弁護士雑感

2019/10/01 弁護士雑感

【弁護士雑感】当事務所代表と岩上安身氏の裁判について

 先月12日に、当事務所の代表である橋下とジャーナリストの岩上安身氏(以下、「岩上氏」といいます。)との間の裁判の判決があり、色々とメディアにも取り上げられていますので、そちらについて当職の思うところを少し書いてみようと思います。

 本事案の概要は、平成29年10月、岩上氏がある人物の「橋下徹が30代で大阪府知事になったとき、20歳以上年上の大阪府の幹部たちに随分と生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだことを忘れたのか!恥を知れ!」との内容のツイートを何のコメントも付さずにリツイートしたことを受けて(その後削除されています)、当事務所としては、かかるツイートにある「橋下徹が30代で大阪府知事になったとき、20歳以上年上の大阪府の幹部たちに随分と生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだ」との内容は真実ではなく、橋下の名誉を毀損するものであると判断し、不法行為に基づく損害賠償を求めました。

 それに対して、岩上氏からは、このような訴訟提起は言論封殺を目的としたスラップ訴訟であるとして、反訴提起が行われました。

 判決は、岩上氏の上記ツイートをリツイートする行為は名誉毀損に該当し、真実であると信ずる相当な理由も認められないとの理由で、名誉毀損の成立を認め、岩上氏に対して33万円の支払いを命じ、一方で、岩上氏の反訴提起については棄却しました。

 現在、岩上氏からは、控訴がされておりますので、上記裁判は今後、大阪高等裁判所において審理が継続することになっています。

 本件裁判期間中、岩上氏は本件訴えに対し、「橋下徹氏のスラップ訴訟!『請求原因は世界一ちっぽけでギネスものだが言論の自由への侵害はきわめて大きい』」との批判を繰り返されていました。

 岩上氏には岩上氏の信念と正義があり、本件訴えに対し、徹底抗戦されること自体は当然のことかと思いますが、ただ、「ワン・リツイートというちっぽけな請求原因」という主張だけは岩上氏の立場に鑑みても到底理解できるものではありませんでした。

 例えば、実際に巷にありふれている事件ですが、ある学校内において、一人の生徒が、自分の気に食わない生徒の悪口をツイートし、それを面白がって他の生徒がコメントも付さずに単にリツイートして拡散したという場合、非難されるべきは最初にツイートした生徒だけでしょうか。非難されるべきは、最初に悪口をツイートした生徒だけでなく、それをリツイートした生徒たちも含まれるべきではないでしょうか。

 リツイートをする側は、特に意味なくやっていたとしても、拡散された被害者の側にとっては、悪口が拡散されることによって、取り返しのつかない心の傷を負うことがあるのであり、SNSが普及した今日において、それは決して他人事の話ではありません。

 そういう意味では、「ワン・リツイートというちっぽけな請求原因」という主張は、あまりに規範意識が欠如した主張であるように思います。

 なお、先日、「この判決によって、気軽にリツイートができなくなった。」といった内容の記事を見つけました。

 確かにリツイートというのはチラシを配るなどの方法とは異なり、指先一つで簡単に行うことができます。しかし、読み手の側からすれば、リツイートされたツイートを読むのも、配布されたチラシを読むのも、何ら変わりはありません。

 当職としては、気軽にリツイートできる環境を守ることより、気軽に他者の名誉を毀損できない環境を守る方が遥かに大切な気がします。

 皆様はこの判決を読んで、どのようなお考えをお持ちになられるでしょうか。

 

                           〈弁護士 松隈貴史〉

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