弁護士雑感

2024/05/17 弁護士雑感

【弁護士雑感】弁護士から観た法廷ドラマ

※記事本文中に日曜劇場「アンチヒーロー」(TBS)の内容に触れますので、視聴がまだの方で、内容を知りたくない方はご注意ください。

 

ドラマの1クールに1つは、弁護士が登場するドラマ、あるいは、「HERO」の影響でしょうか、検察官が主役のドラマや、「イチケイのカラス」のような裁判官が主役のドラマが放送されているように思います。

今期では、日曜劇場「アンチヒーロー」(TBS)が人気のようです。

 

私は、法廷ドラマが好きでよく視聴する機会があります。

(最近は、TVer「ティーバー」のおかげで、放送時間に観なくても良くなりましたし、録画の手間もなく、好きな時間に観れるので重宝しています。)

 

今回は、弁護士から観た法廷ドラマをテーマとして、書かせていただきます。

 

1.「え、そんなことある?」と思う瞬間がある。

 

①証人尋問では、証人に近づいて尋問はしません

 

ドラマを観ていて、現実の法廷ではありえないと思うことがあります。

例えば、証人尋問の場面です。

ほとんどのドラマがそうですが、証人の近くまで弁護人(刑事事件では、被告人側の弁護士のことを「弁護人」といいます。)または検察官が近づき、強く訴えかけるように尋問する場面がありますが、これは現実の法廷ではこのような方法で尋問はしないのではないでしょうか。

少なくとも私は、法廷で見たことはありません。

証人尋問をする際は、当事者は、自席から立って尋問を行います。証拠を提示するために証人に近づくこともありますが、それでも尋問は、自席からすることがほとんどです。

 

また、証人に接近し、強く訴えかけるような尋問をすることは、証人を威嚇的に尋問しているとして、次の規則にも違反するおそれがあります。

 

・刑事訴訟法規則199条の13第2項1号

 

訴訟関係人は、次に掲げる尋問をしてはならない。ただし、第二号から第四号まで

の尋問については、正当な理由がある場合は、この限りでない。

  一 威嚇的又は侮辱的な尋問

二 (・・・以下省略)

 

また仮にですが、ドラマのように証人に接近して、尋問をした場合ですが、おそらく裁判官に怒られるでしょう・・・。

 

②急に新たな証人が登場し、証言をするシーンについて

 

「アンチヒーロー」第1話では、被告人が被害者宅に入ったことがあったことを裏付けることを目的として、弁護人は、被害者の妻を説得し、証人として出廷させることを目標に行動しているシーンがありました。

検察側は、被害者の妻が弁護人に協力するはずがないと考えており、被害者の妻は出廷しないと予想していたところ、確かに被害者の妻は出廷しなかったのですが、代わりに被害者の5歳の息子が出廷することになった場面がありました。

被害者の5歳の息子が現れたときに、検察官は非常に驚き、まるで不意打ちを受けたかのような表情をされていました。

そして、検察官は、資料をめくると、証人の欄に息子の名前を見つけ、さらに驚愕した表情を見せていました。

 

もっとも、現実の裁判では、基本的にはこのようなことは起こりえません。

第1話のメインとなる事件は、殺人事件ですので、裁判員裁判対象事件であるため、公判前整理手続が行われる事件となります。

公判前整理手続とは、簡単にいえば、裁判官、検察官、弁護人で、裁判が始まる前に、事件の争点や証拠などを確認する手続となります。

そのため、検察官は、誰が証人として出廷するかをあらかじめ把握しておりますし、弁護人から証人請求されたときに証拠意見(証人が必要であるか、必要がないかなど)も述べているはずです。

以上のことですので、検察官が急に証人が出てきて、驚くといったことはないでしょう。

 

しかしながら、当然フィクションであり、ドラマは演出が大切ですので、忠実に再現しすぎると面白味はなくなるかもしれません。むしろ、実際の裁判は静かで地味なものが多いので、ドラマを入口にたくさんの方に弁護士や法廷に興味を持っていただけることは嬉しく思います。

私は、「リーガルハイ」(フジテレビ)のドラマが好きで、法廷でコミカルに動き回る古美門弁護士を観て楽しませていただきました。

 

2.弁護士は、CMに入る前に判決の結論がわかる

 

刑事事件ドラマで盛り上がるシーンの1つは、最後に裁判官が判決を読み上げるシーンであると思います。

 

あるドラマでは、冤罪が疑われる事件が取り上げられており、有罪か無罪か、どっちなんだろうかと緊迫する場面で、裁判官が、「主文、被告人は・・・」と発言したところで、CMに入ることがありました。

 

弁護士は、この段階で、有罪か無罪かの結論がわかってしまいます。

 

なぜならば、「主文、被告人は・・・」に続く言葉は、「無罪」であり、「主文、被告人を・・・」に続く言葉は、「懲役〇年に処する」であるためです。

 

そのため、「被告人は」か「被告人を」の時点で、有罪か無罪かはわかってしまうのです。

 

法科大学院などで裁判手続を学ぶためのDVDでは、最後判決のシーンは、「被告人・・・」で途切れて終わるものがありました。

これは最後の結論は、議論しましょうとの意図なのかと思います。「被告人は」か「被告人を」まで言ってしまうと、結論がわかってしまうため、配慮されたのではないかと思います。

 

3.最後に

 

私の友人知人の法曹関係者で、法廷ドラマをきっかけに法曹を目指された方が何人もいますし、法廷ドラマのおかげでよりたくさんの方に弁護士に興味を持っていただけていると思っています。

私も、今後も法廷ドラマを観て楽しみたいと思います。

 

<弁護士 去来川祥>

© 弁護士法人橋下綜合法律事務所