弁護士雑感

2020/04/20 弁護士雑感

【弁護士雑感】新型コロナウイルス感染拡大の裁判への影響について

1 先日、大阪府を含む7都道府県を対象として新型コロナウイルス感染拡大を受けて緊急事態宣言が出され、その後対象区域が全国へと拡大されるなど、新型コロナウイルス感染のリスクはいまだ高いものとなっています。

 裁判所においても、緊急事態宣言を受けて予定されていた裁判期日の取消と延長がなされるなど、対応がとられているところではありますが、現在裁判を抱えておられる方々にすれば、今後延期された裁判手続きなどはどうなるのかというところも、決して軽視できない関心事項ではないかと思います。

 そこで、今回はこの点について少しお話とご説明をさせていただこうと思います。

2 民事事件・家事事件について

 緊急事態宣言を受けて、すでに裁判期日の決まっていた民事事件・家事事件については原則として全部の期日指定が取り消され、延期されることになっています。

 また、具体的な延期後の裁判期日ですが、裁判所でも対応に手を取られていると思われることや、そもそも緊急事態宣言が当初の見込み通り5月6日で終了するのかが確定しているとは言えないことなども影響していると思われますが、大阪地方裁判所管内においては4月20日現在において、延期後の裁判期日の調整の連絡などほぼなされていません。

 もっとも、5月7日以降に裁判期日が予定されていた事件も相当数あり、延期された裁判期日は基本的にはその隙間に割り込む形での期日調整を余儀なくされることからすると、通常2か月から3か月程度は後ろにずれ込むことが多いのではないかと予想しております。

 なお、保全事件(仮差押えなど)や人身保護等の緊急性の高い事件については個別に判断するものとされており、これらについては感染防止措置を十分に取ったうえで、個別に期日を開くものと見込まれます。 

 これらは当初緊急事態宣言の出された7都道府県管内における対応でしたが、今回の緊急事態宣言の全国への拡大を受けて、全国の裁判所で同様の措置が取られるものと思います。

3 刑事事件や少年事件においては、「個別に対応する」ことが原則となっているようですが、もっと具体的に言えば勾留や観護措置決定などで、「身柄が拘束されている」事件についてはできる限り予定通りに期日を開き、そうでないいわゆる在宅事件においては期日指定の取消と延期がなされることもあり得るのではないかと思われます。

 これは、身柄が拘束されている事件においては、被疑者被告人においても「早く裁判を受け、できるだけ早く身柄が解放されて社会復帰したい」という希望があり、その場合には「迅速な裁判を受ける権利」というものがより強く観念されるためです。

 ただ、例え身柄拘束がなされていない被疑者被告人においても、迅速な裁判を受ける権利というものは、民事事件の場合よりも刑事事件の場合に強く意識されるものであることからして、「身柄拘束がない場合には期日は延期される」と安易に言えるようなものではなく、「期日延期もあり得る」というような程度ではないかと思います。

 また、勾留中の被疑者や、観護措置中の少年に関しては、通常「勾留満期まで」「観護措置期間中」に起訴や少年審判を開く必要があります(そうでなければ勾留期間切れで釈放し、その後は在宅で捜査を行うということになります)ので、このような法律上の身柄拘束期間からくる要請というものも影響してくるものと思われます。

4 なお、新型コロナウイルスの影響で刑事裁判期日が延期され、被疑者被告人の方にとって裁判期日の延期により、後に懲役刑が課せられた場合にトータルの身柄拘束期間が不当に長期化しないように、起訴後の勾留期間については一定の限度ですが「未決算入」というものがあります。

 これは別に新型コロナウイルスの感染拡大などを受けて特別に設けられた制度ではありませんが、通常裁判に必要な期間を超えた勾留期間については「未決算入期間」として懲役刑などの期間から控除する(具体的に言えば懲役1年、未決算入期間が1か月の場合、宣告刑は懲役1年ですが未決勾留期間1か月が算入され、実際の服役期間は11か月となります)というものです。

 そのため、このような未決算入を考慮すると、刑事裁判においても懲役刑(特に実刑)に処せられる場合には、期日延期による身柄拘束期間の延長というものは、一応の配慮がなされるものということもできます。

 そのため、もしかすると有罪が確実視され(例えば自白事件で、被告人側も罪を認めている)、実刑が確実視されるような(同種前科が複数あるなど)場合には、「結局は未決算入で配慮されるのだから、延期しても被告人に不利益はない」と判断されて、裁判期日指定が取り消され延期されることもあり得るのかもしれません(もしかすると・・というのは、自白事件や同種前科が複数ある場合でも、「あくまで見込みや予想」としては格別、判決内容については未定であるというのが疑わしきは被告人の利益にの原則からの当然の要請だからです)。

5 このように、現在裁判所においても予定されていた裁判期日が延期されるなど混乱が生じており、特に代理人を付けずに訴訟を行っておられる方は、状況がよく分からず不安を感じておられるかもしれません。

 上記のうち、期間的な予想や刑事事件における個別の取り扱いの考慮事情などは、あくまで当職の予想に過ぎませんが、おおむねの参考にしていただき、裁判所からの連絡をお待ちいただければと思います。

〈弁護士 溝上宏司〉 

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