2017/07/03 弁護士雑感
【弁護士雑感】パワハラ被害にあった場合
最近、国会議員と秘書との間でいわゆる「パワハラ」といわれるような言動があったとして、大きな話題となっています。
このパワハラというものは、おそらくはるか昔(といっても20年や30年程度以前)にはそもそもそのような概念や言葉すらなかったものと思われますが、近年では急速に社会に定着している概念であって、かつ労働者(特に労働弱者)の権利や法的利益を適切に保護するためという観点から、非常に重要な考え方となっているものということができます。
もっとも、このパワハラというものは、意外に正しく認知されてはいないようで、職場内でトラブルがあるとすべてパワハラであると考えてしまう方も一定数おられるようだというのも率直な感想です。※1
そこで、今回はパワハラについて少しお話してみようと思います。
1 パワハラとは
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パワハラ(パワーハラスメント)とは、その定義として①職場内での優位性②優位な側から劣位な側への③適正な業務の範囲を超過した精神的・身体的な苦痛を与えることであると定義づけることができます。
①職場内での優位性
パワハラは、典型的には上司から部下への行為として行われることが多いのですが、必ずしもそれに限定されるものではありません。※2
「職場内での優位性」というものも、単純な業務上・組織上の地位の上下だけではなく、人間関係や職場の関係、勤続年数の長短や経験などからくる非代替性などの様々な要素を総合的に考慮して決されるものとなります。
もっとも、典型例は上記の通り上司と部下との関係ですので、それ以外のケース(例えば逆に部下から上司に対するパワハラ)でパワハラを立証することはなかなか難度の高いものであるということはいえるでしょう。
また、職場内での優位性に依拠しない、単なるいじめや嫌がらせは、それ自体が許されることではなく、別個の不法行為となることはありうるとしても、いわゆる「パワハラ」には該当しないということになります。
②優位な側から劣位な側への
上記①とも少し重なりますが、パワハラにおける「優位な側」というのは必ずしも職務上の地位の上下を意味するものではありません。
個々の行為における具体的な優劣関係を前提として、優位な側から劣位な側への行為であると評価できるか否かということが決定されるということになります。
確かに、多少ともレアなケースではありますが、例えば管理職1名部下10名というような部署において、部下10名全員が意を通じてサボタージュをチラつかせることにより管理職に義務のないことを強要したりするなどというケースでは、部下から上司に対するパワハラというものが成立する余地があるといえましょう。※3
③適正な業務の範囲を超過した苦痛
「すまじきものは宮仕え」などともいわれるように、他人との間で雇用契約を締結し、他人の指揮監督命令下で働くということは、必ずしも楽しいことばかりではありません。
また、使用者である会社や、指揮監督権を持ち、指揮監督の義務を負う上司としても、時には言いたくないことでも厳しく指導をしなければならないこともあると思います。
このようなことから、たとえ上司やその他の「優位な側」にある人物からの言動により精神的・身体的な苦痛を受けたとしても、それが適正な業務の範囲内にあるものである場合には、パワハラに該当することはないものということになります。
問題は、「何が適正な業務の範囲内」といえるのか否かですが、一見して明らかな場合はともかく、そうでない場合には個々の具体的事情を踏まえての総合判断という外ないものであって、しかも同じ行為がなされていても個々の業種や職場環境などによってその結論は変わりうるものですので、一般の方に正確な判断を期待することは困難なケースが多いのが実情です。※4
本来パワハラに該当しえないような事項について「これはパワハラではないか」との無意味な不満を持ち続けることも、逆に本来パワハラに該当するようなことについても「この程度は我慢しなければならない」などと考えて自身の正当な権利を保護できなくなってしまうことも望ましいものではありません。
もしもこの点について疑問をお持ちでしたら、一度弁護士にご相談されて、はっきりとさせることが肝要であると思います。
2 パワハラに対抗するための証拠
パワハラは、多くにおいて密室的な状況において突発的に行われますので、その証拠の収集は困難であるのが通常です。
とはいえ、昨今のスマートフォンの普及やICレコーダーの低価格化などにかんがみれば、例えばパワハラとなる言動について、これが繰り返されているのであれば録音をすることも不可能ではないかと思いますし、また例えばその日あった出来事を日記の形でなるべく詳しく記載しておくということも一定程度の証拠の確保となるといえます。※5
たとえ、訴訟提起を行うことまでは考えていなかったとしても、しっかりとした証拠という武器をもって交渉することにより加害者に自覚と反省を促し、将来の改善を得ることができる可能性も高まりますので、パワハラ被害にあわれているとお考えの方は、しっかりとした証拠の確保作成をお勧めします。
〈弁護士 溝上宏司〉
※1 これはパワハラに限らず、「○○ハラ」と呼ばれるもの一般に共通するものではあります。
※2 本文の通り、部下から上司へのパワハラというものもあり得ますし、単純に同僚間・先輩から後輩への(その逆も)パワハラというものも起こりえます。
※3 ただし、サボタージュが適法な労働争議の一環として行われる場合には、当然パワハラに該当することはありません。
※4 例えば同じ口調での叱責であっても、例えば建設現場等での人命にかかわるミスに対する叱責(再発防止のために非常に厳しい指導が求められる)と、事務仕事などにおける問題なくリカバリーが可能なケアレスミスに対する叱責とでは許容される叱責の強度が異なるものといえましょう。
※5 録音には「前後のやり取りがわからない」ことから「(もしかすると)挑発して敢えてパワハラ的言動を引き出しているのではないか」などという批判的意見が付きまとうものですが、パワハラとなる言動をとったのであれば、それが「挑発された結果であり前後のやり取りを含めるとパワハラには該当しない」という反論はその反論をする側がそれを証明する義務を負うものといえましょう。
また、日記が一定の証拠価値を有することは以前のブログでお話しさせていただいた通りです。