2016/01/19 弁護士雑感
【弁護士雑感】非常に人気のある女性タレントのケース
少し前の話ですが、非常に人気のある女性タレントの男女トラブルがニュースになっていました。
これを機会に、「不貞行為」にまつわる俗説について、少し考えてみることにしましょう。
夫婦間で浮気が発覚した場合、大変多い男性側からの言い訳で、「不貞行為のとき既に婚姻関係は破たんしていた」というものがあります。
これは同様に浮気の相手方となった女性(妻ではなく浮気相手)がよく口にする言い訳でもあります。
一般に「不貞行為」について、例えば「夫婦関係が破綻した後の浮気は不貞行為にも不法行為にもならない」(すなわち慰謝料は発生しない)というような理解がなされており、上記のような言い訳はおそらくこのような俗説的な理解を基にしたものであると思われます。
しかし、この俗説的な理解は、ある意味で理屈の上では正しいのですが、往々にして大変危険な誤解を生じさせかねない情報でもあり、注意が必要なものであるということを理解しておくべきといえましょう。
まず、「不貞行為」について細かく考えると、これは婚姻関係にある夫婦が相互に負う「貞操義務」に違反した行為であるということが出来ます。
婚姻関係にある夫婦は互いに相手以外とは男女関係を結ばないという法律上の義務を負っています。これは民法770条1項1号において、不貞行為が法律上の離婚原因をして揚げられていることからの帰結です。
そして、この貞操義務に違反した行為(すなわち不貞行為)は民法709条の不法行為を構成し、法律上不法行為に基づく損害賠償請求権を発生させるというのが最高裁の判例です。
これに対して、婚姻関係がすでに破たんしている夫婦の一方と肉体関係を持ったとしても、不法行為責任は負わないという判例もあります(平成8年3月26日最高裁判決)。これは婚姻関係がすでに破たんしている場合、実質的に見て両名は夫婦と評価する必要がなく、あるいは婚姻関係が破たんしている夫婦の場合、相互に貞操義務を負うことがないので貞操義務違反ということが観念できないと考えられているからです。
このような意味で、 「夫婦関係が破綻した後の浮気は不貞行為にも不法行為にもならない」(すなわち慰謝料は発生しない)ということは「理屈の上では」正しいといえるのです。
ただし、ここには非常に危険な誤解が潜んでいます。
それは「夫婦関係が破たんしていた」かどうかを決めるのは裁判所であり、しかもその判断基準は時として非常に厳しいものがあるということです。
少なくとも、一般の方々が思っているような「家庭内別居状態である」とか「夫婦仲が冷え切っている」とかいうような事情のみでは、裁判所から「夫婦関係が破たんしている」と判断してもらえる可能性は相当低いものであると覚悟する必要があります。
「離婚について話し合っている」という場面であっても、「離婚すること自体は合意済みで慰謝料だとか親権だとかの離婚条件についての協議を行っている」というのであればまだしも、単に「離婚について協議を行っている」というだけでは厳しいかもしれません。
ご自身の判断で「婚姻関係は破たんしていた」ので浮気をしても不貞行為ではないはずだとおっしゃる方が時々いらっしゃるのですが、その判断は泥沼への一里塚という外ないものということになりますので、十分にお気を付け下さい。
<弁護士 溝上宏司>