弁護士雑感

2020/05/22 弁護士雑感

【弁護士雑感】民事執行法改正について

 令和元年5月17日に民事執行法が改正され、令和2年4月1日から施行されました(一部を除きます。)。かかる改正手続きは我々弁護士としても非常に有難い改正ですので、是非とも皆様と情報を共有したく、少し書かせて頂きたいと思います。

 まず、一般的な債権回収の手続に関して、簡単に御説明をさせて頂くと、最初に(1)当事者間で示談交渉を行い、当事者間のみの話合いでは纏まらないような場合には、次に(2)裁判所に訴訟提起を行って、裁判官を交えての話合いを行い(和解手続)、それでも和解に至らない場合には(3)判決となります。そして、判決が確定しても債務者が任意に支払いしてこない場合には、最終手段として(4)裁判所に対し、債務者の財産に対する強制執行の申立てをすることになります。

 ところが、この(4)強制執行の申立てに関しては、債務者の如何なる財産に対して強制執行をするのか、特定する必要があるため、例えば、債務者の財産に強制執行をしたくても、債務者の保有する財産が特定できず、強制執行できないというケースが多々あります。そのため、時には高額の探偵費用を支払ったりするなど、債権者が債務者の財産調査をする所から始めなければならないということが往々にしてあったわけです。

 

 しかし、民事執行法の改正により、債務者の財産を調査する手続きが大幅に拡充され、債権者の上記負担が大幅に軽減されることになりました。

 以下、どのように改正されたのか、解説致します。

 まず、債務者による財産開示手続きが見直され、強化されました。

 これまでも債務者を裁判所に呼出し、そこで債務者に自身の財産状況について陳述させるという手続き自体はあったのですが、執行力のある公正証書や調停調書などの債務名義では利用できない等、当該手続きを利用できる申立権者は非常に限定されていました。

 しかし、改正後はそれらの限定は無くなり、また、正当な理由なく債務者が呼出しに応じなかったり、虚偽の陳述をした場合の罰則についても、改正前には無かった懲役刑(6月以下または50万円以下の罰金)が含まれるなど実効性が非常に強化されました。これによって、債務者は嘘の話をすると刑事罰を科せられる訳ですから、財産隠しをするハードルが極めて上がり、強制執行の実効性が高まったと言えるかと思います。

 次に第三者からの情報取得手続きが新設されました。

 改正前は、我々弁護士は、債務者の預貯金債権や上場株式、国債等を特定するためには弁護士会の照会手続を利用していたのですが、全店照会に応じるか否かは各金融機関によって異なるため、実効性に欠けていました(全店照会に応じてもらえない場合は、各支店ごとに照会をかける必要があり、かなりの労力を要していました。)。

 しかし、改正後は、裁判所からの第三者に対する情報提供命令という形によって、「本支店全部の預貯金情報」に応じて頂くことが可能となりましたので、これまで実務に携わり、債務者の金融資産を特定する作業の困難性を知っている身としては、かなり有難い改正ということになります。

 また、かかる情報取得手続きにより、市町村に対する「給与債権(勤務先)」の情報を取得したり、登記所に対して債務者の保有する土地・建物に関する情報を取得することができるようになりました(ただし、給与債権については債務者の生活に与える影響が大きいことから、差押の必要性が特に高い請求権(扶養などの義務に係る請求権と人の生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権)に限定されており、不動産情報についてはシステム構築に時間を要するため、現時点では施行されていません(公布から2年と定められています。)。

 昨今、子どもの養育費の不払いが社会問題化しておりますので、養育費の支払いを求めて法律事務所に御相談に行かれた方も大勢いらっしゃるかと思います。その際、これまでは弁護士から「相手が任意に支払ってこない場合、相手の給料や財産を差し押さえることになりますが、相手の勤務先や預貯金口座が分からない場合は、財産調査に相応の費用が掛かることになります。」との説明を受け、もしかしたらそれで諦めてしまった方もいらっしゃるかもしれません。そのような場合でも、今一度、こういう制度ができたことを契機として、法律事務所の門を叩いて頂くと宜しいかもしれません。

〈弁護士 松隈 貴史〉

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