新着情報

2026/09/18 新着情報

労働災害(労災)で会社が取るべき対応を弁護士が解説|民事賠償リスクや手続きを網羅

「従業員が業務中に怪我をした」「長時間労働が原因で脳・心臓疾患を発症したと労災申請された」など、社内で労働災害(労災)が発生した際、どのように対応すべきか苦慮する企業は少なくありません。

労災対応は、単に労働基準監督署への申請にとどまらず、会社側の安全配慮義務違反に伴う高額な損害賠償請求へ発展するリスクを秘めています。対応を誤ると、想定外の損害賠償金の支払いや企業イメージの失墜といった事態を招きかねません。

この記事では、労災が発生した際に会社が取るべき対応や手続き、民事賠償リスクへの備えについて、会社側の視点から弁護士が詳しく解説します。

 

1 労働災害(労災)が発生した際の会社の対応

会社が労災事故や過労死・過労自殺などの問題に直面した際、結論として次の3つの対応を押さえることが重要です。

  • 事業主(会社)の証明・助力義務を果たしつつ、客観的事実を把握する
  • 労災給付をしていても、会社側の民事上の損害賠償責任(安全配慮義務違反等)が別途発生する可能性があることを理解し、真摯に対象労働者と向き合う
  • 初期対応の段階から弁護士と連携し、過失相殺や控除対象となる費用の精査を進める

労災保険が適用されても、労働者やその遺族から会社への損害賠償請求(民事訴訟)がなされるケースは珍しくありません。トラブルを未然に防ぎ、適正な解決を図るためには、早期の事実関係整理が不可欠です。

2 労災制度の基本と会社に課される義務

まずは、労働基準法および労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づく基本的な仕組みと、会社側が果たすべき義務について解説します。

①労働基準法上の災害補償と労災保険

労働基準法(第75条〜88条)では、労働者が業務上の負傷や疾病を被った場合、使用者に無過失責任としての災害補償を義務付けています。しかし、会社に支払能力がない場合や手続きの遅延を防ぐため、政府が管掌する「労災保険制度」が設けられています。

労災保険は、原則として労働者を使用するすべての事業に自動的に適用されます(一部例外はあります)。

②労働者・遺族の労災申請に対する会社側の対応

労災保険給付の請求権者は、被災労働者本人またはその遺族です。会社が手続きを代行することも多く見られますが、法律上の請求主体は労働者側です。

とはいえ、労災請求時に、会社には例えば以下のような義務や権利があります。

1 事業主の協力義務(労災規則23条)
事業主は、保険給付を請求する者自ら請求手続を行うことが困難な場合、手続について助力しなければならないとされています(労災規則23条1項)。

さらに、被災労働者から必要な証明を求められた場合、事業主は負傷・発症の年月日、災害の原因や発生状況などの客観的事実について速やかに証明しなければなりません(同条2項)。

また、会社側が「これは業務上の事故ではない」「業務起因性がない」と主張したい場合でも、事業主証明を拒否することは原則として推奨されません。というのも事業主証明はあくまで事実の証明であり、業務起因性の有無は労働基準監督署長が判断するためです。

とはいえ、会社として業務起因性に明らかな異議がある場合には、事業主は自らの認識・意見を付記して証明するか、あるいは証明拒否理由を記載した書面を作成して請求書とともに提出する等の対応をとることができます。

2 意見申出権(労災規則23条の2)
業務災害であるか否かについて会社側に異議がある場合、事業主は同規則23条の2に基づき労働基準監督署長に対して意見を申し出ることができます。

 

3 労災認定の基準(業務遂行性と業務起因性)

労災保険給付を受けるためには、事故や疾病が「業務上」のもの(業務災害)と認められる必要があります。

①業務上の負傷

業務上の負傷と認められるためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

  • 業務遂行性:事業主の支配・管理下にある状態で発生したこと
  • 業務起因性:当該支配・管理または業務に伴う危険が現実化したものといえること

所定労働時間内に事業所内で作業を行っている最中の事故であれば、原則として業務起因性が推定されます。一方で、勤務時間外の私的な行為や逸脱行為(極端なルール違反)による事故の場合は、業務起因性が否定されることがあります。

②脳・心臓疾患(過労死)と精神障害(過労自殺)における業務起因性

長時間の過重労働やストレスによる疾患については、厚生労働省の認定基準に基づき判断されます。

  • 脳・心臓疾患(過労死)
    例えば、発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1カ月当たりおおむね45時間を超えている場合、45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性 が徐々に強まると評価できます。そして発症前1か月間におおむね100時間、または発症前2か月〜6か月間にわたって1か月あたりおおむね80時間を超える時間外労働(いわゆる過労死ライン)が存在する場合、業務と発症との関連性が強いと評価できます。
  • 精神障害(過労自殺)
    心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づき、Ⓐ認定基準の対象となる精神障害を発病していること、Ⓑ対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること、Ⓒ業務以外の心理的負荷や個体側要因(持病や性格等)により発病したとは認められないことの3要件を満たすかを判断します。この3要件を満たす場合には、精神障害が業務によって発症したものと判断され、さらに当該労働者が自殺した場合には、原則として自殺の業務起因性も認められます。

 

4 労災民事賠償リスクと会社側の防衛策

前述した通り、労災保険から給付が行われたとしても、会社の責任がすべて消滅するわけではありません。

①安全配慮義務違反(労契法5条)による損害賠償責任

労働契約法第5条により、会社は「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)」を負っています。

労災給付は療養費用や休業補償、逸失利益の定額補償を中心としており、「慰謝料」や「休業損害・逸失利益の不足分」はカバーされません。そのため、会社側に安全配慮義務違反や不法行為責任(民法709条、715条等)が認められる場合、被災労働者や遺族から民事上の損害賠償請求を受けることになります。

②損害賠償額の減額要素(過失相殺と損益相殺)

被災労働者側から高額な損害賠償を請求された場合、会社側は以下の要素を主張・立証して賠償額の適正化を図ります。

減額・調整の要素

内容とポイント

過失相殺

労働者側にも指示無視、不注意、自己健康管理の怠慢などの落ち度(過失)があった場合、その割合に応じて賠償額が減額されます。

素因減額

労働者がもともと持っていた基礎疾患や既往症が発症・悪化に影響を与えた場合、過失相殺と同様に考慮されます。

既払労災給付の控除(損益相殺)

既に支給された労災保険給付(休業補償給付や障害補償給付など)のうち、同一の損害項目に対応する部分は損害賠償額から控除できます。※ただし、社会復帰促進等事業から支給される「特別支給金」は控除対象外とされています(判例)。

5 労災トラブル・民事賠償請求において弁護士に相談するメリット

労災事故が発生した際、早期に労働問題・企業法務に精通した弁護士へ相談することで、会社は次のようなサポートを受けることができます。

  • リスク診断・取るべき方針の提示 

社内の労働環境、勤務記録、事故発生時の状況を法的な観点から分析し、会社にどの程度の責任(安全配慮義務違反)が発生し得るかのリスク診断を行います。その上で、労基署への意見申出の要否や民事賠償請求への備えなど、会社が取るべき適切な対応方針を明確に示します。

  • 交渉・裁判(労災民事訴訟)における代理 

被災労働者や遺族との示談交渉、あるいは訴訟に発展した場合の答弁書作成・過失相殺の主張など、会社側の利益を守るための法的な防衛を行います。

 

当事務所の紹介

当事務所では、企業側・会社側の労働問題解決に特化した弁護士が多数の労災トラブル・民事賠償対応を取り扱っております。

  • 労災事故発生直後の初動対応・労基署対応の助言
  • 被災労働者・遺族からの損害賠償請求(交渉・訴訟)への対応
  • 再発防止に向けた労務管理体制・安全衛生体制の見直し
  • 顧問弁護士契約による日常的な労働リスクの管理

「従業員から高額な損害賠償請求の通知が届いた」「労災認定について会社側の意見をしっかり主張したい」など、企業側の労働問題でお困りの経営者・人事労務担当者様は、お気軽にご相談ください。

                                  弁護士 山中智生

© 弁護士法人橋下綜合法律事務所