弁護士雑感

2017/06/19 弁護士雑感

【弁護士雑感】証拠能力について

 離婚等の訴訟を代理していると、依頼者の方から「夫婦であろうと、勝手に私の携帯を見たら違法なのでは?その様な証拠を裁判所に提出しても問題はないのか」との質問を受けることがあります。

 そこで、今回は、証拠能力というものについて少し書いてみようと思います。

  まず、証拠能力とは、裁判において証拠とすることができる能力のことですが、この証拠能力というものが問題となるのは主に刑事裁判です。刑事裁判において証拠能力が否定される証拠というのは色々とあるのですが、中でも「違法収集証拠」という言葉を聞いたことがある方は大勢おられるかと思います。これは文字通り、プライバシーを侵害する方法などによって違法に収集された証拠のことであり、違法収集証拠は、原則的に証拠能力が認められません。刑事裁判においては、捜査機関という国家権力対一私人という対立構造を取るため、明らかに両者の証拠の収集能力に差があり、捜査機関において行き過ぎた証拠の収集方法が採られるという事態が頻繁に起こり得ます。そのため、刑事裁判においては証拠とすることのできる範囲について厳格に解することで、捜査機関による行き過ぎた証拠の収集を抑止し、もって人権擁

護を図っています。

 例えば、最近では警察が令状なく対象者の車両にGPS(全地球測位システム)端末を付ける捜査手法について「違法」とする最高裁判決が出されましたが、これにより原則的に、令状なく取り付けられた「GPS」端末から得られた証拠は刑事裁判において証拠とすることが出来なくなりました(この判決により、今後の捜査がより難しくなったことは間違いありませんが、普通に考えてみれば、犯罪の嫌疑があれば誰でもGPS端末を取り付けられるというのではあまりに

捜査機関の裁量が広すぎ、捜査機関による暴走が容易に想定されますので、GPS端末を用いた捜査には法令の整備が必要だとする最高裁の判断は至極妥当であると思われます。)。



 こういう話をすると、幾ら違法に収集された証拠であるとはいえ、かかる証拠により明らかとなった事実まで否定されることはおかしいのではないかとの疑問を持たれる方も多いと思います。この点については、私も弁護士という職業についてはいますが、全く疑問がないわけではありません。現状の刑事裁判においては、仮に犯行を決定づける唯一の証拠が違法収集証拠と認定され証拠能力が否定された場合には、無罪判決が下ることになります。しかし、幾ら捜査機関が違法

な行為を働いたからといって、犯罪事実自体が消えてなくなるわけではありませんので、違法に収集された証拠であっても証拠能力を否定するのではなく、違法な捜査を受けたことに対しては別途違法な捜査を行った捜査員に対する処分及び国家賠償等の方法により救済を図るべきとの考え方も十分理解できるところです。

 

 では、本題に戻って離婚等の民事裁判において、相手が勝手に携帯メールを盗み見して、それをカメラで撮影した写真が証拠として提出された場合、かかる証拠写真に証拠能力は認められるでしょうか。

 基本的に民事裁判は、刑事裁判と異なり対等な個人対個人の対立構造を取りますので、証拠能力に関する規定はなく、判例も証拠能力を否定するのは、人権侵害の程度が甚だしい等、違法性の程度が極めて高いような場合に限定しています。したがって、上記の様な証拠写真について、証拠能力が否定されるという事はまずないと言っていいでしょう。

 また、近年、離婚訴訟において不貞行為を立証するための証拠として、LINEでのやりとりが証拠として出てくることが頻繁にありますが、LINEについても証拠能力が否定されるという事ないかと思います。

 しかし、例えば、クラウド上にあるメールについて、パスワードを盗み取って侵入し、メールを盗み見たような場合には、不正アクセス禁止法という法律の規定に該当し、明らかな違法行為となります。したがって、この様な方法で盗み見たメールについては、民事裁判においても証拠能力否定される可能性は十分にあります。また、電話回線に盗聴器を仕掛けて電話の内容を故意に受信するような行為についても有線電気通信法という法律で禁じられており、罰則もありますので、この様な方法で得られた証言についても証拠能力が否定される可能性があります。

 

 この雑感をお読み頂いたことで、携帯等にある御自身の情報管理の重要性だけでなく、そもそも民事裁判においては盗み見られたものであっても証拠として突き付けられると言い逃れは困難であるため、証拠を押さえられるとまずいような疚しいことはしないでおこうという風にまで、考えを深め頂ければ幸いです。

                              <弁護士 松隈貴史>

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