弁護士雑感

2019/05/27 弁護士雑感

【弁護士雑感】位置情報アプリの無断ダウンロードについて

 先日、知人から、「知り合いの子が位置情報アプリを勝手に入れられていたらしく、どうしたら良いか、分からなくて困っている。」との相談がありました。この様な行為が社会的に問題になっていることは、メディア等でもよく取り上げられていますので、ご存知の方も大勢いらっしゃるのではないかと思いますが、実際、この様な行為にはいかなる法的問題点があるのか、少し書いてみたいと思います。

 まず、端的にいうと上記の様な位置情報アプリを、他人のスマートフォンに本人に無断でダウンロードしたような場合、あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、不正指令電磁的記録供用罪(刑法168条の2第2項)という罪(※)が成立することになります(なお、アプリを利用して、相手になりすまして、サイトにアクセスしたりすれば、不正アクセス禁止法という法律にも反することになります。)。

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※<不正指令電磁的記録作成等罪の条文(刑法168条の2)>

第百六十八条の二 正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録

二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録

2 正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。

3 前項の罪の未遂は、罰する。

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 刑罰としては、「三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」が科せられる可能性がありますので、決して軽い罪ではないことは御理解頂けるかと思います(過去には、妻のスマートフォンに妻に無断で位置情報提供アプリをダウンロードした夫が不正指令電磁的記録供用罪の嫌疑で逮捕されています。)。

 

 では、勝手に自分のスマートフォンにこの様なアプリがダウンロードされていた場合はどうすべきなのでしょうか。

 まず、上記のとおり、かかる行為はれっきとした犯罪行為ですので、警察に相談するということが真っ先に思い浮かばれるかと思います。

 勿論その選択は何ら間違いではないのですが、ただ、私の経験上、恐らく本人が認めている等の余程の事情がない限り、警察が本格的に動いてくれるという事態は凡そ期待できないかと思います。仮に、「勝手にダウンロードされた」と言って警察に相談しても、ご本人に無断でダウンロードまでできる人物というのは、裏を返せば御本人の身近な人物であることが多く、そうすると、相手から、「本人の同意を得てダウンロードしました。」などと弁解されてしまうと、水掛け論に終わる可能性が非常に高く、「正当な理由なく」との要件を立証することは極めて困難となるためです。

 今後、行為がストーカーなど別の犯罪行為にエスカレートする危険性もあるため、警察に相談の痕跡を残しておくという意味では、警察には一応相談しておくべきかと思いますが、何か対応してくれるものと期待していくと、肩透かしを食らう可能性が極めて高いということは頭に入れておいて頂きたいと思います。

 したがって、まずは警察に行かれるよりも前に、事態を正確に把握するために、スマートフォンを購入した販売店などに御相談に行かれるべきかと思います(IPA(情報処理推進機構)という独立行政法人が電話での相談も受け付けているようです。)。

 現代において、電子機器は驚くほどのスピードで機能が進化し、一昔前には想像もつかなかったことができるようになってきましたが、利便性が上がる反面、少しでもそういった情報に乗り遅れると、それらを利用した犯罪の被害者になってしまう可能性が高くなり、その意味では、情報の収集に気が抜けない非常に恐ろしい時代になってきたなと感じる今日この頃です。

 比較的若い世代の方は、そういった情報を敏感に吸収される能力に長けていると思いますので、御家族の誰かがそういった犯罪に巻き込まれないためにも、御家族で情報を共有し合うように努めて頂ければと思います。

 最後に、たまに浮気調査のために、この様なアプリを相手のスマートフォンにダウンロードしたいのですが、やっても大丈夫ですかと質問されることがあるのですが、この様な方法は上記の通り犯罪になってしまいますので、決して行われない様にお願いします(仮にその様な方法によって得られた証拠を裁判所に提出しても、「違法収集証拠」として証拠能力が否定される可能性があります。)。

〈弁護士 松隈貴史〉

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