難しい場面も少なくありません。そのような場合であっても、どの条項にどのようなリスクが潜んでいるかをあらかじめ把握しておくこと自体が重要です。リスクを認識した上で契約を締結していれば、そのリスクから生じうるトラブルへの備えがかのうであったり、万が一トラブルが生じた場合でも迅速に適切な対応が可能となるため、契約の内容を十分に理解しないまま署名することと大きく異なります。
また、いずれの場合においても、口頭での合意は書面に残すことを心がけていただき、少しでも不明点や不安があれば、署名・押印の前にタレント・インフルエンサー業界に強い弁護士へ相談することを強くお勧めします。契約内容を後から変更することは容易ではなく、締結前のタイミングでの確認がトラブル予防の最も効果的な手段です。
タレント・インフルエンサー活動は、自身の個性と信頼が核となるビジネスです。契約内容をしっかりと理解し、自身のブランドやキャリアを守る意識を持つことが、長期的な活躍の基盤となるでしょう。
≪弁護士 杉山幸太郎≫

