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2026/10/07 新着情報

割増賃金の請求を受けた企業が知るべき法的対応とリスク回避策|会社側弁護士が解説

「従業員から突然、割増賃金(残業代等)を請求された」

「タイムカードの打刻時間通りに、言われた金額をそのまま支払わなければならないのか」

「自社の固定残業代や管理職手当の運用で争われたらどう対応すべきか」

このようなお悩みを抱える経営者や人事労務担当者は少なくありません。

割増賃金に関する法的ルールは複雑かつ難解であり、対応を誤ると不当な支払いを余儀なくされたり、遅延損害金や付加金等の加算によって企業の財務に重大な打撃を与えたりするリスクがあります。

この記事では、割増賃金請求を受けた企業がとるべき対応とリスク回避策について、会社側の視点から弁護士が分かりやすく解説します。

結論:会社側が押さえるべき割増賃金対応のポイント

従業員から割増賃金の請求を受けた場合、会社側が最初に行うべき最重要ステップは「客観的証拠の収集と精査」です。

労働者側の主張する請求金額や労働時間がそのまま法的に正しいとは限りません。弁護士に相談・依頼する前段階として、会社側は以下のポイントを中心に事実関係を整理・把握する必要があります。

  • 労働時間の把握(PCのログイン/ログアウト履歴、入退室記録その他労働時間を裏付けると思われる証拠等)
  • 労働時間の内容の把握(準備・後始末時間、手待時間、休憩・仮眠時間等、労働時間の内容を把握するための証拠等)
  • 労働時間に関する制度(管理監督者、変形労働時間制の内容を把握するための証拠等)

 

割増賃金の基礎知識と会社側の主な防衛ポイント

そもそも割増賃金とは、使用者が労働者に法定時間外労働、法定休日労働または深夜労働をさせた場合に、通常の労働時間または労働日の賃金に一定の割増率を加えて支払う賃金のことです(労働基準法37条)。

それゆえに、時間外労働等をした労働者が割増賃金を請求するのは労働基準法上の当然の権利です。

しかし、労働者側の請求額が必ずしも法的に正しいとは限りません。

会社側としては、以下の法律上の論点を精査することで、不当な請求や過剰な額の主張に対抗できます。

1. 労働時間該当性

労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。

そして、労働者側はタイムカードの打刻時間や滞留時間をそのまま「労働時間」として主張してくることが多くあります。実際、多くの裁判例で、タイムカードによって時間管理がなされている場合には、特段の事情のない限り、タイムカードの打刻時間をもって「労働時間」と事実上推定されているのは事実です。

しかし、だからといってタイムカードの打刻時間=「労働時間」というわけではありません。前述した通り、労働時間に該当するか否かは、社会通念に照らし、客観的にみて、当該労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かという観点から判断されるのです。裁判例においても、タイムカードによって立証された始業前の打刻時間やICカードに記録された会社構内の滞留時間が直ちに「労働時間」と認められるわけではないことを示しています。

以上を踏まえて、会社側としては、業務指示の有無、手待時間の実態、私的作業の時間などを客観的証拠に基づき主張・立証していく必要があります。

2. 管理監督者(労基法41条2号)等の該当性

「課長」や「店長」などの肩書がある従業員からの請求に対し、会社側が管理監督者であることを主張する場合、以下の3要素を総合的に検討します。

  1. 経営者との一体性(経営に関する決定への関与・労務管理上の指揮監督権限の有無)
  2. 自己の出退勤等に関する労働時間の裁量の有無
  3. その地位・権限にふさわしい賃金上の待遇の有無

裁判例では管理監督者性が否定されるケースが多いため、実態に即した慎重な分析が必要です。なお、管理監督者であっても深夜労働の割増賃金支払義務は免れない点に注意が必要です。

この他にも「機密の事務を取り扱う者」に該当するか、高度プロフェッショナル労働制が導入されているか等の争点が考えられます。

さらに、フレックスタイム制、変形労働時間制、みなし労働時間制等も導入している場合にはこの点についても検討が必要となります。これら制度については別の記事で解説いたします。

3. みなし割増賃金の有効性

みなし割増賃金を支給している場合、それが割増賃金の支払いとして認められるには、「通常の労働時間の賃金部分」と「割増賃金にあたる部分」が明確に判別できることや、時間外労働等の対価として支払われていること(対価性)などの要件を満たす必要があります。

 

割増賃金請求に伴う時効・遅延損害金・付加金のリスク

会社側が請求を受けた際、実務上留意すべき法的リスクは以下の通りです。

1. 消滅時効の適用

割増賃金請求権の消滅時効は、2020年4月1日以降に支払期日が到来するものについては、法定期間は5年ですが、当分の間は「3年間」となっています(※2020年3月31日以前のものは2年間)。労働者側から催告(内容証明等)が届いた場合、時効の完成猶予が発生している可能性があるため、各給与締切日ごとの時効期間を正確に整理、把握する必要があります。

2. 遅延損害金と付加金(労基法114条)のリスク

  • 遅延損害金: 在職中は原則年3%(2020年4月以降の遅滞)ですが、退職後は賃金支払確保法に基づき年14.6%という高率な遅延損害金が発生する場合があります。
  • 付加金: 裁判に発展した場合、使用者の不払いの悪質性等に応じて未払い額と同額の「付加金」の支払いを命じられるリスクがあります(※労働審判では命じられません)。

 

割増賃金請求への対応を弁護士に相談するメリット

以上のように割増賃金は法的に難解な部分が多く、労働者側から割増賃金の請求がなされた場合、会社独自で判断して対応を進めることは極めてハイリスクです。弁護士に早期相談することで、以下の強力なサポートを受けることができます。

  • タイムカード・PCログ等に基づく実労働時間の精査・反論構築
  • 固定残業代・管理監督者性など、会社側に有利な法的論点の検討
  • 交渉、労働審判、訴訟(付加金・遅延損害金リスクの抑制)への迅速な対応
  • 早期和解による金銭的・時間的コストの最小化の可能性
  • 今後の未払いリスクを防ぐための就業規則・賃金規定の改定検討

 

事務所紹介

当事務所では、企業側の労働問題(労務トラブル・割増賃金対応・就業規則改定など)に特化した弁護士が、会社側の立場に立ってサポートを行っております。

従業員からの割増賃金請求や労働審判への対応でお悩みの企業様・経営者様は、トラブルが拡大・長期化する前に、お早めに当事務所までご相談ください。

 

弁護士 山中智生

© 弁護士法人橋下綜合法律事務所