2018/08/27 弁護士雑感
【弁護士雑感】富田林署の被疑者逃亡について
大阪の富田林署で勾留中の被疑者が逃亡するという前代未聞の事件が発生し、2週間以上が経過していますが、未だ被疑者は捕まっていません。そこで、今回はこの事件について、少し書いてみようと思います。
刑法は、下記のとおり、第六章(第97条~第102条)において、「逃走の罪」を規定しています。
第六章 逃走の罪
(逃走)
第九十七条 裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者が逃走したときは、一年以下の懲役に処する。
(加重逃走)
第九十八条 前条に規定する者又は勾引状の執行を受けた者が拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊し、暴行若しくは脅迫をし、又は二人以上通謀して、逃走したときは、三月以上五年以下の懲役に処する。
実務的にこの罪を犯した被疑者・被告人の方の弁護をするのは極めて稀であるかと思いますし、私も経験がなく、私の知人の弁護士で経験をしたことがあるという方もいませんでした。最近、刑務所から受刑者が逃げ出した等というニュースもありましたが、やはり事件の絶対数としては、圧倒的に少ない事件であるといえるかと思います。
なお、この章の罪は、犯行の主体が限定されているのが非常に特徴的です。というのも第97条には、「裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者」とあり、これは、刑事事件の裁判が確定した者と刑事事件の裁判が確定するまでの間に勾留されている者を指しているため、逮捕状により逮捕された者は含まれないと解されています。そして、第98条では、「勾引状の執行を受けた者」が追加されており、これには逮捕状で逮捕された者も含まれると解されているのですが、第98条では器具の損壊や、暴行強迫をすることが要件として定められているため、単に、逃亡しただけでは本条の適用はありません。
したがって、例えば、逮捕状をもって逮捕された者が、単に逃げた場合は何らの罪も成立しないことになるため、私としては司法試験受験生の時から何故この様な規定になっているのか疑問に思っていましたが、正直、未だに理解できないところではあります。
話は戻って、本件の罪の場合は、報道によると、既に勾留されていた被疑者が、接見室にある被疑者と面会者とを隔てているアクリル板を壊して逃走したとのことですので、「裁判の執行により拘禁された未決の者」が、「拘束のための器具を損壊」したとして、第98条加重逃走の罪が成立するという事になります。
ネット上では、弁護士が悪い、警察官が悪い、など様々な意見が飛び交っていますが、そもそも、私としては、接見室の被疑者との境界であるアクリル板がそれほど容易に破壊できるものだったということに非常に驚きました。刑事弁護をしていて、犯罪を行った事実自体には争いがないような事件では、被疑者に対して強く反省を促したり、時には喧嘩になることも多々あり、私も経験上、被疑者であった元暴力団組員の方とかなり言い争いになったこともあるのですが、あのアクリル板がそれほど容易に破壊できるものだと知っていれば、少し対応は変わっていたかもしれません…。
ただ、今は何よりも、犯人逮捕に全力を尽くして頂きたいと思います。
この被疑者の被疑事実には、強制性交等の罪があり、強制性交等の罪は常習性が極めて高い犯罪です。この被疑者も次に捕まれば、かなり重い罪が科せられることも理解しているでしょうから、これを最後とばかりに好き勝手に罪を犯したとしても何ら不思議はありません。
特に女性の方は夜には一人で出歩かない、周囲に絶えず目を配るなど、最大限の注意を払って行動頂きたいと思います。
〈弁護士 松隈貴史〉