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2023/01/23 弁護士雑感

【弁護士雑感】教育資金の一括贈与の特例の延長について

 平成25年から創設された教育資金の一括贈与制度(長いので以下では「教育資金特別贈与」と呼びます)ですが、延長を重ねつつ、令和5年3月末で終了する予定となっていましたが、さらに3年間の延長が決まり、令和8年まで延長されることとなりました。

 この制度は延長される際に要件などに変更が加えられるなどしてきました。

 制度としてはおおむね祖父母世代から孫への教育資金について贈与税を非課税とするというもので、目指すところとしては祖父母世代から孫世代への資金の移動を促進しつつ、個人の資金による(公的資金によらない)孫世代の充実した教育を実現しようというものと思われます。

 しかしながら、この制度は「祖父母世代から孫世代への教育資金の譲渡について贈与税を非課税とするもの」として、大きな節税効果が期待されるものである反面、意外と制度を利用しようとされる方が正しい認識を有しておられないと思われる事態やご相談なども時々見受けられます。

 そこで制度の大筋についての概説と、制度を利用する際にお気を付けいただきたい点について少しお話をしてみようと思います。

1 教育資金特別贈与とは、やや大雑把に言えば「親や祖父母から30歳未満の子や孫に対する教育資金の贈与については、一人あたり(一人あたりというのは受贈者単位で考えます)1500万円までは非課税とする」という制度です。

  親世代から子世代に対する贈与については、事実上家計を同一にすることが多く、あまり意味はないものと思いますので、多くは祖父母世代から孫世代への贈与において用いられることが多いといえるでしょう。

  具体的な方法としては、単に贈与契約を締結して金銭を交付するのではなく、特定の金融機関と贈与する教育資金についての管理契約(信託契約)を締結し、その金融機関における信託財産とすることになります。

2 この制度を「法的な見地から」ご理解いただく前提として、まず絶対に欠かすことができないものが、「教育資金として譲渡される(金融機関に信託される)金員は、制度利用の時点で確定的に受贈者である孫に所有権が移転し、原則として贈与者がこれを取り消すことはできない」ということです。

  そのため、例えば譲渡後に受贈者の親(贈与者からみて子)や、受贈者である孫本人と決定的な仲違いをしても、原則として贈与行為それ自体を取り消すことはできないということを意味しています。※1

  もちろん、可愛い孫のために教育資金を贈与しようというわけですから、将来の仲違いなどは考えられない方が多いものとは思いますが、大変申し上げにくいのですがそれでも何があるのかわからないのが人間関係の怖いところでもあります。

  例えばのお話にはなりますが、教育資金特別贈与後に受贈者(孫)のご両親が離婚することとなり、かつ孫の親権者が自分の子供ではない方に指定された・・というようなケースを想定していただければ、それだけで教育資金特別贈与を取り消したいとまでは思わないかもしれませんが、そこからさらにトラブルが続発するようなケースであれば「もしかしたら将来そういう事態が生じるかも」という懸念が、決して杞憂ではないということはご理解をいただけるのではないかと思います。

3 加えて、教育資金特別贈与においてはその支出費目は文字通り受贈者の教育資金目的に限られますが、この「教育資金目的」というのは広いように見えてなんでも含むというものでもありません。

  一般にイメージされる「学費」であればおおむね教育資金目的と考えてよいものとは思いますが、いわゆる「自己投資」のようなイメージでくくられるもの(例えばですがカルチャースクールや資格予備校など)についてはこれに要した金銭の全てが含まれるわけではありません。※2

 また、一般の方が思う「学費」の範疇についても、もしかすると齟齬があるかもしれません。※3

4 その他、贈与された金員について、満30歳までに使い切れなかった部分については通常の贈与と同様に贈与税がかかることとなります。

  また、これは金融機関ごとに扱いが変わるところもありますが、受贈者側で教育資金特別贈与についての信託契約を解除して、贈与された金員を無条件のものとして受け取るということも、不可能ではない(少なくとも過去にそのような事例を聞いたことがあります)といえます。

  もっとも、この場合には当然教育資金として譲渡された金員について贈与税が発生しますが。

  このようなこととなった場合には、贈与者である祖父母としては思いもしない事態になるといわざるを得ないでしょう。

5 以上は、教育資金特別贈与について「これが法的には贈与契約である」という点についての誤解に起因するものと思われる事項についてですが、その他にも教育資金特別贈与はその特殊性から、気を付けたり、十分に理解した上で行う必要があるものがたくさんあります。

  もしも、教育資金特別贈与を行うことをお考えであったり、あるいはご家族間でそのようなお話が出ておられるのであれば、一度法的な見地からきちんとした説明を受けて、正しい知識を踏まえたうえで、安全安心なやり方で教育資金特別贈与を実行することをお考えになられてはいかがでしょうか。

  当事務所ではそのようなご相談についても過去の事例と経験に基づき、きっとお力になれるものと思います。

〈弁護士 溝上宏司〉

※1 もちろん、受贈者側に忘恩行為などの「贈与契約一般の取り消し事由になりうる行為」がある場合には贈与契約の取り消しが可能となる場合もありますが、そのようなケースは非常にレアであるといえます。

※2 ここがややこしいのですが、すべてが含まれないわけでもありません。含まれるものと含まれないものが一般の方からみれば不明瞭なものもあります。

※3 例えばですが、大学生などの一人暮らし用のいわゆる「下宿代」は日常生活費として「学費」には含まれません。他方、全寮制の高校などの「寮費」は含まれます。

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