2018/01/29 弁護士雑感
【弁護士雑感】所有者不明の土地というもの
近頃、長期にわたって登記がされず、所有者が不明となっている土地についてその解決のための法整備が進められているという趣旨の報道などがありました。
素朴な感情としては「土地は基本的に欲しがる人が多いものであって取り合いになることはあっても所有者不明になることなど珍しいのではないか」という感想をお持ちになられる方も多いことかと思いますが、少しこのことについて書いてみようと思います。
1 所有者が不明または所有関係が不明確な土地の存在について
一般に、土地というものは資産価値が高いと考えられており、そのような土地についてはいわゆる「取り合い」になることはあっても「押し付け合い」や「帰属不明」になることはあり得ないか、あるいはあっても非常に珍しいものであると考えられる傾向にあります。
しかしながら、当職が過去にご相談をいただいた事例だけでも、決して少なくないケースで土地(その他の不動産を含む)についてその所有者が不明であるか、あるいは所有関係が不明確となってしまっているものがありました。
一例としてあげますと、父親が亡くなられたので遺産分割協議についてご相談に来られた方で、遺産についての調査を進める過程で「某県下のどこかの場所に『池沼』を所有していたと聞いているし、実際に連れて行ってもらったこともあるが、その場所がどこであるか全くわからない」というお話をいただいたことがあります。おそらくあまり財産摘価値が高くないために親族の誰も詳しく知ることなく、亡くなられた父親本人のみが管理していた不動産だったのでしょうが、今後何かのきっかけがなければ所有者不明の土地(池沼)となりかねないものでした。
その他にも、現在管理使用している不動産についてご親族が権利を主張してきたとのご相談で、登記簿上の所有者がご相談者の3代前の曽祖父のままであるという方もおられました。
詳しくお話を聞くと当該不動産については遺産分割協議などを行ったという記録がなく(というよりそもそも曽祖父・祖父の相続の際に遺産分割協議そのものを行っていない)、法律上は法定相続人全員の共有であると考える外ないものでした。
登記簿上の最終の所有者はご相談者の曽祖父ですので、その後の相続(代襲相続や再転相続を含む)により該当する相続人の人数は少なくとも20名近くに上り、しかもそのうち半数程度とは音信不通という状態でした。
このように当該不動産については「その所有関係が不明確」であると評価せざるを得ないものとなっており、その整理と解決には「大きなトラブルはなかったにもかかわらず」およそ2年半の期間を要しました。
2 このような「所有者不明」ないし「所有関係が不明確」な不動産が現れる原因としては、ひとつには「不動産の所有関係を積極的に調査確認していく行政上の機関や手続きが基本的には存在していない」ということが挙げられるのだと思います。
例えば、不動産に関する登記を管理管轄する法務局の権限が、基本的には申立てられた登記申請についてこれを適式な手続きを踏んでいるかどうかということについては調査するものの、それを超えて真実の権利関係を調査することを含んでいないことや、そもそも現状の登記についてそれが真実の権利関係に適合しているかを主体的に調査する権限まで含んでいないことなどです。
そのため、不動産登記を所轄する法務局としても、当事者からの何らの申立もないままに、独自に登記と実体的権利関係との整合性について調査するなどということは基本的にはできず、またそのような業務は法務局の業務外であるということが出来ます。※1
その他にも、固定資産税などの税金の収税を業務とする税務署などが納税通知書などの送付の関係で相続人や現在の所有者を調査するのではないかとの思いを持たれる方もおられますが、税務署は基本的に登記簿上の所有者に対して納税通知書を送付しますので、相続登記などを適切に行わなければ登記簿上の給与所有者宛てに納税通知書が送付されてきます。
ここで相続人の方々が「おかしいじゃないか」と思われて行動に移していただければよいのですが、往々にしてあるのが「亡くなった父宛てに納税通知書がきたが、納税しなければいけないのだからそのまま父宛ての納税通知書を使って相続人である息子が納税してしまう」というものです。
この場合、税務署としてはきちんと収税が出来ていますので、それ以上何かの手続きをとするということもなく、その後も亡くなられた父宛てで納税通知書を送り続けますし、これに対して相続人の方がそのまま納税し続けてしまうといつまでたっても誰も問題であるということに気づかないということが生じるのです。
3 上記のほかにも所有者不明の不動産が生じる理由というものは様々あるのですが、いずれにしても当職が思う根本的な理由は「所有者不明の土地が生じそうな場合に、これを阻止するための行政上の手続きがないにもかかわらず、税務署や法務局などが行う既存の手続きにおいてそれが解消されるのではないかという誤解があり、かつ所有者不明の土地が生じたとしても個別の具体的な被害(デメリット)が生じにくかったために特に手当する立法などがなされなかった」ことだと思います。
今般、ついに個別の具体的なデメリットを超えた社会的な意味でのデメリットが顕在化してきたことにより立法化の動きが出だしたということは皮肉なことではありますが、問題解決のためには遅すぎるということはありませんので、ぜひ良い方向へと進んでいただきたいと思います。
※1 もっとも、所有者不明不動産の社会問題化を踏まえて、平成29年6月に法務局において「相続登記が未了となっている虞のある不動産」の調査が行われました。ただし、これも最後の登記から50年以上が経過している登記をピックアップしたというだけのものであって、実体的権利関係の調査を行ったものではありません。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00291.html
※2