弁護士雑感

2017/12/25 弁護士雑感

【弁護士雑感】NHK受信料の最高裁判決について

 本月6日に、最高裁でNHK受信料についての判決が出されました。私達国民に直接影響のある重要な判決だと思いますので、今回はこの判決について少し書かせて頂こうと思います。

 巷の報道では、「NHK勝訴」のような見出しが散見されていましたが、最高裁の判決に全て目を通すとNHK側の主張が全て認められているというわけではなく、寧ろ、NHKが一番認めてほしかったと思われる部分は認められなかったのではないかという印象を受けました。

 最高裁は、現行の放送法64条1項本文にある「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」との規定を合憲としたうえで、「放送法64条1項は、受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であり、原告(NHK)からの受信契約の申込みに対して受信設備設置者が承諾をしない場合には、原告がその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によって受信契約が成立すると解するのが相当である。」との判断を示しました。

 要は、受信設備設置者が受信契約の締結を拒否している場合には、NHKとしては裁判を提起しない限り、受信契約を成立させられないため、受信料の支払いについても請求できないということになります。

 これに対し、NHK側は、「原告(NHK)から受信設備設置者への受信契約の申込みが到達した時点で、あるいは遅くとも申込みの到達時から相当期間が経過した時点で、受信契約が成立する」旨の主張をしていました。

 なぜ、NHKがこの様な主張をしていたのかというと、申込などの方法で一方的に契約を成立させることができれば、あとは受信契約に基づいて受信料の支払債務を請求するだけの作業となりますので、支払督促という制度を利用することができるようになるためと考えられます。

 ここに支払督促とは、「金銭、有価証券、その他の代替物の給付に係る請求について、債権者の申立てにより、その主張から請求に理由があると認められる場合に、支払督促を発する手続」(裁判所HP参照)のことなのですが、重要なのは、債務者が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議の申立てをしなかった場合、裁判所は、債権者の申立てにより、支払督促に仮執行宣言を付さなければならず、債権者はこれに基づいて強制執行の申立てをすることができるようになるという点です。

 すなわち、本来、裁判をして判決を得るなどの手順を踏まないと、強制執行まではできないわけですが、支払督促の制度によれば、裁判手続きを省略することができますので、債権回収が非常に容易になります。

 NHKとしては、未払いの受信料について、支払督促による債権回収の方法を最高裁に認めてほしかったのだと思いますが、最高裁は、あくまで「受信契約の成立は裁判によらなければならない。」との判断を示しましたので、そのような債権回収の方法は認められないことになりました。

 当然のことながら、裁判によるとなると、時間も費用もかかるところ、現在受信設備設置者の中で、受信契約を締結していない人は900万人前後いると言われており、全ての未契約者に対して訴訟提起するというのは非現実的な作業といえます。したがって、NHKとしては今後の未契約者との対応について、大きな課題が残る判決となったことはいうまでもなく、今回の最高裁判決を「NHKの勝訴」と評価することは、事実に照らして正しくないように思います。

(ただし、最高裁は、裁判により契約の成立が確定した場合、受信料については、受信契約成立時からではなく、「受信設備設置時点から支払わなくてはならない。」との判断を示しており、また受信料の消滅時効については、「契約成立時から5年間」との判断も示しておりますので、仮にNHK側から裁判を提起された場合には、過去に遡って多額の受信料の支払いを迫られる可能性がありますので、裁判まではされないだろうと考えて、NHKからの要望を一切無視するのは危険かと思います。)

 私としては、NHKの偏向報道が疑問視されている今日、そもそも「公共放送」とは何なのか、その点が漠然としていて不明確なのではないか、また、国民は強制的に受信契約を締結させられるのに、経営陣を監視するためのシステムが整備されていないのはおかしいのではないかとの疑問を抱いています。

 かかる判決を契機として、改めてNHKの存在意義について、国会で議論頂きたいと思います。

〈弁護士 松隈貴史〉

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