弁護士雑感

2016/03/09 弁護士雑感

【弁護士雑感】刑事弁護人の活動・役割について

 今回は、よく御質問を頂く刑事弁護人の役割・活動について少々書かせて頂きます。

 「国選弁護と私選弁護の職務内容の違いについて教えてください。国選弁護人は、しっかりと活動してくれないと聞いたことがあるのですが本当ですか」との御質問を受けることがよくあります。

 当事務所のHPにも記載されているとおり、当事務所の弁護士は私選弁護人としても刑事弁護活動をさせて頂いておりますが、国選弁護人としても活動しています。

 では私選弁護人と国選弁護人とは職務内容にどのような違いがあるのでしょうか。

 答えは端的に言って、私選弁護人も国選弁護人も刑事弁護人としてやるべき職務内容に特段違いはありません。したがって、仮にしっかりとした弁護活動をしてくれない国選弁護人がいたとしても、それは「国選弁護人だから」という理由ではなく、単に当該弁護人の能力や仕事のやり方の問題ということになります。

 なお、国選弁護人の能力や仕事のやり方に不満がある場合であっても、原則として別の国選弁護人と交代させる事はできませんので、その際には、私選弁護人を御自身でお探し頂く事になります。

 次に、「刑事弁護人から示談の申出があるが、示談には応じた方が良いのでしょうか」といった御質問もよく頂きます。

 一般的には、刑事弁護人は「加害者の味方」というイメージが非常に強いかと思いますので、加害者側の弁護人から、「示談の話がしたい」などといきなり連絡が来ると、どう対応すれば良いのか心配になるのは無理からぬことかと思います。

 確かに、刑事弁護人に「加害者の味方」という側面があることは否定し得ない事実です。ただし、刑事弁護人が刑事裁判を終えてその任から離れてしまうと、被害者が加害者に対して損害賠償を求める場合、自身で直接加害者に対して請求をするか、新たに代理人を立てて請求するかの二択を迫られることになります。そして、直接的に加害者に対して請求する場合には精神的な負担が、代理人を通して間接的に請求する場合には金銭的な負担がそれぞれ生じることになります。そのため、そのような負担があることから請求は先延ばしにされがちであり、結局、加害者に対して何も請求しないままに、損害賠償請求できる時効期間を過ぎてしまうという事態が散見されます。

 刑事弁護人が提示してくる示談内容については、御納得がいかなければ拒絶することも当然可能です。無理してまで示談交渉に応じて頂く必要は全くありませんが、いずれ損害賠償請求されたいとのお考えをお持ちなのであれば、刑事弁護人からの示談の申出については、家族と一緒にでも構いませんので、話だけでも聞いておかれると良いと思います。

 最後に、これは御質問というより、刑事弁護人に対するクレームに近い形で、「あんな悪い奴の弁護をする必要があるのか」と御叱りをうけることがあります。

 確かに私自身も、弁護士になるまでは、犯罪者を庇うなんて許せないと考えていた時期もありましたので、そのようなお怒りの胸の内は十分に理解できるところです。

 ただ、知っておいて頂きたいことが一つあります。例えば殺人等の凶悪な事件については、刑事訴訟法において、必ず被告人のために弁護人をつけなければならないと定められているということです。

 弁護士も人間です。目を覆いたくなるような悲惨で凶悪な事件を前に、当該事件の犯人の弁護をするということに一切の抵抗が無いという弁護士は恐らく一人もいません。しかし、多くの弁護士は、事件に対して抵抗を感じながらも、弁護士としての使命を優先し、刑事弁護人としての職務を全うしているというのが現状かと思います。

 このような視点は、心の片隅にでも置いておいて頂ければと思います。

 <弁護士 松隈貴史>

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