弁護士雑感

2020/03/17 弁護士雑感

【弁護士雑感】盗撮について

 毎日のようにニュースでは、スマートフォンによる盗撮の事件が報じられており、当職もその様な被害に遭われた方からの御相談をお受けすることが増えてきました。そこで、今回は盗撮について少し書いてみようと思います。

 「盗撮」と聞くと、多くの方は「犯罪」であると想起される方が殆どだと思いますが、では実際、どういう罪が成立するのかについては知っている人は少ないのではないでしょうか。

 そもそも、「盗撮罪」という罪名は存在せず、盗撮行為については、基本的に各都道府県が定める迷惑防止条例(正式には「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」と言います。)という条例によって、「正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為の内、通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影する行為」をした場合に該当するとして、罰せられる可能性があります。

 従来、迷惑防止条例は、主に駅や電車などのいわゆる「公共の場所」における盗撮行為を取り締まりの対象としていましたので、「住居」などのプライベート空間での盗撮行為は処罰の対象外とされていましたが、近年、スマートフォンなどの普及に伴い、その様なプライベート空間における盗撮行為が数多くの被害者を生んでいるという現状に鑑み、平成30年には東京都が「住居」などのプライベート空間における盗撮行為についても処罰の対象とすることを明文で定め、京都府などの各自治体も同条例を改正して規制強化に乗り出しています。

 では、現状、迷惑防止条例の対象にはならない盗撮行為には、如何なる罪も成立しないのかというと、当然そういうことはなく、軽犯罪法が、「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」(軽犯罪法1条23号)について、「左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。」と定めており(軽犯罪法1条)、「盗撮」はのぞき見に該当すると判例が判示していますので、軽犯罪法によっても処罰の対象となり得ます。

 近年では、盗撮するための機器が進化しており、当職も「こんなもので盗撮できるの??」と驚くことが多々あります。

 このような機器は誰にでも容易に手に入ることから、恐らく現時点で報じられてる盗撮被害というものは氷山の一角であると思いますが、実際に盗撮被害に遭われた方の話によると、事件以来、絶えず自分は盗撮されているのではないかという不安で落ち着くことが出来ず、また、自身の画像等がネット上に拡散されているのではないかという不安も絶えずあり、精神的に強いストレスを抱えた状態での生活を余儀なくされているということを話されていました。

 そして、盗撮においては、被害者の方の精神的苦痛が非常に大きいというだけではなく、上記の通り、犯罪として逮捕されることもありますので、今まで築かれてきたものを一瞬にして全て失う事態にも発展しかねません(昨年12月に、自宅に呼んだデリバリーヘルス(派遣型風俗店)の女性(23)をスマートフォンで正当な理由なく撮影した疑いで、兵庫県在住の男性が逮捕されています。)。

 盗撮というのは、身近にある機器で簡単に行うことができますので、安易な気持ちでついやってしまいたくなることもあるかもしれませんが、その様なときは、本雑感を思い出して頂き、何とか思い留まって頂ければ幸いです。

〈弁護士 松隈貴史〉

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